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料理人、異世界生活を始める

様々な思惑

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 まだ来たばかりだが、結構わかってきた。

 ドワーフは職人気質で、エルフは自由奔放、獣人は人族に近いとか。

 都市の構造や仕組みなども分かったし、食事に関しても問題はなさそうだ。

 買い物をした限りでも、特殊な食材以外は俺の知る物がたくさんあったし。

 これなら、この世界でもやっていけそうだ。

   最後に手頃な宿を紹介してもらい、そこでお別れとなる。

「さて、こんなものかな。後は自由にするといい。私の方で土地は探すが、少し待ってくれ」

「すいません、半日も拘束してしまって。お忙しいのに、土地の方まで……」

「いやいや、これくらいはさせてくれ。確かに暇ではないが、こうして都市を歩くのも息抜きになる」

「そうなんですね。それでは、また時間があれば出かけましょう」

「……そ、それは、どういう意味だ?」

 すると、アリアさんが何やらもじもじしながら上目遣いをしてくる。
 ……あれ? これって、デートに誘った形になるのか?
 し、しまったァァァ! そんなつもりはなかったのだが……いや、確かに素敵な女性だなとは思ってるけど。

「キャン!」

「ほ、ほら、ハクも一緒に散歩がしたいと言ってますし」

「そ、そうか……では、そうさせてもらおうか」

「ワフッ!」

 ハク、よくやった!   ふぅ、なんとか誤魔化せたな。
 これは後で、きちんとご褒美をあげないと。

「そういえば話は変わるが、クリーンニジマスを食べたのだな?」

「へっ? ああ、あの時ですね。ええ、美味しかったです」

「あの時は色々あったから忘れていたが、実は食べたかったと思ってな。あの魚は警戒心が強いし、中々食べる機会がないのだ」

「へぇ、そうなんですね。それじゃあ、今度釣りでもしますか?」

「ふふ、それも良い。それでは、私は仕事に戻るとしよう。この都市の真ん中に大きな建物があって、そこに私は勤めている。何かあれば、すぐにきてくれ。兵士達に、タツマ殿の名前は伝えておく」

「了解です、色々とありがとうございました」

「ワフッ!」

 そして、青い騎士服を翻して都市の中に去っていく。
 相変わらず、カッコいい女性である。
   
「さて……まだ日も暮れてないのか。うーん、どうしたもんか」

「クゥン?」

「いや、何をしようかと思ってな。そういえば、アリアさんはクリーンニジマスを食べたいとか言ってたな。釣りは別として、食べさせてあげたい……というか、俺が食べたいな。あの時は塩も何もなかったし」

「ワフッ!」

「おっ、ハクもか? それなら決まりだな。んじゃ、駆けっこするか」

「キャウン!」

 すると、勢いよくハクが駆けていく。
 途中で振り向き『早く早く!』とても言うように。
 苦笑しつつ、俺もそれを追いかけていくのだった。


 ◇

 ……ふふ、楽しかったな。

 先ほどまでの時間を思い出すと、思わず笑みがこぼれる。

 立場上、ああいう風に男性と並んで歩くことなどないし。

 それに……あのように助けられることも。

 そういう女性にはなりたくなかったのに、不覚にもドキッとしてしまった。

 そして気分良く仕事場の兵舎に向かうと、秘書であるカレンが出迎える。

「あっ、お帰りなさい……ご機嫌ですね?」

「そ、そうか? 別に普通だが……」

「はいはい、そうですね。それで、どうでしたか?」

「ひとまず、一通りは教えられたかなと。それに、私自身も学ぶことがあった」

 私がここにきたのは、強くなることが目的の一つだった。
 しかし、正直言って伸び悩んでいた……魔物を倒して必ず強くなるわけではないからな。
 そんな中タツマ殿は、一筋の光を与えてくれた。
 魔物を倒す以外でも、強くなる方法を……何より、あのように叱ってくれるとは。

