1 / 15
悪役王子、追放される
しおりを挟む
……そうか、いよいよか。
ついに、ここまでたどり着くことができた。
弟に玉座の間に呼び出された俺は、とあることを確信する。
「アルス兄さん! 貴方の王族の身分を剥奪し、辺境の地ナイゼルに追放します! 厳しい土地で、その生涯を過ごすのです!」
「……ああ、わかった」
俺は笑みがこぼれないように、唇を噛みしめる。
ようやく、苦労が実って願いが叶うのだから。
「……ですが、兄さんにも情状酌量の余地はあります。いくら王位継承権争いをしたとはいえ、そのほとんどは邪神のせいです。兄さんも犠牲者であり、協力して倒して死者も最小限にとどめて……」
「いけません、国王陛下」
「ソユーズ宰相……しかし」
「それでは、他の者に示しがつきません。いくらアルス王子に理由があろうとも国を混乱に陥れたのは事実なのですから。最悪の場合、死刑もありえたのです」
良いぞソユーズ、ジークにもっと言ってやれ。
こいつは甘いところがあるから、本気で俺を許しかねない。
それでは……エンディングを迎えることができない。
「それは許しません。それに、それには皆が納得したでしょう。何より、そんなことをしたらアルス兄さんを慕っている連中が暴れてしまいます」
「ならば、せめて追放をしてください」
「……わかりました。 先ほどの言葉通り、兄さんは荷物をまとめてナイゼルに行ってください」
「わかった……ジークよ、世話をかけたな」
「っ……! アルス兄さん……お元気で」
「ジーク、俺のたった一人の弟よ……俺が言えた義理ではないが、この国を頼んだぞ」
もう、俺の身内はジークとたった一人の妹以外にはいない。
俺は悲しそうな表情をしながら、玉座の間から出ていく。
しかし、ある意味で俺の心は晴れやかだった。
これで、俺の悪役転生は幕を閉じたのだから。
◇
その表情を維持したまま、自分の部屋へと戻り……。
「……よし、これで外に音は漏れないな」
この部屋は風の結界により、音が遮断された状態になっている。
なので、勢いよくベッドの上に飛び込む!
「ふははっ! ようやくだっ!」
ここまでたどり着くまで大変だった!
元アラサーの日本人である俺が転生したのは、アリストア戦記というゲーム世界だったからだ。
しかも、その物語の悪役……漆黒の髪に闇魔法を駆使する、アルス-アスカロンという存在に。
剣と炎魔法に適正があり、才能がないのに自分より人望がある弟を憎んでしまう悪役だ。
そこを邪神に精神を支配され、王国を混乱に陥れる王太子という設定だ。
「いやー、最初はビビった。十五歳で記憶を取り戻した時には、もう邪神に取り憑かれて破滅が決まってる王子だもんなぁ」
本来なら弟であるジークによって、討たれる運命にあった。
ただし、有難いことに悪役にも救済ルートが存在した。
兄弟が手を取り合って、共に邪神を倒すというルートが。
十五歳の時に両親が亡くなり、王位を継いだ瞬間に前世の記憶が蘇った。
その後、俺はうまく立ち回りつつ、そのルートに入ることができたってわけだ。
「ふふふ、ようやく身を結んだぞ。これで、王位を継ぐこともない。先に邪神を倒して、ふつうに王位を継ぐことも考えたが……それだとめんどくさい。俺は王位なんかに興味はないし。何より、それでストーリーが違って国が滅ぶようなイレギュラーがあったら怖いし」
ルートは三つあり、一つが邪神ごと悪役を殺す通常ルート。
もう一つは、悪役が勝ってしまうバットエンド。
最後が邪神を体から追い出して共に倒すルートだ。
「邪神に精神を支配されないように且つ、それを抑え込むのは苦労したが……ふっ、元の世界で孤児で社畜で婚約者を寝取られた俺を精神支配しようとは甘いわ……グフッ!」
い、いかん! 自分で言ってダメージを受けすぎた!
だが、邪神も入る相手を間違えたな。
俺以外だったら、危ないところだっただろう。
何より、記憶を取り戻したのが良かった。
ルートを知っていたし、前世の俺の意識が邪神に支配されたアレクに入り込む余地ができた。
そこから逆に支配して、弟にわざと負けるように振る舞った。
「ふぅ……とりあえず、これで俺の役目は終わったはず。あとはエンディングなので、弟が国を平和に治めてくれるし。俺は追放されるけど……転生して二十年、ようやく自由を手に入れた……ククク……ふははっ! ここからは念願のスローライフを送るのだっ!」
前世も今世も苦労ばかり! 良い加減、俺だってダラダラしたい!
