上 下
68 / 69
料理人は人々と交流する

共同作業

しおりを挟む
その後、話し合いを済ませたアリアさんと合流する。

俺はと言えば、報酬である小麦粉や卵をもらってホクホクである。

「どうでしたか? こっちは有難いことにお礼を頂きました」

「ふふ、それは良かったな。とりあえず、こちらも大きな問題はなさそうだ。奇跡的に人的被害もないから、誰も文句は言わんだろう。他の誰であっても、タツマ以上のことはできなかったからな」

「それでは、キングオクトパスはもらっても?」

「そもそも、誰も欲しがらんさ」

そうだった、不味いから食わないんだった。
しかし、折角の美味いものを知らないというのは可哀想だ。

「あれを使って、何処かで料理はできますか?」

「ああ、可能だと思う。タツマの要望なら、ある程度は通るだろう」

「それでは、住民達に作ってあげたい料理があります。もちろん、今回は無料で」

「ふむ……何か大きな事件があった後は、それを払拭するイベントをやるのが定番だ。タツマの料理をそれに当てるのもありか……わかった、確認するから待っててくれ」

「はい、ありがとうございます」

アリアさんが再び話し合いをする中、俺はハクを撫で回す。

「ハク、お前にも食わせてやるからな」

「ワフッ!」

ハクは嬉しいのか、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。
どうやら、飼い主に似て食いしん坊になったらしい。
そして許可が下り、俺は早速準備に入る。
しかし、その時に重大なことに気づいてしまった。

「アリアさん、小さい穴がいくつも空いた鉄製の鍋とかないですよね?」

「なんだそれは? ……聞いたことがないな」

……それゃそうだ。
この世界にたこ焼き機なるものがあるわけがない。
そもそも、そのタコを食べないんだから。

「はぁ……どうするかな」

「ん? その道具がないと作れないのか?」

「いえ、そんなこともないんですけどね……ん? いや待て……そしたら、あっちを作ればいいのか?」

「何か妙案が浮かんだか?」

「ええ、どうにかなりそうです」

考えがまとまった俺は、屋台用に使う鉄板と、調理用具一式を用意してもらう。
そして港付近の場所を借り、アリアさんと料理を始める。 

「言っておくが、私は戦力にならんぞ?」

「大丈夫ですよ、料理と言っても簡単なものなので」

「そうなのか? では、頑張ってみよう」

そう言い、両手の拳を握り気合を入れてフンスフンスしている……可愛い。
そんなことを思いつつ、俺は器に水に卵、そして小麦粉と片栗粉、塩を加える。

「これを混ぜてください」

「ただ混ぜるだけでいいのか?」

「ええ、もったりするまで良く混ぜてください。俺はその間に、具材を仕込みます」

「うむ、任せろ」      

アリアさんの作業を横目で見ながら、まな板で大量の玉ねぎやニラを刻んでいく。
最後に茹でて下処理したタコを細かく刻んで、野菜と合わせる。
これを繰り返していき、どんどんタネが出来上がっていく。

「タツマ、できたぞ」

「ありがとうございます。それじゃ、その工程を繰り返していきましょう。材料は、俺が使っていた通りに。とにかく、量が必要になるので。ある程度、分量は気にしなくていいので」

「なるほど、タツマがやっていたようにやればいいのか。あれくらいなら、私でも出来そうだな」

そう言い、アリアさんは鼻歌を歌いながら水に小麦粉などを加えていく。
俺は手が止まり、その様子を眺めてしまう……なんか、新婚さんみたいだな。
すると、アリアさんと目が合った。

「ん? な、何か間違えただろうか?」

「い、いえ! 鼻歌を歌っていたので……」

「……へっ? わ、私が?」

「あれ? 気づいてませんでしたか?」

「うぅー……なんたることだ」

今度は耳が赤くなって俯いてしまう。

可愛い、うん、可愛い……我ながら語彙力が死んでる。

その後、作業をするが鼻歌が聞こえることはなかった。

……しまった、言わなければ良かった。




~あとがき~

新作を投稿したので、よろしければご覧くださいませ(*´∀`*)

「追放された英雄の辺境生活~静かに過ごしたいのに周りが放ってくれない~」

私らしい作品となっておりますので、よろしくお願いいたします🙇‍♂️
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

婚約破棄されて異世界トリップしたけど猫に囲まれてスローライフ満喫しています

葉柚
ファンタジー
婚約者の二股により婚約破棄をされた33才の真由は、突如異世界に飛ばされた。 そこはど田舎だった。 住む家と土地と可愛い3匹の猫をもらった真由は、猫たちに囲まれてストレスフリーなスローライフ生活を送る日常を送ることになった。 レコンティーニ王国は猫に優しい国です。 小説家になろう様にも掲載してます。

異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。

長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍2巻発売中ですのでよろしくお願いします。  女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。  お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。  のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。   ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。  拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。  中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。 旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜

西園寺若葉
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

W職業持ちの異世界スローライフ

Nowel
ファンタジー
仕事の帰り道、トラックに轢かれた鈴木健一。 目が覚めるとそこは魂の世界だった。 橋の神様に異世界に転生か転移することを選ばせてもらい、転移することに。 転移先は森の中、神様に貰った力を使いこの森の中でスローライフを目指す。

処理中です...