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料理人は異世界で生きていく
連鎖を断つ
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……一度、思ったことがある。
幼い頃に理不尽な暴力にさらされた俺は、それに対抗できる力が欲しかった。
親父さんに頼み込んで武道の世界にいったが、きっと見抜かれていただろう。
俺の弱い心と溢れでる暴力性をどうにかするため、鍛えたのだと思う。
結果として法律や環境、そして復讐する相手が死んでしまっていたから使う機会はなかった。
しかし、もし法律も関係なく相手が生きていたなら……俺はどうしていただろうか?
今となってはわからないが、今回に限って言えばアリアさんに救われたことは確かだ。
「……も、もう平気ですよ」
「そ、そうか……」
しまった、照れ臭くてアリアさんの顔が見れない。
というか、柔らかくて怒りが何処かに吹き飛んだ。
「まとまりましたか?」
「わわっ!? いつからいた!?」
「いや、最初からいたじゃないですか。それで、彼ですが色々と余罪がありそうですね。テイムされた魔獣を殺そうとした罪以外にも」
「ああ、わかってる。それもあって、奴はどちらにしろ結末は変わらん。タツマ殿は、そこで彼らとゆっくり待っててくれ」
「わかりました」
俺は目線を合わせないまま、踵を返してハクのもとに向かう。
側にはハクを治療してる魔法使いらしき人と、エルルとカイルがいた。
エルルとカイルは泣きながら、ハクに抱きついている。
「ハクちゃん! 良かった!」
「へへ、生きてたか! 次は俺だって戦うかんな!」
「ワフッ」
「二人とも」
俺が話しかけると二人がビクッとする。
どうやら、怖がらせてしまったか。
敵とはいえ、あのような仕打ちをしたのだ……子供たちからすれば恐怖だろう。
「いや、すまん……」
「ガウッ!」
「ハク?」
何やらハクが、二人に話しかけている。
すると、二人の表情が変わっていく。
「ち、違うよっ! 怖いんじゃなくて……」
「お、俺たちのせいだから、怒られるかなって……」
「ワフッ!」
ハクが俺の顔を見て『ほら! しっかり話して!』と言っている。
やれやれ……これでは、どっちが親かわからん。
そういえば親父さんも、子育てをして自分も学んだとか言ってたな。
「そういうことか。いや、怒っていないから安心してくれ。ハクに頼んだのは俺だし、それを実行したのはハクだ。むしろ、よく逃げずに連絡をしてくれた。おかげで、間に合ったよ」
「ワフッ!」
「えへへ……ハクちゃんのお父さんは、優しくて強い人なんだね!」
「……俺も強くなりたい」
「そうなりたいとは思っているけどな。カイルも、強くなれるさ。俺も、君くらいの時は泣いてばかりで弱かったから」
俺が虐待から救われたのは中学生の時だった。
あの頃は泣いてばかりで、どうして自分だけがこんな目にあうのかと嘆いてた。
それを親父さんが救ってくれた。
「本当に?」
「ああ、そうさ。そうだな……強くなりたいなら、俺が稽古をつけるか?」
「えっ!? いいの!?」
「これも何かの縁だろう」
「よ、よろしくお願いします!」
その姿は、まさしく昔の俺だ。
親父さんに、強くなりたいから稽古をしてくれと言った時と。
「タツマ殿」
「あっ、アリアさん」
「どうやら、そっちもまとまったみたいだな」
「ええ、そうですね」
後ろには焦燥した姿のローレンスがいた。
腕には鎖があり、まるで罪人のような格好だ。
「やはり、従魔に手を出したからですか?」
「もちろん、それもある。しかし、他にも余罪があったようでな。それに元々、彼奴には気をつけていた」
「そうなんですか?」
「ああ、王都で問題を起こして辺境に飛ばされたからな。とにかく、もう会うことはないし、お主が罪に問われることはないから安心していい」
「……わかりました」
どうやら、俺は罪に問われないらしい。
少し釈然としないが、それがこの世界ということだろう。
その後、怪我人を運んだり、建物の火を消したりして時間が過ぎていく。
それがひと段落する頃、簡易キッチンが運ばれてくる。
