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料理人、異世界生活を始める

食事の準備

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全速力で走り抜けた結果、三十分くらいで都市に到着する。

体力もまだまだ残っているし、やはり尋常じゃない体になったらしい。

ただし、ハクは言うと……途中からこの状態である。

「プスー……ピスピス……」

「あらら、可愛らしく寝てるわな」

寝ているハクを抱いたまま。門の人にギルドカードを見せ、そのままアリアさんがいるという兵舎に向かう。

すると、槍を持った兵士達に止められる。

「何者ですか?」

「俺の名前はタツマと申します。申し訳ありませんが、アリアさんに取次をお願いできますか?」

「狼を連れた男……タツマ殿……確かに聞いています! 少々お待ちください!」

「はい、わかりました」

そのままハクの頭を撫でて待っていると……奥の扉からアリアさんが駆けてくる。

「タツマ殿! どうしたのだ? 何か問題があったか?」

「問題ですか?」

「違うのか? お主は意外と喧嘩っ早いところがありそうだからな」

「……はは」

どうしよう? 否定はできない自分がいる。
基本的には自分から売ることはないが、降りかかる火の粉は払うタイプではある。
そうしないと、舐められて次も襲われる場合があるからだ。

「それで、どうしたのだ?」

「実は、釣りをしてクリーンニジマスを取ってきまして……」

「……はっ?」

「それで、ついでに果物なんかも採りまして。これが、中々に使えそうな素材なんですよ」

「待て待て! どういう意味だっ!?」

すると!アリアさんが両手で俺の肩を掴んで揺らす!
その度にふわふわと髪が舞い、良い香りがする。

「い。いや、そのままの意味ですけど……!」

「こ、ここからあそこに行くには数時間かかるんだぞ? それを釣りをして探索をして、夜になる前に帰ってくるとは……本当に規格外の男だな」

「す、すみません。かなり急いでいきましたから。その、食べたいって言ってたので」

「私のためにか……か、感謝する」

「いえいえ、俺が勝手にやってることですから」

すると再び奥の扉が開き、今度はカレンさんがやってくる。

「アリア様、話は聞こえてました。それでは、本日の夕食はタツマ殿とご一緒ということでよろしいですか?」

「わ、私は構わないが」

「では、決まりですね」

「あの、よろしければカレンさんも如何ですか?」

「……私もご一緒して良いと?」

「ええ、もちろんですよ」

「……それでは、有り難くご相伴にあずかりましょう」

すると、二人が顔を見合わせて笑う。

「ふふ、良き御仁だな?」

「ええ、全くです。偏見がないというのも久々ですし」

「何の話ですか?」

「いや、気にしなくて良い」

「はぁ……後、ドワーフのノイスさんをお呼びしたいんです」

「早速のお礼をしたいってことか。うむ、私達は一緒で構わない」

「ありがとうございます。ただ、料理をする場所をどうしようかと……」

宿で好き勝手やるわけにいかないし、まだ自分の店は持ってないし。
かと言って、わざわざ外にまで出させてキャンプさせるのもアレだし。

「それなら、良い場所がありますね。あそこなら、外でも問題ないですし」

「うん? ……ああ、そういうことか。確かに説明も出来て楽かもしれない」

「何やら思い当たる場所があるのですね?」

「ああ、そこなら人数がいても問題ない。カレン、悪いが手配を頼む」

「はい、かしこまりました」

そう言い、カレンさんが人混みに消えていった。
俺はアリアさんと一緒に、ノイス殿の店を訪ねる。

「なんじゃ、また来たのか」

「その、お礼をしようと思いまして……もしよろしければ、食事でもご馳走させてください」

「ほう?  随分と早いのう……その心意気は気に入った。わかった、頂くとしよう」

「ありがとうございます」

ノイス殿も合流し、アリアさんについていくと……建物がない広い空間に出る。
そこには都市の中だというのに、あちこちに出店があって、人々が食べて飲んで騒いでいる。

「ここはなんですか?」

「中央広場といってな、ここでは好きに出店をしても良い。そして、その場で食べて飲むことを許可している」

「なるほど……」

「ふんっ、相変わらず騒がしいわい」

「ノイス殿は嫌いですか?」

「……別に嫌いとは言っとらん」

……どうやら、天邪鬼というか照れ屋さんなのかもしれない。
騒ぐ人々を眺めつつ、カレンさんの元に行くと……そこには簡易キッチンが用意がされていた。
コンロが二口あるので、これならやりやすい。

「あっ、きましたね。すでに下準備は済んでいるので、後はご自由にお使いください」

「ありがとうございます。それじゃあ、早速……」

「ちょっとちょっと! 何を楽しそうなことをやってるのよ!?」

「へっ? ……確か、カルラさんでしたっけ?」

ふと振り返ると、そこにはハイエルフのカルラさんが立っていた。
相変わらず気配を感じないので、索敵とかに適してそうだ。

「さっきぶりね、タツマ。というか、カルラで良いわよ。あと、口調が堅苦しすぎるわ」

「そ、そうですか……いや……わかったよ、カルラ」

正直言って、出会ったばかりの女性に対して呼び捨ては抵抗がある。
しかし、相手が求めているならば仕方ない。
それに気さくな人みたいだし、俺もそういう感じで接した方が良さそうだ。

