上 下
62 / 69
料理人は人々と交流する

砂浜デート

しおりを挟む
俺は依頼人に荷物を届け、ギルドに報告する。

そして、急いでアリアさんの元に向かう。

アリアさんは言っていた通り、海沿いのベンチに座っていた。

その側では、ハクが番犬のように足元にいる。

「アリア……」

「キャン……!」

俺が声をかけようとすると、ハクが小声で止めてくる。
なので、静かに近寄ると……。

「ハク? ……なるほど」

「すぅ……」

そこには、スヤスヤと寝ているアリアさんがいた。
その無防備な姿は、景色と相まってとても綺麗だった。

「ハク、きちんと守ってくれたようだな?」

「ワフッ」

「いい子だ」

どうやら、トラブル等はなかったらしい。
俺がハクの頭を撫でていると……。

「ククーン?」

「ん? ……ああ、起さなくていいだろう。もう少し、寝かせてあげよう」

「ワフッ」

おそらく、普段は忙しくてゆっくりする時間もないのだろう。
すると、お昼を過ぎたからか人集りが出来てきた。
なので俺も隣に座り、アリアさんの護衛を引き継ぐ。

「……すぅ……」

「……いかんいかん、あんまり見るものじゃない」

綺麗なので、つい見てしまう。
ここが海沿いで、正面に誰もいなくて良かった。
すると、肩に重みを感じ……横を見ると、アリアさんが肩に寄りかかっていた。

「な、な……」

「……うぅー……すぅ」

「ど、どうする?」

髪の香りやら、腕に当たる柔らかな感触に戸惑う。
だが、どうすることもできないので……景色を見ることに集中して無になる。
……無論、無になれるわけがなかったが。





そして、膝に乗ったハクを撫でていると……アリアさんが身じろぎをする。

「ん……私は一体?」

「あっ、起きましたか?」

「……な、なっ~!? すまない!」

目があったアリアさんが、俺から飛び起きるように離れる。
少し残念でありが、同時にホッとした。

「いえ、お気になさらずに」

「よ、よだれとか……寝言とか」

「別に平気ですよ。それと、ハクがしっかり番犬をしてたみたいですから」

「ワフッ!」

「そうか。ふふ……ハク、ありがとう」

ハクが俺の膝からアリアさんに飛び乗り、頭を撫でられてご機嫌な様子だ。

「さて、この後はどうしますか?」

「そうだな……お腹も空いたが、その前に少し砂浜を歩かないか?」

「キャウン!」

「おっ、どうやらハクも賛成みたいですね。それじゃ、歩きますか」

アリアさんとハクを連れて、すぐ近くにある階段を下りて砂浜を歩く。
ハクは初めての感触が楽しいのか、ずっと砂を踏みつけている。

「ワフッ!」

「そうか、楽しいか」

「キャウン!」

「ふふ、可愛いものだな。こうして遊んでいる様は、恐れられるフェンリルとは思えんな」

……ん? これって良く良く考えてみたら、めちゃくちゃデートっぽくないか?
犬を連れて、私服姿の女性と散歩をする。
今は依頼もないので、俺自身もプライベートな時間だ。

「タツマよ、どうしたのだ?」

「い、いえ、なんでもありません」

下から覗き込まれて、思わず動揺してしまう。
これでは、本当にデートのようではないか。

「ふふ、変な奴め」

「キャンキャン!」

「ハクが早く早くって言ってますね」

「よし、私達も少し走るとするか」

駆けるハクを追いかけ、アリアさんがスカート持ち上げて走る。
俺はその非日常的な景色に見惚れて、しばらく立ち尽くしてしまう。

「ほら! タツマも!」

「え、ええっ!」

慌てて追いかけて、並んで軽く走る。
それだけで、なんだかめちゃくちゃ楽しい。

「それにしても……こうして、のんびりできるのは久しぶりだ。タツマには感謝しないといけないな」

「いえいえ、こちらは付き合ってもらってる身ですから」

「しかし、私が来た意味はお主の監視だったのだぞ? 特に問題も起きてないし、これではただの休みではないか」

「まるで、いつも俺か何か問題を起こして……はい、すみません」

ジト目で睨まれたので、すぐに手を上げて降参のポーズを取る。
確かに、問題ばかり起こしてる気がするし。

「ふふ、今回は何もなさそうで良かったよ」

「いやいや、ダメですって。そういうこというと、何かが起きるので……フラグってやつです」

「うん? それは異世界の知識か?」

「まあ、そんなものです」

「なるほど……ん? あれは何だ?」

アリアさんが指差す方を見ると、海から何かが這い出てきた。

それは海にある船の大きさを超えていた。

……ほら、やっぱりフラグだったじゃないか。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて異世界トリップしたけど猫に囲まれてスローライフ満喫しています

葉柚
ファンタジー
婚約者の二股により婚約破棄をされた33才の真由は、突如異世界に飛ばされた。 そこはど田舎だった。 住む家と土地と可愛い3匹の猫をもらった真由は、猫たちに囲まれてストレスフリーなスローライフ生活を送る日常を送ることになった。 レコンティーニ王国は猫に優しい国です。 小説家になろう様にも掲載してます。

異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。

長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍2巻発売中ですのでよろしくお願いします。  女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。  お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。  のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。   ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。  拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。  中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。 旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

《完結》転生令嬢の甘い?異世界スローライフ ~神の遣いのもふもふを添えて~

芽生 (メイ)
ファンタジー
ガタガタと揺れる馬車の中、天海ハルは目を覚ます。 案ずるメイドに頭の中の記憶を頼りに会話を続けるハルだが 思うのはただ一つ 「これが異世界転生ならば詰んでいるのでは?」 そう、ハルが転生したエレノア・コールマンは既に断罪後だったのだ。 エレノアが向かう先は正道院、膨大な魔力があるにもかかわらず 攻撃魔法は封じられたエレノアが使えるのは生活魔法のみ。 そんなエレノアだが、正道院に来てあることに気付く。 自給自足で野菜やハーブ、畑を耕し、限られた人々と接する これは異世界におけるスローライフが出来る? 希望を抱き始めたエレノアに突然現れたのはふわふわもふもふの狐。 だが、メイドが言うにはこれは神の使い、聖女の証? もふもふと共に過ごすエレノアのお菓子作りと異世界スローライフ! ※場所が正道院で女性中心のお話です ※小説家になろう! カクヨムにも掲載中

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

【完結】女神の使徒に選ばれた私の自由気ままな異世界旅行とのんびりスローライフ

あろえ
ファンタジー
 鳥に乗って空を飛べるなんて、まるで夢みたい――。  菓子店で働く天宮胡桃(あまみやくるみ)は、父親が異世界に勇者召喚され、エルフと再婚したことを聞かされた。  まさか自分の父親に妄想癖があったなんて……と思っているのも束の間、突然、目の前に再婚者の女性と義妹が現れる。  そのエルフを象徴する尖った耳と転移魔法を見て、アニメや漫画が大好きな胡桃は、興奮が止まらない。 「私も異世界に行けるの?」 「……行きたいなら、別にいいけど」 「じゃあ、異世界にピクニックへ行こう!」  半ば強引に異世界に訪れた胡桃は、義妹の案内で王都を巡り、魔法使いの服を着たり、独特な食材に出会ったり、精霊鳥と遊んだりして、異世界旅行を満喫する。  そして、綺麗な花々が咲く湖の近くでお弁当を食べていたところ、小さな妖精が飛んできて――?  これは日本と異世界を行き来して、二つの世界で旅行とスローライフを満喫する胡桃の物語である。

処理中です...