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冬馬君は静かに過ごしたい
崩れゆく平穏な日常
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俺は意気揚々と自転車を漕ぎ、駅前の本屋に到着した。
「時間は……お、一分前か。うん、無駄のない良い時間だ」
すると、すぐにシャッターの音が聞こえる。
だが、慌ててはいけない。
まずは、本屋の店主に挨拶をせねば。
この方のおかげで、俺は時間を無駄にすることなく買えるのだから。
本屋はそこそこあるのだか、ラノベの品揃えが悪かったり、開くのが12時とかの本屋が多いのだ。
だが、この矢倉書店はラノベの品揃えも豊富で、10時に開く唯一の本屋なのだ。
「矢倉さん、おはようございます。今日も、朝からご苦労様です」
「あれ?冬馬君?おはよう……ああ、そんな時期か。ごめんね、ちょっと待っててな」
店主の名は矢倉弥生さん。
25歳の容姿の整った人だ。
通称、人妻の弥生という通り名がある。
結婚はしていないが、溢れでる色気と包容力で、そう呼ばれている。
「いえ、ゆっくりで大丈夫です。こちらこそ、開店前に到着して申し訳ないです」
「ふふ、相変わらず礼儀正しい子やね。ありがとう、じゃあそうさせてもらうね」
母方が京都出身だからか、たまに方言がでるらしい。
それがまた、人気に火をつけるということだな。
「はい、これでよし。いらっしゃいませ、冬馬君、どうぞー」
「はい、失礼します」
俺は中に入り、目的のラノベと数冊の新しい作品を手に取り、会計に向かう。
この数冊の新しい作品は、ラノベ業界に少しでも貢献できるように購入している。
それに、たまに予期せぬ良作に出会うこともあるから、それもまた良し。
……もちろん、見るに耐えない物もたまにあるがな……だが、それは好みの問題もある。
「では、これでお願いします」
「はいはーい。えっと、4点で3028円ですね」
「では、3028円丁度でお願いします」
「はい、お預かりします。……はい、確かに。ふふ、今日はどうするの?」
「そうですね……今日の気分は、喫茶店アイルに行こうかと」
「あらー良いわね。では、またのご来店をお待ちしてますね」
「ええ、またきますね。では、失礼します」
俺は店を出て自転車に乗り、目的地に向かう。
今から行くのは、喫茶店アイル。
俺の行きつけの憩いの場だ。
俺はお気に入りラノベが発売したら、大体はそこで過ごしている。
駅から少し離れるが、人通りも少なく、お客も上品な方が多く、良い店だ。
「よし、着いた。さあ、待ちに待った時間の始まりだ!」
俺はご機嫌で、店に入店する。
そこには背筋がピシッと伸び、白髪をオールバックにした、初老の男性がいた。
この店のマスターである。名前は知らない。
「いらっしゃいませ。おや?冬馬君でしたか。ということは……?」
「マスター、おはようございます。ええ、お気に入りが発売しました」
「それは良かったですな。では、いつもの席空いてますから、どうぞ」
「お、それは良いですね。ますます良い日になりそうです。では、失礼します」
俺は、お気に入りの奥端の方の席に座る。
ここなら、静かに読める。
ただ、人気の席なので、空いているかは運次第だ。
ふふふ……今日は運勢も良かったからな。
早速、効果があったようだ。
あまりに良い日過ぎて、怖いくらいだ。
俺はラノベを取り出して、読み始める。
俺のお気に入りは、所謂異世界ファンタジーというやつだ。
こういった架空の物語が好きだ。
この世の中は、どうにもならないことが多い。
でも、この架空の世界はどんな理不尽なことも跳ね返す。
俺はそんな物語が好きだ。
そして、一区切りついたことろで、マスターがやってくる。
相変わらず、絶妙なタイミングだ。
丁度、糖分を摂取したかったところだ。
「冬馬君、どうぞ。いつものカフェオレですよ」
「ありがとう、マスター。相変わらず、良いタイミングだよ」
「ふふ、有馬君とも付き合いが長くなってきましたからね。初めて来た時は、びっくりしました。13~14歳の男の子が、こんな場所に1人でくるものですから」
丁度母さんが死んでしばらく経って、あちこちうろついていたときだな……。
家にいると、母さんの匂いが残ってる気がして……。
でも実際にはいないから、家にいたくなかったんだよな……。
俺が、荒れに荒れていた時でもあるな……黒歴史だ……。
「その節は、お世話になりました。あんな生意気なクソガキに、対等に接してくれて……」
「いえいえ、それが年配者の役目ですから。では、ごゆっくりどうぞ」
相変わらず、去り際のタイミングも見事だ……カッコいいよな。
俺も、あのような大人になりたいものだ。
俺はカフェオレを飲みながら、そんなことを思った。
その後も読み進め、一気に終わりまで読んだ。
「ふぅ……今回の巻も買って良かったな。理不尽に立ち向かう主人公が良いよな。現実では、中々難しいことだからな……」
その後お昼ご飯も頂き、デザートや紅茶を頼み、過ごしていく。
俺は一杯の飲み物で粘るような、小さい男にはなりたくないからな。
素晴らしい時間には、それなりの対価を払う必要があると思うし。
……ただ、バイト増やさないとな。
その間に、新しいラノベも読んでみる。
結果から言うと、中々だった。
少なくとも、最後まで読むことが出来た。
そして、日が暮れてくる……ふむ、満足のいく休日を過ごすことができたな。
時計を見てみると、18時になっていた。
よし、そろそろ帰ろう。
妹が、ご飯作って待っているだろうしな。
「マスター、お会計をお願いします。いつも長居して申し訳ない」
「いえいえ、冬馬君ならいつでも大歓迎ですよ。最近の若者には珍しく、礼儀正しい子ですから。きちんと、注文もしてくれますしね」
「まあ、母さんの言いつけですから。礼儀正しく、話しかけられたら挨拶だけはきちんとしなさいって」
だからぼっちでいるためには、そもそも話しかけられない存在になることが重要。
これなら、言いつけを破ったことにはならない……ならないよね?
