上 下
57 / 68

校外学習その八

しおりを挟む
 朝食を済ませ休憩したら、午前中は戦闘訓練を行う。

 各自得意な武器に分かれ、専門の指導員の元で鍛錬に励む。

 昨日の不甲斐なさあり、生徒達はやる気に満ちている。

 今日こそは、自分で飯を調達すると……実は、ノイス先生から忠告があった。

『昨日は初日ということもあり見逃しましたが……今日取れなかった人は、問答無用で飯抜きですからね? 甘えてばかりではいけませんから』

 それは正論なので、俺たちも今日はあげないことにしましたとさ。

「ふぁ……それにしても退屈なこと」

「せぁ!」

「くそっ! 当たらない!」

「うわっ!?」

 俺の目の前には、先生や兵士の方々と剣の稽古をしている生徒たちがいる。
 そんな中、俺は木の陰で寝転がっていた
 決してサボっている訳ではなく、稽古をしたら相手の兵士を倒してしまったから。
 そんなことが続き、俺の相手はいなくなってしまった。

「最近、親父とばかり打ち合いをしてたからなぁ。アレに比べたら、兵士さん達は可愛いもんだし」

「どうして当たらない!?」

「うわぁ!?」

 体全体を使わず、腕の力だけで剣を振るってる彼らの剣速は遅い。
 あれでは、力も入らないし速さもない。
 まあ、俺としては合法的にサボれるから良いんだけど。
 ただ、意外とスッキリ起きたので、退屈なのは事実である。

「おやおや、こんなところにサボっている生徒さんが」
 
「なっ!? ……ノイス先生ですか、驚かさないでくださいよ」

 いくらダラダラしてたとはいえ、近づかれたのに気づかないとは……。
 流石は、若い頃は若手最強と言われた方だ。

「これはこれは、すみません。貴方なら気づくと思ったのですが」

「煽っても無駄ですよ。俺は、そんなもんです」

「……本当に、シグルドとは似ても似つきませんね。顔といい、のんびりなところはアイカさんにそっくりです」

「……母上を知っているのですか?」

 確かに王女だったからおかしくはないが、その言い方には親しみがこもっていた。
 しかし、俺はそんな話は聞いたことがない。

「ええ、よく三人で遊んだりもしましたよ。貴方とトール君とセレナ様のように」

「そうだったんですね……」

「さて、昔話はその辺にして……私が稽古をつけましょう」

「……はい?    いや、ノイス先生は怪我をして引退したんじゃ……」

「おや? 舐めてもらっては困ります。 丁度いいハンデですね」

 わかりやすい挑発だったが、俺ではなくアレクの若い部分を刺激する。
 ……まあ、退屈だし良いか。

「わかりました、お相手をお願いします」

「素直でよろしい。では、こちらにきてください」

 起き上がり、ノイス先生についていく。
 そして、空いてる場所で立ち止まり、近くにある木剣を手渡される。

「さあ、始めましょう。木剣なので、思い切りどうぞ。チャクラも使って良いですから」

「それはどうもです……すぅ」

 息を吸い、ゼロの体勢から、一気に距離をつめて剣を弾くために腕付近を狙う!
 カンッ!という音がしたが……どうやら、一歩下がってガードされたようだ。

「ほほ、流石に速いですね。ですが、まだまだ腕が足りないです」

「……これを止めますか。とても引退した方とは思えません」

「ありがとうございます。では、剣聖の息子の力を見せてもらいましょう!」

「わわっ!?」

 引退した剣士とは思えない速さの剣撃が飛んでくる!
 その速さは親父に引けを取らない!
 おそらく、チャクラを全開にして全盛期を再現しているんだ。

「どうしました? その程度ですか?」

「っ~!?  ナメんなぁ!」

「むむっ!?」

「セァ!」

 俺の中の何かが弾け、チャクラを全開にして攻め立てる!
 そして数合打ち合った末……防御が間に合なくなった相手の剣を弾き飛ばす!

