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冬馬君は静かに過ごしたい

冬馬君は借りを返し、自覚する

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 ピピピと、目覚ましの音が聞こえる。

「朝か……それにしても、昨日は濃い1日だったな……」

 学校で清水に正体がバレて、バイト先までバレてしまった。

 あれ?これって不味くない?詰んでない?

 しかも、よくよく考えたら……家に行く約束してるし……。

 誠也の家ってことは、清水の家ということだ……。

 メールも来たので返したが、返信の返信はなかったな……。

 正直、好感度が高い……よくいないか?

 疑問形でひたすら返す奴……だが、清水はそんなこともない。

 なんか振り回されている気がする……が、不思議と嫌ではない。

 ハァ……調子が狂うな。

「お兄!早く!遅刻するよー!」

「やれやれ、我が妹は朝から元気なことで……」

 朝の支度をすませ、食卓につく。

「いただきます」

「いただきます」

「お兄、昨日は大変だったね」

「うん?ああ、そうだな。まあ、そういう日もあるさ」

 麻里奈には、バイトが長引いたと言ってある。
 その際に急いで帰ったので、パーカーも忘れたとも。
 隠す必要があるわけではないが、面倒くさいことになるからな。

「冬馬、バイトもいいが……」

「わかってるよ、中間テストも近いことは。まあ、しっかりやるよ」

「そうか、まあ平気か。だがな、お父さんはそれなりにお金はあるんだぞ?無理に、バイトしなくても……」

「いや、続けるよ。親父の金を、自分の趣味に使うことは主義に反する。もちろん、バイトできない年齢なら仕方ないけど」

 好きな作品とかには、自分で稼いだお金で貢献したいからな。
 当たり前の話だが、好きな作品は中古品などでは買わないと決めている。

「そうか……嬉しいやら、寂しいやら……複雑だな」

「あのね!私も高校生なったらバイトする!」

「許さん!男が寄ってくるではないか!」

「そうだぞ、麻里奈?ハイエナが群がってくる」

「むー!過保護すぎる!」

 こればかりは、親父と俺の意見は一致する。
 我が家のお姫様だからな。

 そして親父を見送った後、俺も家を出て学校へ向かう。

 電車に乗り、ネット小説を読もうとしたが……。

「よう、冬馬」

 そこには、神崎暁人がいた。
 さすがに、今日は邪険には扱えないな。

「アキか……昨日は悪かったな」

 すると、肩を組んできた。
 そして、何故か女子から歓声が上がっている。

「気にすんなよ、マブダチだろ?」

「………」

 我慢、我慢だ……!
 俺の主義に反する……!
 借りを作ったのなら返す……!

「まあ、そう嫌な顔するなよ。たまには、女子にサービスしないとな」

「は?どういう意味だ?」

「お前は、相変わらずそういうのには鈍感だよなー……さて、では借りを返してもらおうかなー?」

「……出来る限り、善処する」

「いや、大したことじゃないさ。今日、お前の家行っていいか?」

「ん?……何を企んでる?あれか?妹に手を出す気なら……」

「いやいや、俺だってまだ死にたくないから。まあ、ただの友達としてだよ。俺、ただでさえ男友達いないのに、お前がそんなんだしさ……」

「それについては悪いとは思っているが……男友達ができないのは、お前が女子とばかりいるのが原因だからな?」

「あらら、バレたか。でも、しょうがないじゃん。俺モテるし、女の子は可愛いし」

 ……なんで、こいつと友達やっているんだろうと思ったこともある。
 だが、こいつは女の子を理不尽に泣かさない。
 二股とかもしないし、彼女ともきちんと綺麗に別れる。
 それに……こいつだけだったんだ……。
 俺が変わっても、態度が変わらなかった奴は……。

「そうかよ、いいご身分で。わかった、ただし……」

「わかってるよ、一緒には帰らない。後から、行くさ」

「なら、いい。ではな」

 俺は、再び読書に戻る。





 学校に着き教室に入ると、清水と目が合った。

「よ、吉野君!おはよ!」
   
 清水は、弾けるような笑顔で言う。
 俺は、何故か胸の辺りが痛くなる。

「清水さん、おはよう」

 そのまま、席に向かい座る。
 ……これは、仕方ない。
 昨日メールで、朝の挨拶はして良いのかな?と聞かれた。
 まあ、それくらいならと了承した。
 ガチガチに禁止して、どっかで弾けたら困るからな……。

