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冬馬君は静かに過ごしたい

冬馬君はバイトする

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 さて、無事に授業を終えて、放課後を迎える。

 相変わらず、清水はクラスの皆に囲まれている。

 俺は今のうちに、静かに教室を出る。

 万が一、一緒に帰ろうなどと言われたら困るからな……色々な意味で。

 それに、今日は急がなくてはな。

 本日は、バイトのシフトが入っているからな。

 学校を出て、電車に乗り、スマホでネット小説を読む。

 良い時代になったよな……どこでも、小説が読めるのだから。

 更には、持ち運びができるゲーム機まで……。

 流石に、学校には持っていかないがな。

 俺のバイト先は、定期の範囲内だ。

 これなら金もかからないし、行き帰りの時間の無駄もなくなる。

 更には、駅前だ。

 多少忙しくはあるが、時給も良いし、帰りもすぐに帰れる。

 たまに聞く話だが、バイトにいくのに一時間かけていく奴もいるらしい。

 所謂、都内のお洒落な店とかだな。

 俺には時間の無駄に思えてならないがな……。

 まあ、それは人それぞれだな。

 否定はしない……だから、そっちも否定しないでくれ。

 あ、今更だが……俺は埼玉県民である、所沢市に住んでいる。

 ……ダサイタマとか言われたり、とん○埼玉とかで有名かもな。

 もちろん、俺は埼玉県民であることに誇りを持っている。

 交通の便も良いし、最低時給も低くない。

 道路の道幅も広く、本屋やゲームショップも充実している。

 何より、静かで良い。

 人が多く、ざわざわしているところは苦手だ。

 学校も飯能方面なので、満員電車になることもない。

 なので、ゆっくりと読書が出来る。

 それも計算して、学校選びもしたからな。

 ふふふ……我ながら、無駄のない計画だったな。

 そして、朝フォローしたネット小説を見ていたら、あっという間に降りる駅に着いた。

 うむ……異世界ファンタジーも、多様化してきたな。

 最近は、ざまぁ系が流行っているようだ。

 俺は、どちらかというと王道ファンタジーが好きだが、これはこれで良いのだろう。

 停滞は、衰退を意味するからな……盛り上がるなら、大歓迎だ。

 駅前の、とある店の裏口から入る。

「店長、おはようございます」

 今挨拶したこの人が、この店の店長だ。

 名前は、野口雅史さん。
 年齢38歳の男性で、既婚者で子持ちである。
 見た目は普通のおじさんである。
 性格は温厚で優しいが……それが、短所でもある。
 あまり、人に強く言えないからな……。
 少しぽっちゃりし、髪が薄くなってきたのが悩みだそうだ。

「おはよう、冬馬君。今日も早いね」

  時間を確認すると、5時20分前だった。

「いえいえ。仕事は、10分前には入らないと」

 タイムカードを押してから着替えるなど、俺の矜持が許さない。

「相変わらず、偉いね。他のバイトの子もそうだと良いんだけど……」

「たまには、ガツンと言った方が良いのでは?」

「そうなんだけどねー……あんまり言うと、辞めちゃうかもだし……」

 これも、最近の問題なんだよなー。
 土日にシフト入らなかったり、叱られるとすぐ辞める奴が多いんだよなー。

 俺はロッカーに荷物を入れて、制服に着替える。
 そして、タイムカードを押す。

「そういえば、この間は土日休みですみませんでした」

 お気に入りの発売日は、大体休みにしているのだ。

「いやいや、とんでもない。ゴールデンウィークに沢山出てもらったからね。むしろ、こっちがお礼を言いたいよ。おかげで、家族サービスも出来たし」

「そうですか。なら、良かったです。では、出て行きますね」

「うん、今日もよろしくね」

 俺は、
 そう、俺のバイト先は飲食店であるラーメン屋なのだ。
 多少キツイが、時給も良いし、ラーメンも美味いし、賄いがタダなのでここにした。
 俺はバンダナにしっかりと髪を入れ、つけていた眼鏡を外す。

「友野さん、おはようございます」

「ああ、おはよう」

 この人が、唯一の社員である友野さんだ。
 身長180ほどあり、細い体型の方だ。
 とても働き者で、仕事のできる方だ。
 無口で仕事以外のことは、あまり喋らない。
 俺には、それが心地いい。

 俺は厨房を通り抜け、ホールに出る。
 この店は火曜定休日で、11時から24時まで営業している。
 そして、3時半から5時までは一度店を閉める。
 店の広さは4人席のテーブルが3つ。
 2人席のテーブルが2つ。
 カウンター席が8つある。
 まあ、駅前のラーメン屋は、大体このくらいの大きさだよな。

 まずは、しっかり手洗いをすませる。
 その後に、上げていた椅子を下ろしテーブルを拭く。
 そのまま、カウンターも拭く。
 これで、準備完了だ。

 開店まで、後五分といったところか。
 俺の仕事は基本的にはホールだ。
 1年続けているので、調理もできる。
 営業は基本的に、3人から4人でまわす感じだな。

 そして俺は、休憩中の看板を反転させて営業中にする。
 いよいよ、営業開始である。
 ちなみに高校生なので、平日は5時から9時の間だ。
 10時まで出来るのだか、妹がうるさいからな。
 俺は週3回ほど、シフトに入っている。
 すると、早速お客様がご来店のようだ。

「いらっしゃいませ、こんばんは」

 人数確認せずに、カウンターに案内する。
 俺は明らかに1人の人には、お一人様ですか?とは聞かない。
 もちろん、目できちんと確認はする。
 更に店長には、許可をとってある。
 俺がいつも思うからだ……いや、どう見ても1人だろうがと。
 もちろん、それが接客業の決まり文句なのはわかっている。
 だが、明らかな場合は必要なくない?と思うわけよ。

 そして注文を取り、仕事をこなしていく。
 もう慣れているので、戸惑うこともない。
 注文ミスは、もうほとんどない。
 そして時間が過ぎ、8時半を過ぎた頃、事件は起きる。

「いらっしゃいませ……はい?」

「え!?よ、吉野君!?」

 そこには、小学生くらいの男の子を連れた清水綾がいた。

 ハァ……どうしよう、逃げ場がない……。


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