上手く立ち回って民には迷惑がかからないようにやったし、不正や犯罪を働く貴族達は排除した。
かなり頑張ったしそれくらいは許されも良いはず!
そう決めた俺は、ベットから起き上がり荷物整理を始めるのだった。
ついに、ここまでたどり着くことができた。
弟に玉座の間に呼び出された俺は、とあることを確信する。
「アルス兄さん! 貴方の王族の身分を剥奪し、辺境の地ナイゼルに追放します! 厳しい土地で、その生涯を過ごすのです!」
「……ああ、わかった」
俺は笑みがこぼれないように、唇を噛みしめる。
ようやく、苦労が実って願いが叶うのだから。
「……ですが、兄さんにも情状酌量の余地はあります。いくら王位継承権争いをしたとはいえ、そのほとんどは邪神のせいです。兄さんも犠牲者であり、協力して倒して死者も最小限にとどめて……」
「いけません、国王陛下」
「ソユーズ宰相……しかし」
「それでは、他の者に示しがつきません。いくらアルス王子に理由があろうとも国を混乱に陥れたのは事実なのですから。最悪の場合、死刑もありえたのです」
良いぞソユーズ、ジークにもっと言ってやれ。
こいつは甘いところがあるから、本気で俺を許しかねない。
それでは……エンディングを迎えることができない。
「それは許しません。それに、それには皆が納得したでしょう。何より、そんなことをしたらアルス兄さんを慕っている連中が暴れてしまいます」
「ならば、せめて追放をしてください」
「……わかりました。 先ほどの言葉通り、兄さんは荷物をまとめてナイゼルに行ってください」
「わかった……ジークよ、世話をかけたな」
「っ……! アルス兄さん……お元気で」
「ジーク、俺のたった一人の弟よ……俺が言えた義理ではないが、この国を頼んだぞ」
もう、俺の身内はジークとたった一人の妹以外にはいない。
俺は悲しそうな表情をしながら、玉座の間から出ていく。
しかし、ある意味で俺の心は晴れやかだった。
これで、俺の悪役転生は幕を閉じたのだから。
◇
その表情を維持したまま、自分の部屋へと戻り……。
「……よし、これで外に音は漏れないな」
この部屋は風の結界により、音が遮断された状態になっている。
なので、勢いよくベッドの上に飛び込む!
「ふははっ! ようやくだっ!」
ここまでたどり着くまで大変だった!
元アラサーの日本人である俺が転生したのは、アリストア戦記というゲーム世界だったからだ。
しかも、その物語の悪役……漆黒の髪に闇魔法を駆使する、アルス-アスカロンという存在に。
剣と炎魔法に適正があり、才能がないのに自分より人望がある弟を憎んでしまう悪役だ。
そこを邪神に精神を支配され、王国を混乱に陥れる王太子という設定だ。
「いやー、最初はビビった。十五歳で記憶を取り戻した時には、もう邪神に取り憑かれて破滅が決まってる王子だもんなぁ」
本来なら弟であるジークによって、討たれる運命にあった。
ただし、有難いことに悪役にも救済ルートが存在した。
兄弟が手を取り合って、共に邪神を倒すというルートが。
十五歳の時に両親が亡くなり、王位を継いだ瞬間に前世の記憶が蘇った。
その後、俺はうまく立ち回りつつ、そのルートに入ることができたってわけだ。
「ふふふ、ようやく身を結んだぞ。これで、王位を継ぐこともない。先に邪神を倒して、ふつうに王位を継ぐことも考えたが……それだとめんどくさい。俺は王位なんかに興味はないし。何より、それでストーリーが違って国が滅ぶようなイレギュラーがあったら怖いし」
ルートは三つあり、一つが邪神ごと悪役を殺す通常ルート。
もう一つは、悪役が勝ってしまうバットエンド。
最後が邪神を体から追い出して共に倒すルートだ。
「邪神に精神を支配されないように且つ、それを抑え込むのは苦労したが……ふっ、元の世界で孤児で社畜で婚約者を寝取られた俺を精神支配しようとは甘いわ……グフッ!」
い、いかん! 自分で言ってダメージを受けすぎた!