「タツマ殿、約束のものだ」
「ありがとうございます。それでは、作りますね」
「ああ、頼む。こんなことがあったから、それを払拭したい」
「わかりました、任せてください」
台の上にコカトリスの肉を置いて、一口大に切っていく。
ニンニクと玉ねぎを練りこんだら、少しの間放置する。
その間に骨を水から煮ていく。
「ワフッ!」
「ん? どうした? ご飯はまだできないぞ?」
ハクも氷のブレスを吐いて、鎮火を手伝ってくれた。
住民達にも感謝され、さっきまでもみくちゃにされていたっけ。
「キャン!」
「……骨が欲しいのか?」
「ワフッ!」
「はいはい……ほらっ!」
「キャウン!」
試しに投げると、嬉しそうに駆けていく。
どうやら、この辺りは犬と変わらないらしい。
「エルル! カイル! ハクと遊んでやってくれ!」
「「うんっ!!」」
「ワフッ!」
小さい子達が戯れてる間に、調理を進めていく。
骨から出た灰汁を取りつつ、まな板の上で野菜類を切っていく。
このスラム街の人には栄養が足りてない。
肉だけでなく、野菜もたっぷりとらないと。
「コカトリスの肉は見た目も鶏肉に近い。ということは、ビタミンやタンパク質、それにアミノ酸もあるかもしれない」
「タツマ殿、その肉はコカトリスなのか?」
「ええ、そうですよ」
「しかし、コカトリスの肉は毒があって食えないはずだが……それに肉の色が違う。本来は黒くて固そうだったはず」
「へぇ、そうなんですね。いえ、これなら食べられます。ただ、皆さんには言わない方がいいですね」
どうやら偏見のある魔獣のようだし。
まずは先入観なしで食べてもらいたい。
「ふむ……いや、お主を信じよう。最悪、私が責任を取る。回復魔法も使えるしな」
「ありがとうございます。まあ、そんなことにはならないと思いますが」
会話をしつつも、手を動かしていく。
灰汁をとったスープの出汁に、醤油椎茸と水分の出る白菜を足す。
そこに仕上げに野菜を入れて完成だ。
これである程度は栄養が取れる。
「さて……暗くなってきましたし、そろそろ肉を焼いていきますか」
「うむ、そうだな。皆の者! 一列に並んでくれ! 予定通り、今から炊き出しを行う!」
「「「ウォォォ!!」」」
それを聞いていた住民から歓声が上がる。
ずっと待っていたので、待ちに待ったといった感じだ。
「お母さん! 炊き出しって何?」
「うぅ……ご飯を食べれるってことよ」
「ほんと!? お母さんも!?」
「えっ? そ、それはどうかしら……?」
「じゃあ、僕の分を分けてあげる!」
そんな声があちこちから聞こえてくる。
少し羨ましい気持ちはある……だが俺自身は望めなかったけど、それはこの子達には関係ない。
自分がされた辛いことを人にしてはいけないと思うから。
それでは、ずっと同じことの繰り返しだと教わった。
「タツマ?」
「アリアさん、少し見ててください」
火の番をアリアさんに任せ、俺はその少年の前で膝をつく。
「少年、お母さんは好きか?」
「うんっ! ただ、いつも僕の分のご飯を作ってるから自分の分を食べてないんだ」
「そうか、それなら安心していい。お母さんの分もたっぷりあるからな」
「ほんと!?」
「ああ、だからお腹いっぱい食べるといい。皆さんも安心して食べてください」
「わぁーい!」
ふと視線をあげると、お母さんが涙を流してお辞儀をしていた。
俺は軽く手を振って、アリアさんの元に戻る。
「ふふ、良い男だな」
「そうですかね? そうなれたら嬉しいですが、まだまだ未熟ですよ」
「そんなことないさ。その、あれだ……少なくとも、私はかっこいいと思った」
「そ、そうですか」
その微笑みに、心臓が高鳴る。
なんとも言えない照れ臭さを感じ、思わずそっぽを向いてしまう。
この人のこういうのは不意打ちでずるいなぁ。
幼い頃に理不尽な暴力にさらされた俺は、それに対抗できる力が欲しかった。
親父さんに頼み込んで武道の世界にいったが、きっと見抜かれていただろう。
俺の弱い心と溢れでる暴力性をどうにかするため、鍛えたのだと思う。
結果として法律や環境、そして復讐する相手が死んでしまっていたから使う機会はなかった。
しかし、もし法律も関係なく相手が生きていたなら……俺はどうしていただろうか?