「良いお母さんですね。では、またのご来店をお待ちしてます」
「ありがとうございます。はい、また来ますね」
俺は店を出て、自転車を引きながら、人通りの少ない道を歩き出す。
理由は簡単だ。
素晴らしい物語を読み、素晴らしい時間を過ごした余韻に浸るためだ。
この帰り道が、ある意味一番幸せな時間かもしれない……。
「や、やめてください!人呼びますよ!?」
「おいおい、こんな所に1人でいるってことはそういうことだろ?」
「へへ、そうだぜ。ここはそういう場所だぜ。ていうか、めちゃくちゃ可愛いな」
……はぁ、テンプレのような会話だな。
しかし、助けないという選択肢はないしな……。
いい、冬馬。誰かが困っていたら助けてあげなさい……と言われたからな。
だから、そういう場面に出くわさなければ良かったのだが……。
やはり、人生はそう甘くはないか。
俺は平穏な休日が崩れ去るのを感じつつ、声のする方へ向かう。
やれやれ、久々だから鈍ってないといいが……。
「時間は……お、一分前か。うん、無駄のない良い時間だ」
すると、すぐにシャッターの音が聞こえる。
だが、慌ててはいけない。
まずは、本屋の店主に挨拶をせねば。
この方のおかげで、俺は時間を無駄にすることなく買えるのだから。
本屋はそこそこあるのだか、ラノベの品揃えが悪かったり、開くのが12時とかの本屋が多いのだ。
だが、この矢倉書店はラノベの品揃えも豊富で、10時に開く唯一の本屋なのだ。
「矢倉さん、おはようございます。今日も、朝からご苦労様です」
「あれ?冬馬君?おはよう……ああ、そんな時期か。ごめんね、ちょっと待っててな」
店主の名は矢倉弥生さん。
25歳の容姿の整った人だ。
通称、人妻の弥生という通り名がある。
結婚はしていないが、溢れでる色気と包容力で、そう呼ばれている。
「いえ、ゆっくりで大丈夫です。こちらこそ、開店前に到着して申し訳ないです」
「ふふ、相変わらず礼儀正しい子やね。ありがとう、じゃあそうさせてもらうね」
母方が京都出身だからか、たまに方言がでるらしい。
それがまた、人気に火をつけるということだな。
「はい、これでよし。いらっしゃいませ、冬馬君、どうぞー」
「はい、失礼します」
俺は中に入り、目的のラノベと数冊の新しい作品を手に取り、会計に向かう。
この数冊の新しい作品は、ラノベ業界に少しでも貢献できるように購入している。
それに、たまに予期せぬ良作に出会うこともあるから、それもまた良し。
……もちろん、見るに耐えない物もたまにあるがな……だが、それは好みの問題もある。
「では、これでお願いします」
「はいはーい。えっと、4点で3028円ですね」
「では、3028円丁度でお願いします」
「はい、お預かりします。……はい、確かに。ふふ、今日はどうするの?」
「そうですね……今日の気分は、喫茶店アイルに行こうかと」
「あらー良いわね。では、またのご来店をお待ちしてますね」
「ええ、またきますね。では、失礼します」
俺は店を出て自転車に乗り、目的地に向かう。
今から行くのは、喫茶店アイル。
俺の行きつけの憩いの場だ。
俺はお気に入りラノベが発売したら、大体はそこで過ごしている。
駅から少し離れるが、人通りも少なく、お客も上品な方が多く、良い店だ。
「よし、着いた。さあ、待ちに待った時間の始まりだ!」
俺はご機嫌で、店に入店する。
そこには背筋がピシッと伸び、白髪をオールバックにした、初老の男性がいた。
この店のマスターである。名前は知らない。
「いらっしゃいませ。おや?冬馬君でしたか。ということは……?」
「マスター、おはようございます。ええ、お気に入りが発売しました」
「それは良かったですな。では、いつもの席空いてますから、どうぞ」
「お、それは良いですね。ますます良い日になりそうです。では、失礼します」
俺は、お気に入りの奥端の方の席に座る。
ここなら、静かに読める。
ただ、人気の席なので、空いているかは運次第だ。
