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料理人、異世界生活を始める

弟子を取る?

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時間があるので、この世界のお金について教えてもらう。

白銀貨(一千万)、金貨(百万)、銀貨(十万)、鋼貨(一万)、鉄貨(千)、銅貨(百)、石貨(十)。

平民の平均収入は銀貨三枚くらいなので、幸いそこまで価値の違いはなさそうだ。

そしてハンターギルドから歩くこと数分、何やらドーム状の建物が見えてくる。

中に入ると、イメージは野球場に近い。

「ここか訓練所だ。都市が経営していて、普段は自由に使える。そして闘技大会が始まれば、ここが会場になる」

「なるほど、だから観客席があるんですね」

どうやら、イメージは間違ってなかったらしい。
すると、ハクが何やら興奮しだす。

「キャンキャン!」

「ん? どうした? ……もしかして遊びたいのか?」

「ワフッ!」

「ふふ、都市に入ってからずっと静かにしてたからな。きっと、ストレスが溜まっているんじゃないか?」

確かにテイマー試験があったし、ずっと抱っこをしていた。
ここは芝生広場みたいだし、遊ばせても良いかも。

「ここは自由にさせても良い場所ですか?」

「ああ、もちろんだ。そのための広場でもある。テイマー登録もしたし、ハクなら賢いから平気だろう」

「なるほど……ハク、人様に迷惑をかけなければ自由にして良いぞ」

「ワフッ!」

「よし、良い子だ。では、いってこい」

「ワオーン!」

尻尾を振って、ダダダっと芝生を駆けていく。
その速さは意外とあり、あっという間に遠くなる。

「おおっ、流石は狼系の魔獣だ。これは成長が楽しみだな」

「そうですね。さて、俺たちはどうしますか?」

「木剣があるので、それで打ち合いをしよう。先ほどのパンチは、ウォレスじゃなかったら危なかったからな。なので、お主は手加減を覚えないと」

そう言い、近くに立て掛けてある木剣を手に取る。
その他にも刃のない槍や斧などが置いてあるので、そういう訓練所でもあるらしい。

「はは……そうですね」

「では、私が防御に回るので軽く撃ってくれ」

「わかりました」

受け取った木剣を軽く振るう。
すると、アリアさんが受け止め……カーン! という甲高い音がする。

「くっ……これで軽くか?」

「え、ええ、二割くらいですね」

「それで、この痺れか。まあ、良い……では、そのままの状態で打ち合うとしよう」

「了解です」

その後、無心で剣を振り続ける。
そのことに懐かしさを感じつつも、次第に身体が慣れてくる。
すると、アリアさんの剣を弾いてしまう。
夢中で気がつかなかったが、手が腫れている。

「っ……このくらいにしとくか」

「あっ! す、すみません!」

「いや、訓練なのだから当然だ。それに私は魔法が使えるから平気だ……ヒール」

青い光が発生して、アリアさんの手の腫れが引いていく。
おおっ、これが魔法か……俺も使いたいが無理だしなぁ。
キャンプの時に習った時に言われた……圧倒的に才能が無いと。
魔力があることと、魔法を使えることはイコールではないらしい。

「便利ですね。そういえば、水魔法は回復魔法を使えるとか」

「ああ、そうだな。タツマ殿に助けられた時は魔力切れを起こしていたが、今はこの通り使える」

「ああ、なるほど……はぁ」

「どうしたのだ?」

「いや、派手な魔法とか使ってみたかったなと」

おっさんだが、俺だって男だ。
いでよ炎! とか、吹き荒れろ風!とか言ってみたい気持ちはある。

「ふふ、意外と子供っぽいところもあるのだな。しかし、タツマ殿の場合は……殴った方が速いな」

「……そうなりますよねー」

そうなると、武器を考えるかパーティーを作る必要があるか。
いくら強くなったとはいえ、一人で平気などと傲慢なことを言うつもりはないし。
……そもそも、寂しいし。

「それより……少し気になることがある」

「なんでしょうか?」

「二割と言ったが、私とてそれなりにステータスはある。しかし、それ以上のダメージを受けた気がするのだ。あと、タツマ殿の剣振り方というか……足運びが特殊な気がした」

「ふむふむ……この世界って、ステータスが絶対なんですか? 力がBの人はAに力で勝てないとか」

「ああ、無論だ」

 ここで、とある予想に辿り着いた。
 ステータスが上がれば、勝手に能力が上がる。
 つまりは、技の発展がしづらいかもしれない。

「この世界に剣術というか、流派はありますか?」

「もちろん、あるにはあるが……基本的に魔物を倒せば、ステータスは上がって強くなるしな。言い方はあれだが、そっちの方が手っ取り早い」

その言葉を聞いた俺は、アリアさんに迫る。
 親父さんから、手っ取り早く手に入れた力に意味などないと教わったから。
俺のこの手に入れた力も、決して使い方を間違ってはいけない。

「ダメですよ、アリアさん。強くなることに近道などないのです。いきなり強くなった俺が言っても説得力はないかもしれないですが……」

「わ、わかってる! だが……それでも私は」

「いえ、こちらこそすみません……俺らの世界には、ステータスがありません。なので、それを補う技術か発達しました。しかし、こちらの世界はステータスが上がりさえすれば、強くなるので発達しなかったのかもしれませんね」

「それを覚えれば、私も強くなれるということか?」

「……そうですね。工夫次第では、おそらく強くなれるかと」

 例えば、剣道の足運びなんかも有効だろう。
 あれを極めれば、最小の動きで攻撃を躱せるし。

「タツマ殿なら教えられるのか!?」

 アリアさんは身体を前にだし俺に迫ってくる!
 ちょ!? 近い近い! 顔が目の前にある!
 うわー、綺麗な顔だ……い、いかん! これはいかん!

「え、ええ。まずは、落ち着いてください」

「す、すまない! つい……」

「い、いえ、何か理由が?」
 
「詳しいことはいえないが、今の私は伸び悩んでいてな。打開策はないかと、この頃ずっと考えているのだ」

「そういうことですか。俺で良ければ教えますよ?」

「本当か!? ありがとう! タツマ殿!」 

 アリアさんは無邪気に笑って、俺の手を両手で握り上下に振る。
 なんだ? この胸の高鳴りは?
    
「いえ……アリアさんには、大変お世話になっています。これくらいで恩が返せるとは思っていませんが、協力させてください」  

「……タツマ殿。ふふ、良い男だな貴方は。では、よろしく頼む」

「では、後日話し合いましょう。

「ああ、そうだな。とりあえず、これで強さ加減はわかっただろう。さて、ハクは……ふふ、既に人気者だな?」

「はい? ……あらら」

視線の先では、ハクが女性陣に囲まれていた。

「きゃー! 可愛い!」
「こんなに人懐こい狼初めてみたわっ!」
「もふもふでふわふわよっ!」
「ワフッ!」 
「「「キャァァァ!」」」

自慢じゃないが、父親である俺は女性に囲まれたことなどない。
なんとも、羨ましい話だ……まあ、良いけどさ。
俺は横目でアリアさんを見る。

「ん? どうかしたか?」

「い、いえ、凄い人気だなと」

「ふふ、可愛いから無理もあるまい」

「……そうですね」

……可愛いのは貴女ですと思ってしまった。

まったく、いい歳して何をやってるんだか。
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