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冬馬君は静かに過ごしたい

冬馬君は追及から逃れる

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 さて、まずは誰がくるかだな。

「おいおい、吉野。何の用だったんだ?」

「お前みたいな奴が、何調子こいてんだ?」

 ……オラオラ系か。  
 最初に喋った方が、奥村将吾
 サッカーのスポーツ推薦で入学した奴だ。
 ツンツン頭で、別にイケメンでもなければ、そこまで身長が高いわけでもない。
 雰囲気で頑張っているタイプかな?
 俺からしたら、ただイキってるだけの奴だな。

 もう1人は佐々木浩司。
 同じく、サッカーのスポーツ推薦で入学した奴だ。
 こっちは、とくに特徴はない。
 奥村誠二の腰巾着みたいなものだ。
 1人では、威張れもしないタイプだな。

 ……ひとまず、予想通りだな。


「いや、大した用じゃなかったよ。清水さんが、周りから理系の神崎君とかどうなの?とか聞かれるらしくてさ。それで俺、一応小中一緒だったからさ。どんな人かな?って聞かれただけだよ。もちろん、清水さんもその気なわけではなく、あまりに皆が言うから気になったみたいだよ」

 これで奴には、借りが出来てしまった。
 黙っていればバレることはないだろうが、それでは俺の矜持が許さない。
 ちなみに、うちのクラスである2年C組は文系だ。
 理系とは校舎が違うので、交流が少ない。


「なるほどな!そりゃそうだよな!お前みたいのに用があるわけないわな!」

「そういや……神崎が、たまに吉野に話しかけてるの見るな……」

「そういうこと。じゃあ、いいかな?まだ、昼ごはん食べてなくてさ」

「ああ、もういいぜ」

 どうやら、無事に切り抜けられたようだな。

 俺が弁当を取りに机に行くと、清水が教室に入ってくる。

 皆から、色々と言われているようだ。

「なんだー!その場で言えば良かったじゃん!」

 この声は、リア充グループの1人である、ギャル子さんだ。
 ……いや、正確には森川愛子だな。
 まあ、ギャルだな。
 そこそこ可愛いと思うが、化粧が台無しにしているタイプだ。
 もちろん、そのギャルな感じが良いっていう奴も多いけどな。

「きっと、みんなが注目するから言いづかったんでしょ」

 こちらはもリア充グループの1人である、腹黒子ちゃんだ。
 ……正確には、黒野加奈だな。
   悪いやつではないと思うが……。
 おそらくだが、腹に一物抱えてそうだ。
 容姿は美人系で、スレンダータイプで人気があるようだ。

「ごめんね!そうなんだよね、なんか皆が注目しちゃったから。吉野君には悪いことしちゃったな」

「まーね!そりゃ注目するわー。で、どんなん?」

「んー、わかんないや。やっぱり、実際に話してみないとね」

「それも、そうだよね」

 俺はそれを尻目にし、教室を出る。

 再び空き教室に戻ると、先客がいた。

「よう、色男」

「うるせーよ、真司さん。ていうか、見てたのか?」

 この男の名前は、名倉真司。
 この学校の先生にして、俺の古い知り合いである。
 年齢25歳のワイルド系イケメンで、男女問わず人気がある。
 教科は、体育教師だ。
 ……そして、この空き部屋を用意してくれた人だ。
 というか、この人が使っているのを貸してもらっている感じだな。

「スー……フゥー……まあな。入っていくのが見えたからな。いきなり不純異性行為されたら、さすがに止めなきゃならんし。そのために、貸したわけじゃないしな」

 窓際で煙草を吸いながら、そんなことを言い出した。

「そんなことするわけねーだろ!アンタの頭ん中は相変わらずだな!」

 この男は良い人なのだが、とにかくゲスい。
 下ネタ大好き野郎なのだ。

「なんだ、やらないのか?勿体ない。あんな良い女は、そうはいないぞ?俺が教師でなかったら、手を出しているところだ」

「いや、教師じゃなくてもダメだから。このご時世だと、発言すらアウトだから」

「ホント、つまらん世の中になったよなー。おかげで、煙草すら気軽に吸えない」

 この男は、そのために空き教室を利用している。
 そして、お互いに色々隠し事が多いので、協定を結んでいる。
 他の先生方には、ぼっちである俺の悩み相談を受けていると説明しているらしい。
 多少俺の精神が傷つくが、背に腹はかえられぬ。
 俺の楽しい昼食の時間のために……!

「あ!そうだよ!時間がない!」

 俺は真司さんから距離をとり、急いで弁当を開けて食べ始める。
 タバコの臭いがついたら、さすがにマズイからな。

「で、どうなんだ?ヤルのか?」

「ッ!!ゴホッ!ゴホッ!」

 危ねぇ……!口から出るところだったぞ!?
 俺は麦茶を飲み、なんとか押し流す!

「おいおい、ゆっくり食べないと危ないぞ?」

「アンタの所為だよ!たく、頭の中にそれしかないのか!」

「なんだよ、普通はそうだろ?高校生なんか、ヤレれば誰でも良いだろ?ましてや、あの清水だぞ?みんながヤリたいだろうに……勿体ない。とりあえず付き合ってヤレば良いのに。アレは、お前に惚れているぞ?」

 それには、薄々気づいていた。
 たとえ、吊り橋効果といえな。
 そしてヤリたくないといえば、それは嘘になる。
 俺だって健全な高校生だからな。
 だが、綺麗事に聞こえるだろうが、ヤリたいだけで付き合うのはダメだ。
 それでは、真剣な相手に失礼だ。
 何より、天国の母さんに顔向けができん……!

「……否定はしない。だが、アンタには青くさいだろうが、付き合うならお互いに好きじゃなきゃダメだ。それに、俺は自分の時間が欲しい。もし付き合うとしたら、その天秤が傾いた時だけだ」

「まあ、お前のそういうところは嫌いじゃないがな。ククク……だが、あの手の女は手強いぞ?いつまで耐えられるかな?」

 ……それは、俺も感じている。

 さて、清水はどんな手を使ってくるか……。

 俺は平穏な日常を維持できるのだろうか?
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