上 下
34 / 53

聖剣バルムンク

しおりを挟む
 その後、平屋の建物にノックする。

「入るがいい」

「失礼します」

「お邪魔します」

 二人で中に入ると、そこにはずんぐりむっくりした小さなおじさんがいた。
 話に聞いた通り、あれがドワーフという種族だ。
 成人しても身長は160前後で止まり、老け顔をしているとか。

「ふんっ、見たところ貴族の小僧と嬢ちゃんのようだが……ゼノスが通すなら、まともな客ということか」

「ゼノス……ああ、あの風魔法使いの方ですか」

「ああ、そうじゃ。あやつのおかげで、余計な奴が来ないからのう。して、何の用じゃ?」

「いや、別に用ってわけじゃないんです。ただ、ドワーフ族の方に会ったことがなかったので」

 申し訳ないことに、大した用事があるわけじゃない。
 むしろ、会えたので目的は達成したようなものだ。
 素早さ重視の俺に重たい防具はいらないし、俺にはバルムンクがある。
 聖剣らしく、お手入れもいらない優れものだし。

「くははっ! ここまで苦労してきて、ワシの顔だけ見にきたのかっ! 大体が、自分のために武器を作れやら偉そうに言ってくるのだが。さて……お嬢ちゃんもか?」

「私は……今日は付き添いで来ましたの。この人、放っておくと何かしでかすので」

「酷くない? まだ、なにもしてないのに……」

「なに言ってるのよ? すでに、凄腕の魔法使いを威嚇だけで撃退しておいて。今だって、ドワーフ族の顔だけ見たいだなんて。上位ランクの冒険者や、王宮騎士団がこぞってお願いするような相手なのよ?」

「ひゃい、すびません」

 ほっぺをムニムニされて説教みたいです!
 別に、俺は普通のつもりなんだけとなぁ。

「なるほど、面白い少年じゃ。ふむ、ワシの名前はガレスという。もし、他に頼みがあればいうといい」

「俺の名前はユウマといいます。こちらはセリスです。それじゃあ、武器や防具を見せてもらってもいいですか?」

「それくらいお安い御用じゃ。こっちの部屋にあるから好きに見るといい」

 そして、リビングの奥にある扉をあけてくれた。
 そこには鍛治工房が見え、辺りには武器や防具が飾ってある。
 俺とセリスは早速中に入り、見学させてもらう。

「おおっ、良い武器や防具の数々ですね。剣、斧、槍、弓、盾、鎧……うん、どれも素晴らしい仕事ぶりですね」

「うわぁ……すごい数だわ。私には、良し悪しはわからないけど」

「ほう? 物の良し悪しを判断できるのか?」

「ええ、一応ですけど」

 エリスやライカさんには、色々な物を見せてもらったし。
 武器や防具の性質を見抜けることも、戦場で生き残るコツだとか。
 何より、いつも間近で業物を見てるから。

「ユウマには、聖剣があるものね。そういえば、今は持ってないし学校にも持ってきてないわよね?」

「うん、基本的には帯剣しないようにしてる。あの子も自由が良いだろうし、俺自身も無い方が楽だしね」

「あの子って、まるで生きているような言い方ね。それに楽だからって……ふふ、本当に変だわ。普通なら、見せびらかしたいって思うでしょうし」

「まあ、バルムンクには意思があるから生きていると言っても過言じゃないかな。見せびらかしたりしたら、愛想をつかされちゃうよ」

 すると、ガレスさんが俺の腕を無言で掴む。
 その目は今にも、人を殺しそうな目をしていた。

「な、何ですか?」

「……なんと言った? 聖剣バルムンクじゃと? お主、英雄バルムンク家の者か? しかも、選ばれていると?」

「は、はい、ユウマ-バルムンクなので。一応、いまの所有者となってます」

「全く、家名を名乗らない貴族など見たことないわい。それより——頼む! 見せてはくれまいか!?」

 そう言い、いきなり頭を下げてくる。

「ちょっ!? 頭をあげてください! その、別に見せる分には構わないので」

「無茶を言ってるのは分かっとる。当代で一人しか扱えない、そして気高き聖剣を見ず知らずのドワーフに……なんと言った?」

「いや、見せても良いですって。あの武器の数々を見てたらわかります、貴方がどんな気持ちで仕事をしているのか。どれも錆びれ一つなく、手入れが行き届いていますし」

「なんと……感謝する……!」

「別に良いですって。それじゃあ……おいで、バルムンク」

 俺が声を発すると、目の前に浮いた状態でバルムンクがやってくる。
 これこそが、意思があり聖剣と言われる所以の一つだ。
 持ち主が呼んだら、何処にいようと一瞬で飛んでくることが可能だ。

「おおっ……!」

「バルムンク、この人が見たいんだって……良いかな?」

 すると、鞘が抜けて刀身が露わになる。
 そのまま、置いている台座の上に横になった。

「バルムンク、良いですって」

「かたじけない! 美しい刀身……まさしく聖剣……まさか、生きてるうちに見れるとは……ふむふむ、なるほど人が作れるモノではない……だが、近づけることはできるか?」

 夢中になって、バルムンクを眺めたり慎重に触れたりする。
 嫌がってる様子もないので、俺が辺りを見回すと……セリスが何かを眺めていた。

「何を見てたの?」

「えっ? う、ううん、なんでもないわ。それにしても、バルムンクって呼んだらくるのね」

「まあ、普段は呼ぶ機会もないしね。何かあっても、俺は魔法で解決することが多いし」

 俺はセリスが見ていたものを確認し……思案する。

 なるほど、アレが欲しいのかもしれない。

    ……ふむふむ、少し手を打っておきますか。




しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

神々に育てられた人の子は最強です

Solar
ファンタジー
突如現れた赤ん坊は多くの神様に育てられた。 その神様たちは自分たちの力を受け継ぐようその赤ん 坊に修行をつけ、世界の常識を教えた。 何故なら神様たちは人の闇を知っていたから、この子にはその闇で死んで欲しくないと思い、普通に生きてほしいと思い育てた。 その赤ん坊はすくすく育ち地上の学校に行った。 そして十八歳になった時、高校生の修学旅行に行く際異世界に召喚された。 その世界で主人公が楽しく冒険し、異種族達と仲良くし、無双するお話です 初めてですので余り期待しないでください。 小説家になろう、にも登録しています。そちらもよろしくお願いします。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

処理中です...