今となってはわからないが、今回に限って言えばアリアさんに救われたことは確かだ。
「……も、もう平気ですよ」
「そ、そうか……」
しまった、照れ臭くてアリアさんの顔が見れない。
というか、柔らかくて怒りが何処かに吹き飛んだ。
「まとまりましたか?」
「わわっ!? いつからいた!?」
「いや、最初からいたじゃないですか。それで、彼ですが色々と余罪がありそうですね。テイムされた魔獣を殺そうとした罪以外にも」
「ああ、わかってる。それもあって、奴はどちらにしろ結末は変わらん。タツマ殿は、そこで彼らとゆっくり待っててくれ」
「わかりました」
俺は目線を合わせないまま、踵を返してハクのもとに向かう。
側にはハクを治療してる魔法使いらしき人と、エルルとカイルがいた。
エルルとカイルは泣きながら、ハクに抱きついている。
「ハクちゃん! 良かった!」
「へへ、生きてたか! 次は俺だって戦うかんな!」
「ワフッ」
「二人とも」
俺が話しかけると二人がビクッとする。
どうやら、怖がらせてしまったか。
敵とはいえ、あのような仕打ちをしたのだ……子供たちからすれば恐怖だろう。
「いや、すまん……」
「ガウッ!」
「ハク?」
何やらハクが、二人に話しかけている。
すると、二人の表情が変わっていく。
「ち、違うよっ! 怖いんじゃなくて……」
「お、俺たちのせいだから、怒られるかなって……」
「ワフッ!」
ハクが俺の顔を見て『ほら! しっかり話して!』と言っている。
やれやれ……これでは、どっちが親かわからん。
そういえば親父さんも、子育てをして自分も学んだとか言ってたな。
「そういうことか。いや、怒っていないから安心してくれ。ハクに頼んだのは俺だし、それを実行したのはハクだ。むしろ、よく逃げずに連絡をしてくれた。おかげで、間に合ったよ」
「ワフッ!」
「えへへ……ハクちゃんのお父さんは、優しくて強い人なんだね!」
「……俺も強くなりたい」
「そうなりたいとは思っているけどな。カイルも、強くなれるさ。俺も、君くらいの時は泣いてばかりで弱かったから」
俺が虐待から救われたのは中学生の時だった。
あの頃は泣いてばかりで、どうして自分だけがこんな目にあうのかと嘆いてた。
それを親父さんが救ってくれた。
「本当に?」
「ああ、そうさ。そうだな……強くなりたいなら、俺が稽古をつけるか?」
「えっ!? いいの!?」
「これも何かの縁だろう」
「よ、よろしくお願いします!」
その姿は、まさしく昔の俺だ。
親父さんに、強くなりたいから稽古をしてくれと言った時と。
「タツマ殿」
「あっ、アリアさん」
「どうやら、そっちもまとまったみたいだな」
「ええ、そうですね」
後ろには焦燥した姿のローレンスがいた。
腕には鎖があり、まるで罪人のような格好だ。
「やはり、従魔に手を出したからですか?」
「もちろん、それもある。しかし、他にも余罪があったようでな。それに元々、彼奴には気をつけていた」
「そうなんですか?」
「ああ、王都で問題を起こして辺境に飛ばされたからな。とにかく、もう会うことはないし、お主が罪に問われることはないから安心していい」
「……わかりました」
どうやら、俺は罪に問われないらしい。
少し釈然としないが、それがこの世界ということだろう。
その後、怪我人を運んだり、建物の火を消したりして時間が過ぎていく。
それがひと段落する頃、簡易キッチンが運ばれてくる。
「タツマ殿、約束のものだ」
「ありがとうございます。それでは、作りますね」
「ああ、頼む。こんなことがあったから、それを払拭したい」
「わかりました、任せてください」
