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冬馬君は静かに過ごしたい

冬馬君は元○○○○

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 俺は意識を切り替える。

 眼鏡を外し、髪を後ろに持っていき、オールバックにして、手持ちのゴムで結ぶ。

 フゥ……このスタイルも久々だな。

 さて、穏便に済めば、それでよし。

 もし済まなかった場合は……言わずもがなだな。

 俺は、声のした方へ辿りつく。

「ほら!こいよ!良いことしようぜ!」

「や、やめて……!」

「フゥ~!や、やめて!だってさ。こりゃ、たまんねえな」

 はぁ……今時、あんなのがまだいるのか。
 一体、世の中はどうなっているんだが……。

「おい、あんたら。盛《さか》るなら、他所《よそ》でやってくれないか?」

「あぁ!?なんだ、テメーは!?」

「おいおい、カッコつけて助けにきたってか。馬鹿なやつだ!」

「あ、あの!逃げてください!」

 ……眼鏡がないからよく見えないが、とりあえず良い子だな。
 この状況で、それが言えるとはな。

「別に、助けにきたわけじゃない。出来ることなら、スルーしたいところだ。だがな、こちらにも事情があってな……そういうわけにもいかないんだよ」

「はぁ!?こいつ何を言ってんだ!?」

「いいから、やっちまおうぜ!俺はもう辛抱たまんねえんだよ!」

 辛抱たまらん野郎が、殴りかかってくる!
 俺はそれを避けずに、顔面で受ける。
 ただし、首と身体をひねり、威力を最小限にしてだ。

「なんだ!?こいつ、避けもしねー!弱いくせにでしゃばるからだよ!」

 そいつは拳で、俺の腹を殴る。

「もう、やめて!わ、私が、ついていくから……!」

「フゥ~!良い子ちゃんだね!でも、だめだ。あいつは、ああなったらもう止められない」

 よし、これで2発もらったな。
 これで、確実に正当防衛が成立した。
 もし問題になっても、証人もいるしな。

「おらおら!どうした!?最初の威勢はどこいった!!」

「おい、気合い入れとけよ?ムカついたから、手加減できん」

「はぁ?何言って……グベェ!!」

 俺は拳を、相手の腹にめり込ませた!

「ウエッ!!ガハッ!ゴホッ、ゴホッ……」

「チッ、汚ねえな。自分で掃除しとけよ」

「な、なんだ!?どうした!サトシ!」

「おい、お前。こいつ連れて退くなら、見逃してやる」

「……こいつ、強いのか……!だがな、こっちもそうはいかねえんだよ!」

 そいつも、俺に向かってくる。
 はぁ……退けばいいものを。
 
「オラァ!!」

 そいつが拳を、顔面に向けて放ってくる!
 今度は、受ける必要もないか。
 俺は掌で、拳を受け止める。 

「なに!?」

 俺は黙って、掌に力を込める!

「イテェ!!アタタタターー!!」

「おい、誰が北斗の◯の真似しろって言ったよ?」

「ちげぇよ!痛いんだよ!?アイタタタターー!!」

「だから真似すんなって。で、どうだ?退く気になったか?」

「ふざけんなよ!!こちとら、舐められたままじゃ、アイタタタターー!!」

「おい、もう飽きたんだが?物真似は2回までにしておけ。中々の根性だが、俺が手加減しているうちに、退いたほうか身のためだと思うぞ?」

「ッ!!わ、わかった!!退く!!退くから!!」

 俺は、手を離してやる。

「クソ!!馬鹿力が!覚えてろよ!ほら!サトシ!行くぞ!」

「痛いよ~母ちゃん。もう動けないよー」

「クソ!これだからドSは!こいつ、打たれ弱いんだよな。仕方ない、肩を貸してやるか」

 そう言って、2人のヤンキーもどきは去っていった。

 さて、これからどうしたもんかね。
 何事もなく、去りたいところだが……。

「あ、あの!ありがとうございました!危ないところを助けていただいて……」

「いや、気にしないでくれ。俺は、俺のために助けただけだ。アンタのためじゃない。それよりも、女子がこんなところにいるんじゃない。奴らの行いは許されることじゃないが、ナンパされても文句は言えないぞ?」

「それでも、私は助かりました!ありがとうございます!そうですね……気をつけます」

 なんか、調子狂うな……良い子すぎやしないか?
 俺はそこで初めて、その女子をまじまじと見てみた。

 ……ヤバイ……ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバヤバヤバイ……!
 俺は眼鏡を外していたのでよく見えていなかったが、そいつは同じクラスの女子だった。
 しかも、校内1どころか、県内でも有名な女子だ。

 そいつの名は、清水綾。
 容姿端麗、成績はトップクラス、性格も明るく優しく、みんなのマドンナだ。
 ただ、その分やっかみも多いらしいがな……。

  そして、まずいことがある。
 俺は地味に暮らしたい。
 もし喧嘩のことがバレたら、俺の逆高校デビューがおじゃんになる……!

 だが、幸いにも俺はクラスの空気的存在。
 さらには、喧嘩モードなので、髪型も違うし、眼鏡も外している。
 口調も違うし、気づかれることはないはず……!

「あのー、どうかしましたか?」

 気がつくと清水綾が、俺の顔を覗き込んでいた。
 いかん、いかん。つい、考え込んでしまった。
 それにしても、近くで見たらわかるが、綺麗な顔してること……。
 まあ、俺には関係ないな。

「いや、なんでもない。仕方ない、ついてこい」

「え?あ、はい」

 流石に、ここに放置というわけにはいかんしな。
 こんなのがいたら、ハイエナの群れが押し寄せてくるぞ。

 俺はついてくるのを確認しつつ、歩いていく。
 そして、人通りの多い場所に出た。

「よし、ここなら平気だろ。さあ、帰りな」

「え?あ、あの!お名前を教えてくれませんか!?出来れば、電話番号も……!お礼がしたいです!」

「さっきも言っただろう?俺が助けたいから、助けただけと。だから、礼はいらない。それと、アンタみたいな可愛い子が、そんなことを言うもんじゃないぞ?普通の男なら、勘違いするところだ」

 ふっ、俺は勘違いなどしない。
 真性のぼっちとはそういうものだ。

「ふぇ?か、可愛い……!え、じゃなくて!あの、その……」

「名乗るほどの者ではないさ。じゃあ、気をつけてな」

 俺は返事を聞くことなく、歩き出す。
 何が名乗るほどの者だ……!
 別にカッコつけたわけではない!
 こっちは名乗れないんだよーー!!
 色々と、バレちゃうから!!
 俺は、静かに暮らしたいんだよーー!!

 その後、家に帰ると、おかんむりの妹がいた。

「お兄!!もう、こんな時間だよ!お兄はご飯抜き!フン!!」

 確かに時間を見ると、いつもの約束の時刻を過ぎていた。
 我が家は、時間があうときは、7時にご飯なのだ。
 今日は、その時間の合う日だった……。

 その日俺は、カップラーメンをすすりながら思った。

 あれ?今日は良い日ではなかったのか?

 ……もう、占いなど信じないぞ……!






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