田舎貴族の学園無双~普通にしてるだけなのに、次々と慕われることに~

おとら@ 書籍発売中

文字の大きさ
上 下
21 / 56

カレンのお願い

しおりを挟む
 学校を出た俺達は、そのまま一般市民が暮らす区域に向かう。

 南東地区にあり、住宅街や建物がずらりと並んでいた。

「おお~、家がいっぱいあるね」

「ここにはお店屋さんとか少ないみたいです。もちろん、小さいお店はいくつかありますけど」

「まあ、広くて商店街に行くのも一苦労だしね。俺ってば、迷子になっちゃうよ」

「本当にそうですよね。わたしも、小さい頃は大変でした」

 なにせ、都市の中で馬車が走るくらいだ。
 王都全体を回ろうと思ったら、一日や二日では到底足りない。

「そういえば、どこに向かってるの? というより、どこに住んでるんだっけ?」

「今は孤児院に向かってますよ。昔住んでた所で、今は貴族街の屋敷に住んでます」

「あっ、なるほど。寮とかには入らないんだ?」

「あそこは王都に屋敷を持っていない貴族や、平民の方用みたいですよ。わたしも寮に入りたかったんですけど……止められちゃいました」

 ふむふむ、養子に迎えるくらいだから大事にされてるのかも。
 それに、可愛いから男達が群がってきちゃうし。

「うんうん、可愛いと大変だね」

「……ふぇ!? か、可愛い……」

「ん? そういう理由じゃないの? 色々な男が寄ってくるからとか。良い家柄だし、結婚相手とか選びそうだしね」

「た、確かに、結婚相手は選ぶとか何とか……あわわっ」

 うんうん、子供がいないから引き取ったって話だし。
 となると、同じ家系を婿にするのかも。
 いやはや、貴族ってやつは大変だね。
 俺は別に独身でいいし、最悪弟が継げば良いし。

「それに……襲われることもあるからかな?」

「……はい、それもあります。寮にいる方々に迷惑をかけるわけにはいきませんから」

「まあ、そうなるよね。結局、アレって何だったの?」

「詳しくは説明してくれなかったんですけど、お父様と敵対してる人達みたいです。わたしを人質にとって、何かを要求しようとしたとか。ちなみに彼らは雇われただけで、何も知らなかったみたいです」

 ……エリスも暗殺がどうとか言ってたけど、王都ってめんどくさいことしてるんだなぁ。
 北からは敵国が攻めてくるし、西にある大国や魔獣や魔物も活性化してるとか。
 内部で争ってる場合じゃないと思うけど。

「ふむふむ、ややこしいんだね。まあ、何かあったら言ってね。俺で良ければ力になるから」

「ユウマさん……えへへ、ありがとうございますっ」

「いやいや、友達を助けるのは当然ですから」

「友達……えへへ、それでも嬉しい」

 そう言い、無邪気な笑顔を見せる。
 まあ、これだと色々と心配になるのは無理もない。
 今だって——
 きっと、彼女の護衛だろう。
 あんなことがあったし仕方ないね。


 ◇

 そんな会話をしつつ、平民達が暮らすエリアのさらに奥地に行く。

 少し寂れてきて、ひと気がなくなっていく。

 これはうちでいうスラム街に近い空気感だ。

 そして、一軒の大きな建物と教会が並んでいるのが目に入る。

「あのさ、こんなこと言うと失礼だけど……よく、ここに来る許可が出たね」

「いえ、言いたいことはわかります。少し危ない方がいるのも事実ですし……実は、最近は止められていたんです。ただ、お父様がユウマさんがいるなら許可するって」

「えっ? お、俺なの?」

「だからお願いしたんです。その、利用するみたいでごめんなさい! ただ、わたしはお世話になったから来たくて……」

 ああ、そういうことね。
 だから教室で言い辛そうにしてたってわけだ。

「別に怒ってないから平気だよ。それに頼みを聞くって言ったのは俺だしね。こんなことで良ければ付き合うさ」

「どうして、そんなに優しいのですか? あの時も、見ず知らずのわたしを助けてくれたり……しかも、何も受け取ることなく」

「俺は、そんなに大した人じゃないよ。ただ、死んだ母上がよく言ってたんだ。人は鏡みたいで、人に優しくされたかったらまずは自分が相手に優しくしなさいって。そうすれば周りに素敵な人達が集まるってね……中にはそうじゃない人もいるけど、俺はそれを実行してるって感じ」

「……素敵なお母様だったのですね」

「そう言ってくれると嬉しいよ。そして、実際にカレンみたいな素敵な女の子と知り合いになれたしね?」

「まあ、ユウマさんったら」

 すると、教会の中からシスターの格好をしたお婆さんが出てきた。
 少し様子を見ていたが、何かに気づき駆け寄ってくる。

「あら……もしかしてカレン!?」

「シエル様! お久しぶりです!」

「まあまあ! 少し見ない間に、こんなに綺麗になって! 今日はどうしたの? 伯爵様の許可は?」

「お父様の許可が下りたので、久々に遊びに来ちゃいました」

 二人の空気感は絶妙な親しさを感じ、俺と継母との空気感に似ているかも。
 きっと、孤児院での母だったのだろう。

「それなら良かったわ。あの子達も喜ぶし……ところで、その方は?」

「はじめまして、ユウマ-バルムンクと申します。本日はカレンさんにお呼ばれしてきました。身分などは気にせず、気軽に接してください」

「シエル様、ユウマさんは本当に良い方なんですっ」

「ふふ、それは目を見ればわかるわ。まっすぐとした綺麗な目……何もないですが、よろしければ中に入ってください」

 こうして許可を得た俺は、カレンと共に孤児院に向かうのだった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた

菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…? ※他サイトでも掲載中しております。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね

章槻雅希
ファンタジー
 よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。 『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?

Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」 私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。 さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。 ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

処理中です...