 そして、その日は何事もなく平穏に過ごしことが出来た。
 これだよ、これ……やっぱり、平穏が一番だ……その筈だ。

 その後家に帰ると、約束通りにアキがやってきた。

「おー久々だ。いつぶりだ?」

「少なくとも、高校にな入ってからはないな」

「あ!暁人さん!お久しぶりです!」

「お!麻里奈ちゃんかい!?ますます可愛くなって……おい、止めろ。俺は、一般論を言っただけ……」

「もう!お兄!ダメだよ、そんな人殺しそうな目しちゃ!せっかく、暁人さんきてくれたのに!」

「……俺が呼んだわけじゃない」

「もう!ごめんなさい、暁人さん。こんな兄ですが、よろしくお願いします」

「ああ、任せてよ。冬馬とはマブダチだからさ」

「おい、いいから部屋に行くぞ」

「はいはい、わかったよ。麻里奈ちゃん、じゃあねー」

「はいはーい、ごゆっくりどうぞー」



 俺の部屋に入るなり、アキが話を始める。

「なあ、清水さんと付き合うのか?」

「いや、付き合わない……つもりだ」

 なんだ?何故、今即答出来なかった?

「自覚なしか……清水さんも可哀想に」

「何がだ?俺のが可哀想だ。平穏な日々が……」

「それな!いや、びっくりしたよなー。ヤンキーになったと思ったら、急にオタク……いや、言い方が悪かったな。急に漫画やゲーム、ラノベに手を出すんだもなー」

 こいつの、こういうところは良いと思う。

「まあ、正直なところ……俺も思ってなかったよ。母さんが死んで荒れてた頃に、一冊の本に出会ってからだな」

「まあ、確かに最近のラノベは泣けるのもあるしなー。そうか……おばさんが死んで、もう五年経つのか……後で、挨拶していいか?」

「そうなんだよなー。ラノベってだけで見ない人もいるけど、結構良い話あるんだけどな。ああ、母さんも喜ぶよ……アキ、ありがとな」

「よせよ、俺のお前の仲だろ?……でだ、清水さんを可愛いとは思わないのか?」

「……可愛いとは思う」

 これは、認めないわけにはいかない。

「良いじゃん、付き合えば。みんな羨ましがるぜ?」

「俺は、そんな簡単には付き合えない。付き合うなら、大事にしたいと思う。だが、俺では大事に出来ない。俺は、自分の時間が何より大切だからだ」

「まあ、今時珍しい奴。とりあえず彼女欲しい、やりたいって奴が多いのに。まあ、そう言う俺も……実は、お前のそういう考えは嫌いじゃない。どうしたいかは、人それぞれだもんな」

「アキ……そうなんだよな。別に、彼女欲しいとかやりたいと言っている奴らを、俺は否定しているわけじゃない。そりゃ、俺だってそう思うことはあるよ。ただ、そっちも俺を否定しないでくれとは思う」

「まあ、難しいわなー。明らかに、お前が少数派だからなー」

「それは否定できないな……」

「まあ……あの子なら、お前のそういうところを尊重しつつ、付き合ってくれると思うけどな?」

「それは……そうかもしれない。でも、俺は……」

「わかってるよ、お前の気がすまないんだろ?付き合うなら、イベント事とかしてあげたいんだろ?」

「まあ、そういうのもある」

「さて、清水さんは鉄壁のガードを崩せるかね?」

 ……言えない、既に危ないことは……。

 その後雑談をし、母さんに線香をあげて、アキは帰っていった。

 俺は自分の部屋で考えていた。

 アキに言われたことを……。

 その時、メールがくる。

 清水からだった。

 嫌じゃない自分に気づいた。

 内容は、誠也についてだった。

 土日のどっちが、都合がいいかと。

 俺は、土曜日なら平気と返信をする。

 そのまま、ベッドにダイブする。

「ハァ……俺は、一体どうしたいんだ……?」

 俺はその日、ゲームもせずに眠りについた。

 これがどういう意味をもつのか……。

 ……もしかしたら俺は、清水に惹かれているのかもしれない……。




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