「ふふ、良かったです。それに……どうやら焦りも消えましたね?」

「ああ、焦っても良いことはないと思ったからな。一つずつ、確実にやっていくことにしよう」

「ええ、それがいいかと。さて、まずは中に入りましょう。仕事がたっぷり溜まってますから」

「くっ……仕方がない、一つずつやっていくか」

「そうそう、有言実行ですよ」

 兵舎の中の私室に入り、書類の山を片付けていく。
 兵士のまとめ役である私の仕事は多岐にわたる。
 平民の意見、貴族たちの意見、ハンターやテイマーの意見、他種族の意見などあげればきりがない。
 それらを裁量して、領主に提出するのが仕事の割合を占める。
 後は地域の魔物を駆逐するために巡回することなど。

「そういえば、アリアさんがデートしてる間に、こちらの方でリストをまとめておきました」

「デ、デート!? あれは、ただの案内だっ!」

「おや、違うのですか?  男女が二人で出かけたらデートかと。一緒に食事もしたそうですし。予定では、お昼前に帰ってくると言っていた気がしますが」

「そ、それは、タツマ殿が色々と見たいというから……」

 ……そうか、あれはデートになるのか。
 そう思うと、何やら気恥ずかしくなってくる。
   知らぬ間に、男性と初デートということになっていた。
 
「まあ、そういうことにしておきますか」

「そ、それより、そのリストを見せてくれ。それは、タツマ殿に土地を渡す件だな?」

「はい、そうです。ただ、やはり良い土地は難しいかと。この辺境も賑わってきたので、中々空きもありませんし」

「うむ、近くに新しいダンジョンも出来たしな。そうなると、更に貧困の差が生まれてしまうか」

 ダンジョンは突然現れる。
 中は迷路になっているし、罠や魔物や魔獣もいて危険だ。
 その代わり、財宝やレアなアイテムがある。
 それを求めて、傭兵やハンターが押し寄せる。
 しかし、それらは……持たざる者と持つ者の差を開くことになった。

「ええ、スラム街も人が増えてきましたし……このままだとまずいですね」

「ああ、これから更に増えるだろう」

「いっそのこと、スラム街の土地をあげては?」

「命の恩人に、あそこを売るわけにはいくまい。何より、あそこには危険な奴等もいる」

「いや、タツマ殿なら平気かと」

「それはそうだが……」

 すると、ドアを叩く音がする。

「アリア様、ローレンスです! 入ってもよろしいでしょうか!?」

「ローレンスか……」

「ダメですよ、そんな露骨に嫌な顔をしては」

「分かっている……」

 ローレンスは伯爵家の者にして、大佐である私より一個下の中佐という地位に就いている。
 私より先にこの地にいるし、蔑ろには出来ない存在だ。
 ただし特権意識が強く、それを他者に強いる……個人的には好きではない男だ。

「……話は後にしよう。ローレンス、入るが良い」

「はっ、失礼いたします」

 扉を開けて、見た目だけは整った金髪の男が入ってくる。
 服や顔には汚れもなく、髪は腰まで長い。
 兵士とは思えない姿だ。

「今日はどうしたのだ?」

「いえ、改めてお顔を拝見しに参りました。何やら、巡回中に事故があったそうで」

「うむ、大変だったぞ。魔法使いである其方がいれば、少しは楽だったかもしれないが」

「私がその場にいれば、命を賭して守ったでしょう。それより、今夜はお食事などは如何ですか?」

「いや、すまないが今日は疲れていてな。それと、今度は一緒に巡回すれば良い」

「……そうですね、巡回もいいです。それでは、お顔も見れたのでこれで失礼いたします」

 そう言い、慌てて出て行く。
 そして、数分待ってから……。

「相変わらず、口だけの男だ。巡回など行く気もないくせに」

「仕方ありませんよ、お坊ちゃんですから」

「それにしても、相変わらず私を狙っているのか」

「中央に行くために、アリア様を利用したいのでしょうね。後は、体目当てかと」

「はぁ……この見た目にはうんざりだ」

「こればっかりは仕方ありませんね」

 食事と称して酔わせて手篭めにしようする輩もいるし、身分を知らずに力づくでどうにかしようとする輩もいる。

 歳頃になってからは男に憧れを持つこともなく、いつのまにか言葉遣いも女性らしくなくなった。

 その点、タツマ殿は紳士だったな……そういえば、裸を見られているのだな。

 そのことを考えると、身体が熱くなる自分がいるのだった。








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