だが、邪神も入る相手を間違えたな。
俺以外だったら、危ないところだっただろう。
何より、記憶を取り戻したのが良かった。
ルートを知っていたし、前世の俺の意識が邪神に支配されたアレクに入り込む余地ができた。
そこから逆に支配して、弟にわざと負けるように振る舞った。
「ふぅ……とりあえず、これで俺の役目は終わったはず。あとはエンディングなので、弟が国を平和に治めてくれるし。俺は追放されるけど……転生して二十年、ようやく自由を手に入れた……ククク……ふははっ! ここからは念願のスローライフを送るのだっ!」
前世も今世も苦労ばかり! 良い加減、俺だってダラダラしたい!
上手く立ち回って民には迷惑がかからないようにやったし、不正や犯罪を働く貴族達は排除した。
かなり頑張ったしそれくらいは許されも良いはず!
そう決めた俺は、ベットから起き上がり荷物整理を始めるのだった。
46
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
聖女も聖職者も神様の声が聞こえないって本当ですか?
ねここ
ファンタジー
この世界では3歳になると教会で職業とスキルの「鑑定の儀」を受ける義務がある。
「鑑定の儀」を受けるとスキルが開放され、スキルに関連する能力を使うことができるようになり、その瞬間からスキルや身体能力、魔力のレベルアップが可能となる。
1年前に父親を亡くしたアリアは、小さな薬店を営む母メリーアンと2人暮らし。
3歳を迎えたその日、教会で「鑑定の儀」を受けたのだが、神父からは「アリア・・・あなたの職業は・・・私には分かりません。」と言われてしまう。
けれど、アリアには神様の声がしっかりと聞こえていた。
職業とスキルを伝えられた後、神様から、
『偉大な職業と多くのスキルを与えられたが、汝に使命はない。使命を担った賢者と聖女は他の地で生まれておる。汝のステータスを全て知ることができる者はこの世には存在しない。汝は汝の思うがままに生きよ。汝の人生に幸あれ。』
と言われる。
この世界に初めて顕現する職業を与えられた3歳児。
大好きなお母さん(20歳の未亡人)を狙う悪徳領主の次男から逃れるために、お父さんの親友の手を借りて、隣国に無事逃亡。
悪徳領主の次男に軽~くざまぁしたつもりが、逃げ出した国を揺るがす大事になってしまう・・・が、結果良ければすべて良し!
逃亡先の帝国で、アリアは無自覚に魔法チートを披露して、とんでも3歳児ぶりを発揮していく。
ねここの小説を読んでくださり、ありがとうございます。
出来損ない皇子に転生~前世と今世の大切な人達のために最強を目指す~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
ある日、従姉妹の結衣と買い物に出かけた俺は、暴走した車から結衣を庇い、死んでしまう。
そして気がつくと、赤ん坊になっていた。
どうやら、異世界転生というやつをしたらしい。
特に説明もなく、戸惑いはしたが平穏に生きようと思う。
ところが、色々なことが発覚する。
え?俺は皇子なの?しかも、出来損ない扱い?そのせいで、母上が不当な扱いを受けている?
聖痕?女神?邪神?異世界召喚?
……よくわからないが、一つだけ言えることがある。
俺は決めた……大切な人達のために、最強を目指すと!
これは出来損ないと言われた皇子が、大切な人達の為に努力をして強くなり、信頼できる仲間を作り、いずれ世界の真実に立ち向かう物語である。
主人公は、いずれ自分が転生した意味を知る……。
ただ今、ファンタジー大賞に参加しております。
応援して頂けると嬉しいです。
ねえ、今どんな気持ち?
かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた
彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。
でも、あなたは真実を知らないみたいね
ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・
学園長からのお話です
ラララキヲ
ファンタジー
学園長の声が学園に響く。
『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』
昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。
学園長の話はまだまだ続く……
◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない)
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
あれ?なんでこうなった?
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、正妃教育をしていたルミアナは、婚約者であった王子の堂々とした浮気の現場を見て、ここが前世でやった乙女ゲームの中であり、そして自分は悪役令嬢という立場にあることを思い出した。
…‥って、最終的に国外追放になるのはまぁいいとして、あの超屑王子が国王になったら、この国終わるよね?ならば、絶対に国外追放されないと!!
そう意気込み、彼女は国外追放後も生きていけるように色々とやって、ついに婚約破棄を迎える・・・・はずだった。
‥‥‥あれ?なんでこうなった?
婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです
かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。
強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。
これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる