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母親の記憶

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……うん? なにやら柔らかな感触が……。

「ひゃい!?」

うーん、これはなんだろうか?
もちもちして、ずっと触っていたいような……。

「ちょっ!? ど、どこに……」

「むちむちしてて良いなぁ」

「……この——ばかァァァァ!」

「イタっ!? な、なんだ!?」

びっくりして思わず起き上がると……顔がなにやらポヨンとした感触を得た。
なんだ、この感触は? ここは天国か?

「むがっ!?」

「っ~!! アレクの変態っ!!」

「グハッ!?」

わけもわからないまま、何やら硬い地面に転がる!
いたい!? 天国だと思ったら地獄だった!?

「いてて……な、なんだ?」

「あぅぅ……お、お嫁にいけないわ……こんな面前で」

目を開けてみると、何やら両手で顔を覆っているセレナがいる。
耳まで真っ赤にして、ブツブツとつぶやいているようだ。

「ったく、なんなんだよ」

「あはは……流石にアレク君が悪いかなぁ」

ふと隣を見ると、呆れ顔をしたメルルがいた。
だめだ、全然状況が掴めない。

「すまん、悪いが状況を説明してくれるかな?」

「うん、そうだよね。私達も悪ノリしちゃったし……」

そして、説明を受けた。
どうやら、二人に攻められた俺は疲れ果てて倒れてしまったらしい。
そのことで責任を感じたのか、木の下でセレナが膝枕をしてくれたと。

「なるほど、そういうことか……ということは、あの柔らかな感触は太ももだったのか。ふむ、むちむちしてて……ん? じゃあ、最後に顔に当たったぽよんはなんだ?」

「ア、アレク君、その先を考えるのはやめよう! ねっ!? お願い!」

膝枕の状態から顔を起こしたらどうなる? ……おっぱい。
なるほど、あのぽよんはおっぱいだったのかァァァァ!
くそっ! もっと堪能しとけば……いかんいかん、これではいかん。
夢の中で母上にも言われたじゃないか……女の子を泣かせるなって。

「……わかった、やめとく」

「ほっ、良かったぁ。えっと、あとは……」

「わかってるよ。まあ、色々言いたいことはあるけど……とりあえず、謝ってくる」

相変わらず、木の下で悶えているセレナに近づき……。

「セレナ、俺が悪かった」

「……べ、別に、アレクが悪いわけじゃないわ。元々は、私達が調子に乗っちゃったから。こちらこそ、ごめんなさい。つい、楽しくて……」

……そういや、俺が手加減をしたりすると怒っていたっけ。
今回は本気でやったし、それがセレナにとっては嬉しかったのかもしれない。

「いや、良いものを堪能できたから良いさ」

「も、もう! 忘れなさい!」

「はいはい、わかったよ。んじゃ、これで終わりだ」

「そ、そうね、今回は許してあげるわ」

全然親孝行もできてないうえに、約束を破るのはあれかな。
このタイミングで母上が夢に出てきたことも、何か意味があるのかもしれない。
セレナが対等に接してくれるのは、俺くらいしかいないわけだし。

「セレナ、また遊ぼうな。今度は、部活だけじゃなくて出掛けても良いし」

「……ふえっ? ど、どういう風の吹きまわしよ? 」

「別に大したことじゃない。ただ、さっき……母上の夢を見てさ。庭で遊んだ、昔の記憶を思い出したよ」

……夢だけど会えてよかった。
アレクの記憶として、母上は生きてるってことだから。

「……そう……あの頃はまだアイカ様もいたわ。小さいマリアちゃんを抱きながら、私達のことを眺めていたっけ」

「そうそう。お前が泣いてばかりで俺は大変だったよ。それこそ、母上にはよく叱られたし」

「あ、あれは、あんたが悪いのよ……全然本気で相手してくれないんだもん」

「悪い悪い。んで、頼みがあるんだが……もしよかったら、たまに母上の話を聞いてくれるか?」

「……そんなの当たり前じゃない。私だって、大好きだったんだから」

「そっか……ありがとな」

マリアは母親の記憶がないし、セバスには辛い顔をさせてしまう。

親父と話しても……なんだかなって感じだ。

そうなると、セレナと話せるのは……母上を忘れられずに済む。

人が本当に死ぬのは、その人の記憶から消えた時だと思うから。



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