「ふふ、それで良いわ。それで、何をしてたの? アリアもこんばんはー」

「おいおい、順番がめちゃくちゃだぞ。今から、タツマ殿が料理をご馳走してくれるのだ」

「ふーん、そうなんだ? ……あっ、アンタもいたのね? 小さくて見えなかったわ」

「ふんっ、相変わらず煩いババアじゃわい」

「誰がババアよっ! まだハイエルフじゃ若いんだから! このヒゲジジイ!」

「なんじゃと!? 何百年も生きとるくせにいつまでも若ぶりおって!」

「「ぐぬぬっ……!」」

……なんだか、カオスになってきたな。
というか、この二人は仲が悪いのだろうか?

「あぁー、あの二人は放っておいて良い。基本的にエルフとドワーフは仲が悪いというか……あの二人でもマシな方なのだ。一応、そういうものだと覚えておくと良い」

「そ、そうなんですね……カルラさんの分も用意した方が良いですよね?」

「いや、エルフは肉類を食えないのだ。食べるのは野菜や果物、あとは豆類などか」

「へぇ……種族ごとに違うのか」

「ああ、ドワーフは肉好きの酒好きで、竜人は甘いものが好きとかな」

「ちなみに、獣人である私は辛いものが好きですね」

「なるほど、色々とあるのですね」

料理屋をやるなら、今後はそういうことも考えていかないとか。
種族の好みに合わせて調理する……うん、なんだか楽しそうだ。
異種族レストランとかも良いかもしれない。

「ではハク君は私が預かっておくので、そろそろ準備をお願いします」

「はい、お願いします」

俺は寝ているハクをカレンさんに預け、作業を始める。
まずは、すでに川で処理をしていたクリーンニジマスを取り出す。
さらには、ハクに凍らせてもらったぶとうをコップに入れて常温に戻しておく。

「タツマ殿、それはなんだ?」

「これはぶどうを凍らせたものですよ」

「なに? 凍らせてどうするのだ?」

「凍らすと、味が変化するんですよ」

「なんと……そうだったのか」

「えっ? 知らなかったのですか?」

「うむ……普段はそのまま飲むか、煮詰めてワインを作るくらいだ」

……保存ができる魔法のツボがある世界だ。
氷魔法は珍しいというし、凍らすという発想がなかったのかも。

「そうですか……それなら、色々と試せそうです」

「ふふ、お主と会ってから驚いてばかりだ。それより、あの森で採ってきたのか?」

「ええ、そうですよ。あれ? もしかして不味かったですか?」

「いや、そういうわけではない。ただ、見つけるのも一苦労だし、迷子になることもあるからな。実際にハンターが取りにいって、帰ってこなかったことなどざらにある。まあ、レッドベアーの縄張りてもあるしな」

「へぇ、そうなんですね。特に問題はなかったですよ」

話をしつつも、作業を進めていく。
でかいフライパンの中央に魚、周りにきのこやトマト、にんにくやパプリカを置く。
白ぶどうを別のフライパンでささっと熱し、それを魚にかけていく。
熱したことでワインになり、芳醇な香りがツンと鼻を刺す。
そこに水を足して、蓋をしたら弱火でじっくり煮ていく。

「まあ、レッドベアーを倒せるお主なら問題はないか」

「とりあえず、魔物は片っ端から片付けておきました」

「それは助かるな。あそこは巡回コースなのだ」
 
「それにしても便利な食材がありますね。使い方で味が変わるなんて」

魔物とかよりも、個人的にはこっちの方が驚きである。
ワインをこんな手軽に作れるなんて。
今だって、フライパンに赤ぶどうを入れて火にかけるだけで完成だ。

「ん? そういうのはなかったのか?」

「ええ、普通は手間がかかるんですよ」

「まあ、そもそも手間はかかってるというか、あそこまで行けるハンターも珍しい」

「そういう見方もありますか」

「えいっ!」

話をしていると、突然カルラさんが背中にのしかかってきた。
その柔らかい感触と、ふわりと香る香料の匂いに戸惑う。

「ちょっ!? な、何を?」

「ねー、なんか私でも食べられるものないのー? 付け合わせは食べるけど、魚自体はたべられないし。何より、ドワーフばっかりずるいわ」

「果物がいいんだよな……あっ、良いのがあった」

「ほんと?」 

「ああ、なので大人しく待ってなさい」

「はーい」

そう言い、背中から離れる。
やれやれ、ドキッとしてしまうではないか。

「むぅ……」

「アリアさん? どうして膨れているのですか?」

「膨れてなどない!」

「そ、そうですか」

「タツマさん、すみませんね、うちの主人が」

「はぁ……良くわかりませんが」

良く良く考えてみたら、女性三人に囲まれているのか。

やはり、未だに女性というものはよくわからない。

……ノイス殿がいてくれて助かったな。
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