台の上にコカトリスの肉を置いて、一口大に切っていく。
ニンニクと玉ねぎを練りこんだら、少しの間放置する。
その間に骨を水から煮ていく。
「ワフッ!」
「ん? どうした? ご飯はまだできないぞ?」
ハクも氷のブレスを吐いて、鎮火を手伝ってくれた。
住民達にも感謝され、さっきまでもみくちゃにされていたっけ。
「キャン!」
「……骨が欲しいのか?」
「ワフッ!」
「はいはい……ほらっ!」
「キャウン!」
試しに投げると、嬉しそうに駆けていく。
どうやら、この辺りは犬と変わらないらしい。
「エルル! カイル! ハクと遊んでやってくれ!」
「「うんっ!!」」
「ワフッ!」
小さい子達が戯れてる間に、調理を進めていく。
骨から出た灰汁を取りつつ、まな板の上で野菜類を切っていく。
このスラム街の人には栄養が足りてない。
肉だけでなく、野菜もたっぷりとらないと。
「コカトリスの肉は見た目も鶏肉に近い。ということは、ビタミンやタンパク質、それにアミノ酸もあるかもしれない」
「タツマ殿、その肉はコカトリスなのか?」
「ええ、そうですよ」
「しかし、コカトリスの肉は毒があって食えないはずだが……それに肉の色が違う。本来は黒くて固そうだったはず」
「へぇ、そうなんですね。いえ、これなら食べられます。ただ、皆さんには言わない方がいいですね」
どうやら偏見のある魔獣のようだし。
まずは先入観なしで食べてもらいたい。
「ふむ……いや、お主を信じよう。最悪、私が責任を取る。回復魔法も使えるしな」
「ありがとうございます。まあ、そんなことにはならないと思いますが」
会話をしつつも、手を動かしていく。
灰汁をとったスープの出汁に、醤油椎茸と水分の出る白菜を足す。
そこに仕上げに野菜を入れて完成だ。
これである程度は栄養が取れる。
「さて……暗くなってきましたし、そろそろ肉を焼いていきますか」
「うむ、そうだな。皆の者! 一列に並んでくれ! 予定通り、今から炊き出しを行う!」
「「「ウォォォ!!」」」
それを聞いていた住民から歓声が上がる。
ずっと待っていたので、待ちに待ったといった感じだ。
「お母さん! 炊き出しって何?」
「うぅ……ご飯を食べれるってことよ」
「ほんと!? お母さんも!?」
「えっ? そ、それはどうかしら……?」
「じゃあ、僕の分を分けてあげる!」
そんな声があちこちから聞こえてくる。
少し羨ましい気持ちはある……だが俺自身は望めなかったけど、それはこの子達には関係ない。
自分がされた辛いことを人にしてはいけないと思うから。
それでは、ずっと同じことの繰り返しだと教わった。
「タツマ?」
「アリアさん、少し見ててください」
火の番をアリアさんに任せ、俺はその少年の前で膝をつく。
「少年、お母さんは好きか?」
「うんっ! ただ、いつも僕の分のご飯を作ってるから自分の分を食べてないんだ」
「そうか、それなら安心していい。お母さんの分もたっぷりあるからな」
「ほんと!?」
「ああ、だからお腹いっぱい食べるといい。皆さんも安心して食べてください」
「わぁーい!」
ふと視線をあげると、お母さんが涙を流してお辞儀をしていた。
俺は軽く手を振って、アリアさんの元に戻る。
「ふふ、良い男だな」
「そうですかね? そうなれたら嬉しいですが、まだまだ未熟ですよ」
「そんなことないさ。その、あれだ……少なくとも、私はかっこいいと思った」
「そ、そうですか」
その微笑みに、心臓が高鳴る。
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