上 下
35 / 68

最弱の親子

しおりを挟む
 部活を終えて、家に帰ると……親父が玄関で待ち構えていた。

 その顔は凶悪に染まっており、俺は自分の命の危険を感じた。

 何より、その身からは剣気がほとばしっている。

「帰ったか、我が息子よ」

「あっ、気のせいです。まだ、息子は帰ってません。えっと——さようなら!」

 素早く身を翻し、玄関から逃走を図る!

「むっ? 早いのう……セバス!」

「はっ、旦那様」

 すると、玄関を出た先にはセバスが先回りをしていた。
 相変わらず、気配を感じなかった。
 まあ、カエラに隠密を仕込んだのはセバスだから当たり前なんだけど。
 セバスはマリアの護衛でもあるから、その腕前は確かだ。

「セバスッ! 退いてくれ!」

「すみません、アレク様。私は旦那様の側近なので」

「ぐぬぬっ……」

「というより、旦那様が悪いです。そんな顔をしては、逃げるのも当然かと」

「ん? 儂は変な顔をしてるか?」

「ええ、鬼の形相といったところかと。嬉しいのはわかりますが、抑えてくださいませ」

 ……えっ? なに? あの顔って嬉しいの? 
 初めて見たけど、俺には殺し屋の目にしか見えないんだけど?

「う、うむ……これで良いか?」

「ええ、ましになったかと」

 振り返ると、確かに少しマシになっていた。
 剣気も抑えられ、ギリギリ逃げずに済みそうなくらいには。

「それで、何が嬉しかったの?」

「いや、マリアから聞きたが……お主がやる気を見せたとか。わしの負担を減らすとか何とか……生意気を言いおって」

「ああ、その話か。いや、気が変わったから気にしないで良いよ。父上なら、まだまだバリバリ働けそうだし」

「……バカモン!」

「イテッ!? あ、頭を殴るなし!」

 避ける間も無く、気がつけば頭に痛みが走っていた。
 やっぱりまだまだ平気そうじゃん!

「うるさいわいっ! せっかく感動したというのに! わしの感動を返せ!」

「知るかっ!」

  「そこは父上のために頑張りますというところじゃ!」

 今度は油断してなかったので、拳を避ける。
 よし! 元々動体視力は悪くない!

「むっ? 生意気にも避けおったか」

「へへん、そうそう殴られてたまるか」

「お二人共、その辺で。後ろにマリアお嬢様がいらっしゃいますよ?」

「「なに!?」」

 その言葉に、俺と親父が振り向くが……そこにはマリアの姿はなかった。

「「セバス?」」

「すみません、お二方。しかし、実際にお嬢様がいたら何と言いますかな? きっと、御怒りになりますよ? さあ。まずは玄関から上がってください」

「「……はい」」

 その姿はありあり浮かんできたので、俺と親父はセバスに従うことにする。
 親父もセバスには頭が上がらないし、俺もカエラには弱い。
 ……この家で最弱争いをしているのは、もしかしたら俺と親父かもしれない。



 その後、談話室に案内されてソファーに座る。

「それで、何があったの? 俺、めちゃくちゃ疲れてるんだけど?」

「そうじゃ、その件もあったわい。昨日も少しだけ聞いたが、お主は部活を始めたそうだな?」

「まあ、一応。セレナのいるところなら、そんなに気を使わないで済むかと思って」

「良きことだ。儂もセレナ様にも会いたいのう」

「父上は一週間はいるんでしょ? だったら、連れてくるから平気だよ」

 さっき、念押しで約束させられたし。
 絶対に遊びにいくので、お父様の許可を取ってくると息巻いてたっけ。

「ほほう? それは良いことだ」

「ただ、父親の許可……国王陛下の許可がいるって話だけど」

「それなら平気だろう。儂の方でも、話を済ませておいた」

「はい? ……何をしたので?」

「昨日、飲みに連れて行ったわい。あの小僧を追ってくる護衛を蹴散らしてな。その際に、色々と話をさせてもらった」

 ……やばくない? 国家反逆罪じゃね? 
 いくら自分が、先代国王の従兄弟にして親友だったとはいえ。
 多分、英雄だから許されてるんだろうけど。

「……あのぅ、俺……挨拶に行くって言ってしまったんですけど! 何してくれてんの!?」

「がははっ! 平気じゃよ! 息子さんによろしくと言われたのでな!」

「それ大丈夫じゃないやつ! 代わりに仕返しするってやつだから!」

「なに、男が細かいことを気にするんじゃない。というわけで、明日の学校帰りに国王の元に行くが良い」

「……はぁ、わかりましたよ」

 親父がこうなのは昔からだから言っても仕方ない。

 それに、会っておかないといけないことは事実だし。

 マリアのためにも……胃が痛いけど、頑張るとしますか。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

処理中です...