「くっ!? ……ま、参りました。いやはや、ここまでとは恐れ入りました。流石はシグルドの息子ですね」

「……いえ、貴方が怪我をしてなければ勝てなかったでしょう。それくらいは弁えてるつもりです。というか、挑発が下手なんですよ」

「ふふ、その安い挑発に乗ったのは誰ですかな?ですが、安心しました。貴方の中にも、まだ燃える気持ちがあったことを。これは、私も考えなくてはいけないですね」

「それは、どういう……」

「すげー! ノイズ先生に勝っちゃったぜ!」

「嘘ー!? あのシグルド様と剣聖争いをしてたノイス先生を!?」

「アレク様はやっぱり強かったんだ!」

 ……いつの間にか、俺たちを囲むようにギャラリーが溢れかえっている。
 それこそ、兵士たちや先生方も。

「おやおや、困りましたね」

「……全然、困ってるように見えないのですが? もしかして、何かを図りました?」

「ほほ、そんなことはありませんよ……みなさん! 今のをお手本として鍛錬を続けなさい!」

「「「はいっ!!」」」

 その言葉で、生徒達が散らばり始めた。
 どうやら、俺はダシにされたらしい。

「いやー、次の国王にはアレク様が……」

「ほんとだよなー。最近のアレク様、めちゃくちゃかっこいいもんな」

「わかる! 私、ダンスの申し込みしようとしたもん。流石にアレだったけど……」

 すると、ノイス先生が近づいてきて……耳打ちをする。

「ほほ、国王を目指すのもアリですかね?」

「なっ!?」

「ではでは、私はこれで」

「図りましたね?」

「なんのことやら」

 そう言い、立ち去っていく。

 ……何やら面倒な予感しかしないのだが?

   あの狸爺さんめぇぇ——どうしてこうなったァァァ!?






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

嫌われ者の悪役令息に転生したのに、なぜか周りが放っておいてくれない

AteRa
ファンタジー
エロゲの太ったかませ役に転生した。 かませ役――クラウスには処刑される未来が待っている。 俺は死にたくないので、痩せて死亡フラグを回避する。 *書籍化に際してタイトルを変更いたしました!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

妾の子だった転生勇者~魔力ゼロだと冷遇され悪役貴族の兄弟から虐められたので前世の知識を活かして努力していたら、回復魔術がぶっ壊れ性能になった

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
◆2024/05/31   HOTランキングで2位 ファンタジーランキング4位になりました! 第四回ファンタジーカップで21位になりました。皆様の応援のおかげです!ありがとうございます!! 『公爵の子供なのに魔力なし』 『正妻や兄弟姉妹からも虐められる出来損ない』 『公爵になれない無能』 公爵と平民の間に生まれた主人公は、魔力がゼロだからという理由で無能と呼ばれ冷遇される。 だが実は子供の中身は転生者それもこの世界を救った勇者であり、自分と母親の身を守るために、主人公は魔法と剣術を極めることに。 『魔力ゼロのハズなのになぜ魔法を!?』 『ただの剣で魔法を斬っただと!?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ……?』 『あいつを無能と呼んだ奴の目は節穴か?』 やがて周囲を畏怖させるほどの貴公子として成長していく……元勇者の物語。

裏庭にダンジョン出来たら借金一億❗❓病気の妹を治すためダンジョンに潜る事にしたパッシブスキル【禍転じて福と為す】のせいでハードモードなんだが

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
もはや現代のゴールドラッシュ、世界中に現れたダンジョンから持ち帰られた品により、これまでの常識は一変した。 ダンジョンから与えられる新たな能力『ステータス』により人類は新たな可能性がうまれる。 そのため優遇されたステータスを持つ一部の探索者は 羨望の眼差しを受ける事となる…… そんな世界でどこにでも良そうな男子高校生、加藤光太郎は祖父の悲鳴で目が覚めた。確認すると裏庭にダンジョンが出現していた。 光太郎は、ダンジョンに入る事を猛反対されるが、病気の妹を癒す薬を取りにいくため、探索者となる事を決意する。 しかし、光太郎が手にしたスキルは、常時発動型のデメリット付きのスキル【禍転じて福と為す】だった。 効果は、全てのモンスターが強化され、障碍と呼ばれるボスモンスターが出現する代わりに、ドロップアイテムや経験値が向上し、『ステータス』の上限を突破させ、追加『ステータス』幸運を表示するというものだった。 「ソロ冒険者確定かよ❗❓」 果たして光太郎は、一人だけヘルモードなダンジョンを生き抜いて妹の病を癒す薬を手に入れられるのか!?  ※パーティーメンバーやダンジョン内に同行する女の子が登場するのは第一章中盤37話からの本格登場です。

処理中です...