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料理人は人々と交流する

海を渡る男

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……己の身体能力と、ハクを信じろ。

そして、アリアさんに負担がかからないように。

海に向けて走り出す俺の頭は、そのことだけでいっぱいになる。

「……ハク!」

「ワフッ!」

俺の声に応じ、肩に乗っかったハクが氷のブレスを放つ!
それは僅かだが海の表面を凍らせる。
俺はそれに向かって、地面を蹴って飛び上がる。

「む、無茶だ!? この高さと氷の薄さでは支えきれん!」

「平気です! 俺を信じてしっかり捕まってください!」

「っ~!? わ、わかった!」

そう言い、さらにぎゅっと抱きつく。
当然、体にあちこち触れるし、良い匂いがするが……今は、その全てを抑え込む。
そして、足に全神経を集中させ……氷に着地をする。
すると氷は割れることなく、俺は軽くジャンプをして海を越えていく。

「よし成功だ! ハク! 次の氷を!」

「ワフッ!」

俺の道行先に、ハクが氷の道を作ってくれる。
俺はそれを利用して羽のように飛び、船がある方へ向かう。
ハクも慣れたのか、俺が声をかけずとも氷の道を作っていく。

「ど、どうなってる!? どうして、氷が割れてもいない!? あの薄さでは、どう考えても我々を支えきれないと思うのだが……」

「身体の使い方の一種で、軽功という名前の技です」

俺が今使っているのは、自分の体を軽くするという技だ。
正確には、着地の瞬間に衝撃を最小限に抑えるようにしている。
高いところから落ちても足音がしない人がいるが、それと似たようなことをしている。
おそらく、今の身体なら可能だと思った。

「ケイコウ? 魔法の技か?」

「いや、どちらかというと気功に近いです……そういえば、気ってあります?」

「ああ、あるぞ。我々は使えないが、竜人などは気を使うとか。確かに、竜人は海の上を走るとかいう逸話もある……それに近いということか」

「へぇ、今度ドランに聞いてみますか」

「いや、それは秘技だと聞いたことがある。そもそも、タツマは何故使えるのだ?」

「あぁー……親父さんに仕込まれたので。水に浮かべた葉っぱを渡る訓練とか。真冬にやって、死ぬかと思いましたよ」

あの時は失敗して真冬で死ぬかと思った。
ただ、その失敗から……どうにかして習得したんだ。
まったく、こんなところで役にたつなんてな。

「それは……中々の御仁だな」

「ええ、本当に」

「ワフッ!」

そうこう言っている間に、敵の全貌が見えてきた。
やはり、どこからどう見ても大きなタコである。
八本の足が船体へと絡みつき、今にも沈みそうになっていた。

「フシュュュ!」

「も、もうだめだぁぁ! 船を捨てて逃げろ!」

「馬鹿言うな! ここには荷物が!」

「命より大事なものなどない!」

「だが、海に飛び込んでも魔獣たちが……!」

どうやら、意見が割れているようだ。
だが、まだ死人は出てない様子。

「アリアさん! 飛びます! ハクもしっかり掴まってろ!」

「う、うむっ!」

「ワフッ!」

「ウォォォォォォ!」

最後の氷に着地をし、思い切りジャンプをする。
すると、俺の視界は船を下に捉えていた。
それも、ゆうに十メートルを超えるほどに。

「あっ、飛びすぎた……落ちますので気をつけて」

「ふぇ?  ……えぇぇぇぇ!?」

「キャウーン!?」

「ウォォ!?」

俺の身体は重力に従い、地面に向かって落下する。
この位置からの軽功は無理……俺は逆に足に力を込めて——地面に着地する!

「っ~!? し、痺れた……」

「ば、馬鹿者! 変な声が出てしまったではないか!」

そう言い、俺の胸をポカポカと叩いてくる。
こんな時だと言うのに、可愛らしいという感想が出てきた。

「す、すみません! 飛びすぎました!」

「ま、まったく、非常識な男だ……だが、おかげで間に合ったようだな」

「ええ、そうみたいですね」

「ワフッ!」

振り返ると、船員達がぽかんとしていた。
おそらく、状況を飲み込めていないのだろう。

「アリアさん、事情説明は任せます」

「ああ、邪魔だけはさせない」

「ハクもよくやってくれた。後は、お父さんに任せろ」

「キャン!」

俺はアリアさんとハクを下ろし、目の前の敵と向き合う。

さあ、貴様には——美味しいディナーになってもらおうか。



~あとがき~

みなさま、こんにちは。

本日5月22日にアルファポリス様より「自由を求めた第二王子の勝手気ままな辺境ライフ」という書籍が発売となりました!

ほのぼのスローライフとなっており、興味のある方は買ってくださると幸いです🙇‍♂️
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