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冬馬君は天秤が傾き……

冬馬君は彼女の家に行く

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 さて、あれから日にちが経ち、土曜日を迎える。

 惹かれているのかもしれないが、学校では相変わらずの生活だ。

 もちろん、今日も特にアクションを起こすつもりもない。

 まだ、俺の天秤は傾いていないはず……。

 俺は専用のケースに本体を詰め、バイクに乗り家を出る。

 バイクなら10分程度で着く距離だったから、まあ楽ではあるな。

 ちなみに、妹に友達の家に行くと言ったら驚かれた。
 そして茶菓子を渡された。
 お兄!貴重な友達なんだから、失礼のないようにね!とのことだ。
 相変わらず、出来た妹である。

 そんなことを考えていたら、あっという間に到着する。
 インターホンを押し、そのまま待つ。
 すると、ドタバタと音がして、清水が玄関のドアを開けて出てきた。

 家の中だというのに、髪は綺麗に整えられている。
 ほんのりと、化粧もしていそうだな。
 洋服も、白のVネックセーターに赤のミニスカートをはいている。
 一言で言えば、殺しにきている格好だな。
 悔しいことに、めちゃくちゃ可愛いがな……。
 しかも、おそらく俺のためにだな……。

「い、いらっしゃい!吉野君!」

「……ああ、お邪魔します」


 俺は冷静を装い、家の中に入る。

「あ!冬馬さんだ!こんにちは!」

「お、誠也か。こんにちは」

 俺はまず手洗いを済ませ、リビングに案内される。
 20畳ほどの広さだろうか?
 キッチンと一体化したタイプのリビングだな。
 確かに、デカイテレビが二台並んでいる。

「ああ、清水。とりあえず、これ。妹からだ」

「え?わあ!お菓子だ!私の好きなやつ!ありがとう!」

 なんだ、この可愛い生き物は……?
 満面の笑みを浮かべてやがる……!
 高まるんじゃねえ!俺の心臓!!

「冬馬さん!早くやろうよ!」

「…….そうだな、そっちのが冷静になれそうだ」

 俺はゲーム機を取り出し、セッティングをする。
 起動して、3人並んでソファに座り、ゲームを始める。
 ……隣から、めちゃくちゃ良い匂いがする……!
 いかん!今はゲームに集中!
 でないと、ゲームに失礼だろ!

「わー!すごい!冬馬さんのハンターのレベル高い!」

「ふふふ、そうだろう?ソロであげるのは大変だった……」

 いや、これほんと大変だった……。
 素材集めとかなら集団でも良いのだが、緊急依頼はソロでクリアしたかったからな。

「へー!吉野君、凄いんだね!」

 清水は前のめりになって、画面を見ている。
    ……綺麗なうなじと肩をしているな。
 ……ダメだ!見るんじゃない!

「ねえねえ!僕好きなの受けて良い!?」

「ああ、良いぞ。だが、俺はフォローに徹する。倒すのは、誠也自身でだ」

「うん!わかった!」

 俺は装備と道具をお助け用にし、誠也とゲームを始める。

「わわっ!どうしよう!?」

「落ち着け!そいつはパターンがある!俺が回復してるから、じっくり観察しろ!」

「うん!ありがとう!」

「……吉野君、凄い。一回もくらってない……」

「まあな、こいつのパターンは知っているからな」

 俺は、コントローラーのボタンを押しながら答える。

「えへへ……楽しい」

「ん?何がだ?」

「んー、そもそも吉野君がいること!あと、ゲームしてるの見るの好きだから」

「あー、なるほど。清水は、そういうタイプか」

 たまにいるよな、やるより見るのが好きな人。
 特に今は、実況とかも流行っているしな。

「うん!後、静かに本を読むのも好きかな」

「そうか、それは俺も同じだな」

「え?そ、そうなんだ……嬉しい」

「お、おう……」

 い、いかん!これはいかん!
 ゲームに集中……!
 誠也は、こんなにも集中してるではないか……!

