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冬馬君は静かに過ごしたい

ひとまず友達になれたあの人は~清水綾視点~

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 私は勇気を出して、なんとか吉野君に話しかけることができました。

 そして、吉野君がいつも食べている部屋まで案内されました。

 そして、念願の電話番号とアドレスを教えてもらえました!

 物凄く嬉しかった……!

 人のを聞いて、こんなに嬉しいのは初めてだった……。

 ところで……吉野君は、いつもここで食べてるんだよね?

 これって……食べにきたら、迷惑だよね……?

 学校では、話しかけるなって言われちゃったし……。

 うーん、我慢!これで嫌われたら嫌だもんね……。

 そのあと友達に言い訳をして、なんとかことなきを得ました。



 そんな私は、学校の帰りに思い出した。

 そういえば、そんな噂もあった。

 学校1のイケメンでモテ男の神崎君と、吉野君が友達だという……。

 皆は釣り合わない!と不思議がっていたけど、私はそうは思わない。

 むしろ……吉野君の方が、カッコいいし……。

 それにしても、吉野君……全然笑わないな……。

 困った顔してた……やっぱり迷惑だったかな?

 でも、メールはして良いって言ってたから、嫌われてはいないと思いたい……。

 流石に、今日メールしたらウザい女の子だと思われちゃうかな?

 でも、逆にいつならいいんだろ?

 こういうこと初めてだし……相談相手もいないし。

 そんなことを考えていたら、いつの間にか駅に着いていた。

 危ない、危ない……最近は盗撮も多いっていうし気をつけなきゃ……。

 エスカレーターで盗撮されたり、電車内も痴漢がたまにでるみたい。

 もちろん、都内ほどの被害はないみたいだけど……それでも、気をつけなきゃね。

 私は気をつけつつ、家路を急いだ。

 家に帰ると、弟の誠也が出迎えてくれた。

 私の、生意気だけど可愛い弟。

 お父さんがいなくて、寂しいはずなのに泣き言も言わない強い子。

 もちろん私も寂しいけど、もう高校生だしね。

 だから、私がしっかりしなきゃね!

「お姉ちゃん、お帰りー!」

「ただいま、誠也」

「あのねー、お母さんがね、仕事で遅くなるって!」

「え?そうかぁ……うーん、困ったわね……」

「お姉ちゃん、ご飯作れないもんねー?」

「そ、そんなこと!……あります。ごめんね……」

 ……あ!でも、料理作れない女の子とか、吉野君嫌かな!?

 ……よーし!苦手だけど、頑張ってみよ!

「お姉ちゃんー??」

「誠也!お姉ちゃんがご飯作ります!」

「えー!?大丈夫かなー?火事とかならない?お母さんが後でお金出すから、どっかに食べに行きなさいって……」

「……いや、挑戦します!誠也、待っててね!」

「時間の無駄だと思うけど……」

 私は時計を見た。
 今は、7時になっていた。
 学校帰りに引き止められちゃったからなぁ……。
 断る勇気がない……。
 それにいかない場合、悪口言われる気がして……。
 もちろん、聞いたわけじゃなくて、私の被害妄想なんたけど……。

「いや!今からなら大丈夫!お姉ちゃん、頑張るね!」

 だ、だって付き合ったりしたら……お弁当とか……キャー!

「お姉ちゃん、大丈夫?悶えてるけど……」

 私はその言葉に返事をして、すぐに作業に取り掛かる!




 ……はい、ごめんなさい。
 偉そうなこと言いました……。
 物の見事に失敗しました……。
 というか、それ以前の問題でした……。

「もうー、だから言ったのにー」

「ごめんね、誠也……」

 私は、包丁で指を切ってしまいました。
 情けない……料理を作る以前の問題でした。
 なんで上手く出来ないんだろう……?
 泣きそう……こんなんじゃ、嫌われちゃう。

「これで、よし!お姉ちゃん!僕、ラーメン食べたい!」

 絆創膏を貼ってくれた誠也が、そんなことを言い出した。
 優しい子……私に気を遣ったのかな。

「そうね、まだこの辺よく知らないしね。駅の方に歩いてみようか」

 そうして私の血が止まるのを待って、10分かけて駅前までやってきた。
 ただ、色々お店があって迷っていた。
 それに、いつも通り視線も感じるし……。
 とりあえず、適当なお店に入ってみた。