ふふふ……今日は運勢も良かったからな。
早速、効果があったようだ。
あまりに良い日過ぎて、怖いくらいだ。
俺はラノベを取り出して、読み始める。
俺のお気に入りは、所謂異世界ファンタジーというやつだ。
こういった架空の物語が好きだ。
この世の中は、どうにもならないことが多い。
でも、この架空の世界はどんな理不尽なことも跳ね返す。
俺はそんな物語が好きだ。
そして、一区切りついたことろで、マスターがやってくる。
相変わらず、絶妙なタイミングだ。
丁度、糖分を摂取したかったところだ。
「冬馬君、どうぞ。いつものカフェオレですよ」
「ありがとう、マスター。相変わらず、良いタイミングだよ」
「ふふ、有馬君とも付き合いが長くなってきましたからね。初めて来た時は、びっくりしました。13~14歳の男の子が、こんな場所に1人でくるものですから」
丁度母さんが死んでしばらく経って、あちこちうろついていたときだな……。
家にいると、母さんの匂いが残ってる気がして……。
でも実際にはいないから、家にいたくなかったんだよな……。
俺が、荒れに荒れていた時でもあるな……黒歴史だ……。
「その節は、お世話になりました。あんな生意気なクソガキに、対等に接してくれて……」
「いえいえ、それが年配者の役目ですから。では、ごゆっくりどうぞ」
相変わらず、去り際のタイミングも見事だ……カッコいいよな。
俺も、あのような大人になりたいものだ。
俺はカフェオレを飲みながら、そんなことを思った。
その後も読み進め、一気に終わりまで読んだ。
「ふぅ……今回の巻も買って良かったな。理不尽に立ち向かう主人公が良いよな。現実では、中々難しいことだからな……」
その後お昼ご飯も頂き、デザートや紅茶を頼み、過ごしていく。
俺は一杯の飲み物で粘るような、小さい男にはなりたくないからな。
素晴らしい時間には、それなりの対価を払う必要があると思うし。
……ただ、バイト増やさないとな。
その間に、新しいラノベも読んでみる。
結果から言うと、中々だった。
少なくとも、最後まで読むことが出来た。
そして、日が暮れてくる……ふむ、満足のいく休日を過ごすことができたな。
時計を見てみると、18時になっていた。
よし、そろそろ帰ろう。
妹が、ご飯作って待っているだろうしな。
「マスター、お会計をお願いします。いつも長居して申し訳ない」
「いえいえ、冬馬君ならいつでも大歓迎ですよ。最近の若者には珍しく、礼儀正しい子ですから。きちんと、注文もしてくれますしね」
「まあ、母さんの言いつけですから。礼儀正しく、話しかけられたら挨拶だけはきちんとしなさいって」
だからぼっちでいるためには、そもそも話しかけられない存在になることが重要。
これなら、言いつけを破ったことにはならない……ならないよね?
「良いお母さんですね。では、またのご来店をお待ちしてます」
「ありがとうございます。はい、また来ますね」
俺は店を出て、自転車を引きながら、人通りの少ない道を歩き出す。
理由は簡単だ。
素晴らしい物語を読み、素晴らしい時間を過ごした余韻に浸るためだ。
この帰り道が、ある意味一番幸せな時間かもしれない……。
「や、やめてください!人呼びますよ!?」
「おいおい、こんな所に1人でいるってことはそういうことだろ?」
「へへ、そうだぜ。ここはそういう場所だぜ。ていうか、めちゃくちゃ可愛いな」
……はぁ、テンプレのような会話だな。
しかし、助けないという選択肢はないしな……。
いい、冬馬。誰かが困っていたら助けてあげなさい……と言われたからな。
だから、そういう場面に出くわさなければ良かったのだが……。
やはり、人生はそう甘くはないか。
俺は平穏な休日が崩れ去るのを感じつつ、声のする方へ向かう。
やれやれ、久々だから鈍ってないといいが……。
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