 そして、ボスモンスターを無事に倒すことができた。
 もちろん、誠也を一回も死なせてはいない。
 そんなことは、俺の矜持が許さない。

「凄い!倒せた!冬馬さん、ありがとう!」

「いや、誠也も上手かったぞ?良い立ち回りだったな」

 実際、9歳ということを考えたら上手いほうだろう。

「ほんと!?あのね!……欲しい装備が……」

 誠也は、少し言いづらそうにしている。
 まだ幼いのに、気を遣っているな……。
 少し前の、妹の麻里奈を思い出す……。

「良いよ。どれだ?一緒に集めよう」

「え!?いいの!?えっと!あれとこれと!」

「まあ、落ち着け。今日は、時間をとってある。好きなのを受けるといい」

「ありがとう!」

 誠也は、どれからかな?と言いながら、考えているようだ。

「吉野君、ありがとね。姉として礼を言います」

「頭を下げることないさ。俺が決めて、自分でしていることだ」
  
 母さんが死んで家に帰りたくない時、まだ大学生だった真司さんが、俺の気がすむまで遊んでくれたんだよな……。
 今思うと、こんな気持ちだったのかな……。

「ふふふ……でた、吉野君の得意技」

「ん?何がだ?」

「人に、気を遣わせないような言い方をすること。凄く良いと思う」

「……そんなつもりはないが……」

 そして誠也の装備集めが終わって、少し休憩にする。
 ゲームは最長でも二時間!そしたら休憩!これが持論である。
  ゲームに罪はない、悪いのは使う人間だ。

「じゃあ、お菓子出すね!」

 清水が、お茶とお菓子を用意してくれるようだ。
  俺と誠也は、テーブルの席に着く。

「お、お姉ちゃん、大丈夫かな?」

「ん?どういうことだ?」

「お姉ちゃん、たまにポンコツだから……」

「そうなのか……まあ、完璧な奴なんかいないわな」

 そしてお茶をお盆に乗せて、清水がやってくる。
 俺は万が一に備え、一応構えておく。
 するとキッチンからでた瞬間、清水がよろける!

「きゃっ!!」

「危ねえ!!」

 俺は瞬時に判断して、お盆と清水を受け止める!

「フゥ……なんとか間に合ったか……」

「あ、ありがとう……」

「もう!お姉ちゃん、だから言ったのにー」

「ご、ごめんね。吉野君も、ごめんなさい」

「気にするな、怪我がないならいい。女の子が火傷でもしたら大変だ」

「は、はい……あの……」

「おっと、すまん」

 俺は、肩を抱き寄せた形になってしまっていた。
    その際に、何か柔らかいものが当たったが気にしてはいけない。
    いけないったら、いけない……!

「ううん、いいの……」

「お姉ちゃん、顔真っ赤だねー」

「そ、そんなことありません!」

「いや、説得力ないから。真っ赤だから」

「吉野君まで……もう……」

 その後お菓子を食べて、ゲームを再開する。

 そして、夕方になり帰ることになる。

「あの、冬馬さん……」

 ……仕方ないよな……まあ、俺も楽しくなかったといえば嘘になる。

「いいよ、また遊んでやるよ」

「え!?いいの!?」

「ああ、毎週は無理だが……男と男の約束だ」

「ありがとう!冬馬さん!」

 そして玄関の外まで、清水が出てくる。

「今日はありがとね、吉野君」

「いや……良いさ。俺も楽しかったし」

「そう……えへへ、良かった。後、これ……」

「ああ、パーカーな。あいよ」

「それも、ありがとうございました」

 律儀に頭を下げてくる。

「気にするな。後、気をつけるんだな?意外と、ポンコツのようだからな」

「え?え?……う、うん、気をつけるね……」

 俺はバイクに乗り、清水家を出る。

 ……らしくないことを言ったな。

 いかんな……調子が狂う。

 俺は案外、楽しかったようだ……。

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