 するとビックリ!
 なんと、吉野君がいました!
 あっちもびっくりした顔。
 もしかして、ストーカーとか思われてないかな?
 本当に、ただの嬉しい偶然なんだけど……。

 吉野君はすぐに真面目な顔になり、慣れた感じで接客をしてくれました。
 席に案内された私は、吉野君をじっと見つめてしまいます……。
 ……どうしよう、カッコイイ。
 私を助けてくれた時みたいな感じに近い……。
 それに腕の筋肉が凄い……血管が浮いてる……あれ、好き。

「……ちゃん!お姉ちゃん!」

「え?騒いじゃダメよ、誠也。他の人もいるんだから」

「もういないよー?お姉ちゃん、ずっとあの人見てるから。もう僕、お腹空いたよー」

 誠也の言う通りで、20分も経っていた。
 え!?嘘!?どんだけ見つめてたんだろ……。
 バレてないかな?
 あ!私は急いで絆創膏を剥がす。
 ……良かった、血は止まってる。
 バレたら、恥ずかしいもん。

「ごめんね、何食べようか?」

「僕、味噌ラーメン!あと、餃子と炒飯!」

 餃子……!大好物です!
 でも、ニンニクが……家なら良いんだけど……。
 吉野君いるし……ラーメンだけにしよう……。
 私は怪我した右腕を隠し、左腕を上げた。
 声をかけようとしたんたけど、恥ずかしくて出来なかったから……。


 注文を受けて、吉野君はなんと料理を作り始めました!
 フライパンを振る姿、カッコいい……。
 凄いなぁ……私なんか、それ以前の問題なのに……。
 でも、吉野君は言ってくれた……それぐらい気にするなと。
 凄く嬉しかった……そんなこと言ってくれる人いなかったから。
 完璧じゃなくてもいいだなんて……ますます好きになってしまう……。

「お姉ちゃん!美味しいね!それに、あの人カッコいいね!」

「そうね!美味しいね!か、カッコいいよね」

 その後、友野さんと名乗る男性がラーメンを置きにきた。

「これ、冬馬のラーメンです。冬馬の彼女かな?良かった、良い子そうで。あいつ気難しいけど、悪い奴じゃないからよろしくね」

 そう言い残し、去っていった。
 ……彼女!?そ、そう見えたのかな!?
 私は両手で顔を押さえる……熱い……。
 吉野君が来たけど、バレてないかな?

 そのあと、嬉しいことに一緒食事をする流れになった。
 あの店員さんに感謝しなきゃ。
 誠也は、すっかり懐いてしまったみたい。
 吉野君も、とても温かい目で誠也を見てる。

 食べ終わると、店長さんまで挨拶に来てくれた。
 そして、なんと送ってもらえることになった……。
 ……嬉しいけど、迷惑じゃないかな?と思って聞いてみた。
 迷惑だって言われてへこんだけど、心配だって言われて嬉しかった。

 帰り道では、パーカーまで貸してくれた……優しい……キュンとしました。
 それに、初めて笑ってくれた……。
 少しは、距離が縮まったかな?
 それに、誠也のおかげ?でうちに来てくれることになった……。
 ど、どうしよう!?部屋片付けないと!
 ……落ち着こう、私のために来るんじゃないし。
 でも、嬉しい……少なくとも、嫌われてはいなさそうで……。

 お風呂に入って、私は自分の部屋に戻った。
 そして、パーカーを抱きしめてニヤニヤしてしまう。

「ふふ、今日は楽しかったなぁ……。電話番号も聞けたし、バイト先も知れたし、一緒に帰れたし……お礼のメールなら、しても良いかな?それなら、自然だよね?」

 私は散々迷ったあと、勇気を振り絞ってメールを送った。

「へ、変じゃなかったかな?やっぱり挨拶はダメだったかな?……もしかして、寝てたりしないかな?うー……」


 私は落ち着かず、部屋の中で歩きまわる。
 すると、そっけないけれど、ちゃんと返信がきた!
 朝の挨拶もしていいって!

「えへへ、これは保存しなきゃ。初めてのメールだもん」

 私は、そのメールを何度も見てニヤニヤしながら、幸せな気分で眠りについた……。
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