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料理人は人々と交流する

キングオクトパス

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 改めて見ると、その大きさに驚く。

 船と同サイズということは、小さなマンションくらいの大きさはあるぞ。

 そいつは俺の登場に戸惑ったのか船から離れ、大きな目と触手をうねうねさせながら様子見をしている。

「フシュー……」

「さて、問題はどうやって倒すかだな」

 来てみたものの、俺には遠距離攻撃の手段がない。
 救出が来るまでの時間稼ぎでもいいかもしれないが……いや、待てよ? 確か、アレをもらっていたな。
 すると、アリアさんが俺の肩に触れる。

「タツマ、そのまま静かに聞いてくれ」

「はい? ……ええ、わかりました」

 俺は目の前のキングオクトパスから目を逸らさずに、少しだけ耳を傾ける。

「船長に聞いたところ、船のあちこちに亀裂が入っているらしい。パニックになるので、まだ一部の乗組員には伝えていないそうだが……」

「なるほど……そうなると、救助を待つ間に沈んでしまいますね」

「ああ、その可能性が高い。短期決戦が望ましいが、できるだろうか? もし私に手伝えることがあれば言ってくれ。彼らは我が国の民なのだ……出来れば、全員救ってあげたい」

 そう言い、俺を真っ直ぐに見つめてくる。
 俺を信頼する瞳と、自分も何かしたいという意志の強さを感じる。
 これで応えないようなら……男じゃない。

「わかりました、やってみましょう。では、俺は敵に集中します……アリアさんはここにいて、もし触手が来たら対処してください」

「うむ、任せてくれ……ふふ、ようやくタツマの役に立てそうだ。いつも、助けてもらってばかりだからな」

「いやいや、俺の方が助けられてますって。ハク、アリアさんのフォローを頼む」

「ワフッ!」

 アリアさんが剣を構え、ハクが足元で臨戦態勢に入るのを確認し……俺は魔法の壺の中から、折れた槍を取り出す。

「タツマ? なんだ、その柄の部分が折れた槍は……槍の先端自体はまだ無事だが」

「これはドワーフのノイス殿に貰ったんですよ。使えなくなった武器を回収して、本来なら再利用するみたいなのですが……それを格安で譲ってもらいました」

「ふむ、そういうことか。しかし、それを一体……」

「まあ、見ててください」

 キングオクトパスは相変わらず様子見をして、こちらに近づいてこない。
 なので、まずはこちらにも遠距離攻撃があることを示す。
 俺はやり投げの要領で肩に槍を構え——勢いよく放つ!

「シッ!」

「キシャャャャ!?」

 俺の放った槍は、相手の皮膚に突き刺さった。
 血も流れているので、そこそこのダメージはありそうだ。
 ただ、決定打にはなりそうにない。
 隙をついて逃げようにも、相手は船の先端側にいるので無理だ。
 船は後ろには下がれない。

「な、なんと!? まるで槍を飛ばす攻城兵器のようではないか!」

「えっ? ……言われてみればそうですね」

「人の膂力で同じ威力を発揮するとは……流石はタツマだ」

「はは……ご期待に添えるとしますか」

 男とは単純なもので、美人さんに褒められるとやる気が出る。
 気を良くした俺は、次々と槍を放っていく。
 すると、相手が痛みに耐えかねたのか……触手を伸ばしながら船に近づいてくる。

「来ました! それでは、作戦通りに!」

「うむ!」

「ワフッ!」

 俺が駆け出すと同時に、八本の触手が次々と襲いかかってくる。
 一瞬だけ後ろを見ると、アリアさんとハクが触手に対応していた。
 だが、長くは保たないだろう。
 何より、再びあいつに距離を取られるとまずい……ここは一気に勝負をつける!

「ふんっ!」

「キシャ!?」

 俺は目の前に迫る触手のみを大剣で切り飛ばし、一気に距離を詰める。
 そして、船の先端を足場にして——大剣を上段に構え思い切り跳躍する。
 俺の体はキングオクトパスの頭上を通過し……。

「ウォォォォォォ!」

「キシャャャャ!? ……ァァァ……」

 落下の勢いのまま振り下ろした大剣は、キングオクトパスを真っ二つに切り裂いた。

 そして俺は、そのまま海へと落下するのだった。


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