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冬馬君は静かに過ごしたい

冬馬君は墓穴を掘る

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 とりあえず、俺はいつの間にか送ることになったらしい。

 さて、そうと決まれば急がなくてはな。

 最近は、条例も厳しいからな。

 夜10時以降に未成年が出歩いてると、補導されかねないからな。

 俺は学校帰りだから制服だし、ましてや小学生もいることだし。

 ちなみに、制服は学ランである。そして、女子はセーラー服である。

「よし。じゃあ、行くか」

「……ホントにいいの?迷惑じゃない?」

「……迷惑かと聞かれれば、迷惑だが……」

「やっぱり、そうだよね……」

「冬馬さん、迷惑なの……?」

 清水は、明らかにシュンとしてしまった。
 さらに捨てられた子犬のような目で、誠也が俺に訴えてくる。
 ……どうやら、懐かれてしまったらしい。
 寂しいのだろうな……仕方ない、気持ちはわかる。

「いや、冗談だ。きちんと送っていくよ」

「わーい!やったー!」

「ふふ、良かったね。ありがとう、吉野君」

「礼はいらない。それに、この間みたいな目にあったら俺も心配だしな」

 これは本心だ。
 何かあってから後悔しても遅いからな。
 いつまでも、当たり前の日常が続くとは限らない。

「あ、ありがとう……」

「お姉ちゃん、顔赤いよー?」

「き、気のせいよ!」

「ほら、行くぞ。ていうか、歩きか?」

「う、うん。10分くらいだから良いかと思って」

「そうか、なら俺も問題なさそうだな」

 そして3人で店を出て、歩き始める。
 俺は、妹にメールをしておく。
 じゃないと、後が怖い……。

「クシュン!」

「お姉ちゃん、大丈夫ー?」

「大丈夫よ、少し寒いけど……。ラーメン食べると思って、薄着で来ちゃったから」

 清水を見てみると、長袖のTシャツにジーンズをはいていた。
 ……どうする?いや、しかし……。
 ……持っているのに渡さないのは、俺の主義に反するな。
 俺はカバンの中から、パーカーを取り出す。

「ほら、これを着ろ」

「え?でも……」

「嫌なら、別にいい」

「嫌じゃないよ!……あ、ありがとう。じゃあ、借りるね」

 どうでもいいが、何故女子がブカブカの洋服を着ると、可愛く見えるのだろうか?
 終いには、自然な形で萌え袖になってやがる……あざとい……!

