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料理人は人々と交流する

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 俺はハクを抱えて草原を走り抜け……どうにか門が閉まるギリギリの時間に滑り込む。

「ま、間に合ったわね」

「ああ、そうだな」

「す、涼しい顔しちゃって……こっちは限界だっていうのに。全く、どんな体力してんのよ」

「んなこと言われてもなぁ」

 俺自身も、体力の多さに戸惑ってるくらいだ。
 一時間くらい走り続けても、全く疲れもしない。

「ふぅ……まあ、いいわ。ひとまず、ハンターギルドに行きましょ……早く、その子を帰さないとだしね」

「フスフス……ピスー」

「……よく寝ていられるよな。俺、時速80キロくらいは出てたと思うけど」

「ふふ、それだけ信頼されてるってことね。全く、私の知るフェンリルとは違いすぎて驚きよ」

 俺はハクを起こさぬように、優しく抱いてハンターギルドに向かう。
 そして、既に遅いので裏口から中へと通される。
 門を閉じると同時に、表は閉めてしまうらしい。
 依頼人が来ても困るし、冒険者達に居座られても困るからだとか。

「おう、随分と早かったな。いくらお前達でも、一泊はすると思ったが……まだ幼いフェンリルもいるし」

「結果から言うと、地下五階まで行ってないのよ。その子が、途中でへばっちゃって」

「何? ……いや、仕方あるまい。最強の魔獣フェンリルといえどまだ子供か。しかし、それでも早い気がするが」

「ううん、帰りはエスケープを使ったわ。それで、そこから急いで帰ったってわけ」

 すると、ギルドマスターの顔が一変する。

「な、何だと!? お前、アレはレア度がAクラスのスクロールだぞ!?」

「別に何枚もあるからいいわよ」

「……ギルドマスター、それは貴重なものということですか?」

「ああ、そうだ。ダンジョンの死亡率を下げる希少なアイテムだが、その分入手するのは難しい。地下10階以降に、ごくたまに手に入るくらいだ」

 ……俺は馬鹿か。
 良く良く考えみたら、あんなモノが簡単に手に入るならダンジョン攻略が難しいとか言われるわけがない。

「カルラ、それは言ってくれないと困る」

「だ、だって……私も楽しかったから。だから、タツマにならいいかなって」

「もちろん、気持ちは嬉しい。ただ、借りがでかすぎる。俺は大事な人とは、出来る限り対等でいたいんだ」

「大事な人……ごめんなさい、言うべきだったわ」

「いや、こっちも確認しなかったし助かったのは事実だから。ハクも疲れてたし、そこは感謝してるよ。俺も、次からは気をつけるから」

「ふふ……ほんと、変な人ね。でも、悪くない気分だわ」

 いくらみんなが良くとも、甘えてばかりではいけない。
 そんな関係は健全ではないと個人的には思うから。

「ふむ、話はまとまったか。とりあえず、依頼は達成ということだ。後はハクを鍛えるなり、タツマ自身が色々と学ばねばならんな」

「はい、仰る通りです。それも兼ねて、明日から依頼を受けて行く予定です」

「わかった。それじゃ、今日は帰るといい」

 そして俺達は、ギルドマスターに見送られ外に出る。
 外は真っ暗で、人通りがなく静かだ。
 飲み屋や歓楽街は別として、基本的には寝るのも早いのだろう。

「カルラ、改めて今日はありがとう」

「ううん、さっきも言ったけど私も楽しかったから。また、一緒にダンジョンいきましょ?」

「それはもちろん。ただ、もう少しつりあいが取れないとダメだな。そのためには、ハクを鍛えないと」

「それだと時間がかかりすぎるわよ」

 たしかに最強の魔獣とはいえ、流石にすぐにはダンジョン攻略は無理だろう。
 どう見積もっても、一ヶ月くらいはかかりそうだ。

「そうだなぁ……借りもあるし、何か俺に手伝える依頼とかお願いがあったら言ってくれ」

「それはいいわね、少し考えておくわ」

「よし、決まりだな」

「うんっ! 楽しみにしてるわ! それじゃまたねー!」

 そう言い、文字通り風のように去っていく。

 俺もハクを抱っこしつつ、家路を急ぐのだった。
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