「冬馬さん!ありがとう!」

「どういたしまして。ところで、誠也はいくつだ?」

「9歳です!小学3年生です!」

「そうか。しっかりしてて、偉いな」

「へへ……褒められた」

「それにしても……随分中途半端な時間に来たな?」

「うっ!そ、それは……」

「お姉ちゃんがねー、作ろうとしたんだけ、ムー!!」

 清水が誠也の口を塞いだ。

「ちょっと!?それ言わなくていいから!」

 ……まあ、なんとなく察した。
 失敗したのだろうな……そういえば、さっき出来ないと言っていたな。

「ククク……いいんじゃないか?清水みたいな完璧女子には、そのくらい隙があったほうがいいだろう」

「吉野君が、初めて笑った……そ、そうかな?吉野君もそう思う?」

「ん?……まあ、そうだな。完璧な奴は嘘臭いしな」

「そっか……えへへ」

「冬馬さんは!お姉ちゃんの彼氏なの!?」

 何をどう思ったのかはわからないが、誠也が急にそんなことを言い出した。

「ちょっと!?誠也!」

 清水は、オロオロしている。
 が、何か期待を込めた目を向けている。
 だが、俺はそんな安い男ではない。

「違うぞ。俺では、清水に釣り合わんしな」

「わ、私はそんなことないと思うけど……」

「違うのかー、残念!お兄ちゃんが出来ると思ったのになー」

 そういうことか……。
 父親があまりいないし、姉と母では色々と相談もしづらいだろうな。
 遊び相手にもならないしな。

「転校して引っ越したばかりだから、まだ友達もあまりいないものね……」

「ん?そうなのか?」

「うん。お父さんがね、夢のマイホームを購入する!って決めて工事が始まったんだけど……出来上がってすぐに、急に転勤が決まったの」

「それは……災難だったな」

「お父さん、泣いてたよー」

「そりゃ、そうだろうな」

「上司の人にも謝られたみたい。でも、昇進には必要らしいから、お父さんは泣く泣く了承したみたい。お給料上がれば、ローンも早く返せるから」

「お父さんとゲームしたいから、テレビも2つ並んでるのになー。海外だから、時間帯も合わないし」

「ん?なんのゲームをしているんだ?」

「モンハ○ワールドだよ!」

「ほう、いい趣味しているな。俺もやっているぞ」

 基本的には、完全なるソロプレイだがな!
 だが、たまに野良で現れたりもする。
 初心者のお助けに向かう感じだな。
 大体止める原因は、先に進めなかったり、上級者のキツイ言葉だ。
 俺は、そんなことはしない。
 きちんと、粉塵も調合分まで持っていく。
 そして、フォローに徹する。
 これも布教活動の一環だ。

「そうなの!?じゃあ、うちに来て一緒にやろうよ!」

 うっ!眩しい!目がキラキラしていやがる!
 だが、俺は自分の時間が……!墓穴を掘った……!
 でも、俺にはこの子の寂しい気持ちは理解できる……!
 うぉぉーー!!どうする!?俺!?
 ……これは、オンラインでとか言える空気じゃないな。

「……わかった。いつかは約束できないが、遊んであげよう……」

 これが、最大限の譲歩だな……。

「ホント!?約束だよ!?わーい!」

 誠也はご機嫌に、前の方でスキップしている。
 こんなに喜ばれてはな……。
 俺も母さんが亡くなった時、真司さんが遊んでくれたっけな……。
 あれで、大分気が紛れたんだよな……。
 そして言われたっけな……いつか寂しそうな奴がいたら、同じようにしてやんなと。

「ありがとう、吉野君。ごめんね、迷惑だよね……」

「いや、そうでもないさ。俺は母親が亡くなっててな。あ、余計な気遣いとかはいらないからな?まあ、そんなわけで寂しい気持ちは理解できるからな。生きていても、海外じゃ年に数回だろう?」

「え!?そ、そうなんだ……うん、わかった。そうなの、二回帰ってこられたら良い方だって……」

「なら、寂しいのは当然だな。うちには妹がいて、母さんが亡くなったのは誠也と同い年の時だったな……」

 あの時は、毎日泣いて大変だったな……。

「そうなんだ。うん、そっか」

 ……清水は、良い奴だな。  
 こういう時は、大体同情して何かを言うのだが……。
 そういうのはいいんだよな、ただ聞いてくれれば……。
 ……いかんな、絆されそうになる。
 ……気をしっかり持て!彼女なんかいたら自分の時間が潰れるぞ!

 そのまま2人で、黙って歩く。
 不思議と気不味い感じはしない……何故だ?
 うーん……分からん。
 あと、どうでもいいが……めちゃくちゃ良い匂いがするな。

「冬馬さん!着いたよ!」

「お、そうか」

 見上げると、二階建ての家がある。
 左隣にはアパートがあり、右には駐車場があるな。

「吉野君、ありがとう。送ってくれて……」

「いや、いいさ。あー……誠也が遊びたいって言ったら、一応連絡くれ。出来る限り善処する」

「え?本当にいいの?」

「ああ、仕方ない。俺は、もう二度と約束は反故しないと決めているからな」

 母さんとの約束を破ったあの日からな……。

「そうなんだ……あ!パーカーありがとう!……これ、洗って返しても良い?」

 清水は上目遣いで、袖口を口元にもってきて言った……あざといが、可愛い。
 ……いかんいかーん!落ち着け!俺!

「はい?なんで……」

 いや、待て。
 あれには、今清水の良い匂いがついている。
 下手に持って帰ったら、麻里奈に言われそうだな……。
 俺も変な感じになりそうだし……うん、そうしよう。

「いや、わかった。それでいい」

「え!?本当!?うん!ちゃんと洗って返すね!」

 何故、そんなに嬉しそうなんだ?……女子って分からん。

「それじゃ、帰るよ。じゃあな」

「冬馬さん!またねー!」

「吉野君!ありがとう!気をつけてねー!」

 俺は引き返して、駅に向かう。
 その道中に、冷静に考えてみた。
  ……あれ?パーカー洗うってことは、どこかで会う必要が……。

 ……どうやら、俺は墓穴を掘ったようだ。
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