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遠い日の思い出
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……ん? これは、小さい頃の夢か。
何故なら、目の前には小さなセレナがいる。
そして遠くから、マリアを抱きながらそれを見守る死んだはずの母上が……。
「ちょっと!? どうして手を抜くのよ!」
「いや、だって……一応、女の子だし」
「むぅ~! 手加減はいや!」
「ええっ!? どうしろっていうのさ!?」
「うぅー……」
この時は確か、剣の稽古をしてたっけ。
セレナは女の子らしい遊びは苦手で、男に混じって遊びたかったらしい。
当然、王女様なので相手は限られ……俺に白羽の矢が立ったという流れだったと思う。
それから、よく俺の家に遊びにきていた。
「参ったなぁ」
「も、もう一回!」
すると、母上に手招きをされる。
ひとまず中断して、俺は椅子に座っている母上のもとに行く。
母上は身体が弱く、こうして庭に出てゆっくりしていることが多かった。
「アレク、ちょっといらっしゃい」
「母上、どうしたのですか?」
「貴方、またセレナちゃんを泣かせたでしょ?」
「だって、あいつってば手加減するなって。流石に本気を出したら怪我させちゃうよ」
そうだ、思い出してきた。
この頃の俺はセレナとよく遊んで、結構泣かせていたっけ。
負けず嫌いなセレナは、俺に負けるが嫌だったらしい。
面倒になった俺は、手を抜いて……それで逆に怒られたり。
「ダメよ、女の子を泣かせちゃ」
「えぇ~、でも僕は悪いことしてないよ? 母上だって、女の子には優しくって」
「そうね。それでも、女の子を泣かすような男の子にはなって欲しくないわ。つまり、その子に合った対応をしてねってこと」
「うーん……まあ、母上がそういうなら」
「ふふ、良い子ね」
この時は妹も赤ん坊で、父親が家にいなく俺自身も甘えたい盛りで……。
そして清楚可憐を絵に描いたような母上の微笑みが好きだった。
だから、これをされると何とも言えない気持ちにさせられた。
「でも、どうしたら良いかな? 僕としては、あんまり面倒なことは嫌なんだけど」
「ふふ、相変わらずね。だったら、本気で相手してあげなさい」
「でも、怒られるよ?」
「泣かせるよりは良いわ。セレナちゃんは、貴方と対等でいたいのよ。それを汲んであげるのも、良い男の条件よ?」
「えっ? でも、父上はアレだよ?」
この頃の俺ですからわかっていた。
父上が女性の気持ちを汲んであげられるような男ではないことを。
「そ、それは……コホン。それはそれ、これはこれです」
「ええ~!?」
「ふふ、そこを相手に合わせないと。シグルド様は不器用なところが可愛いのですから。私は、そこを好きになったのです」
「つまり……僕は、セレナと本気で向き合えば良いってこと?」
「ええ、そう思うわ。それが、セレナちゃんが求めてるモノな気がする」
……そうだ、こんな話をした気がする。
でも、俺は母上が死んで……そのことを忘れていた。
どうしてだろう? ……おそらく、アレクが辛い記憶として封じ込めたのかもしれない。
それが転生した記憶を取り戻したことで、再び蘇ってきたのか。
「うん、わかった。それじゃあ、本気でやってくる」
「ええ、それが良いわ。アレク、良い男になってね」
「えっ?」
「きっと、貴方なら良い男になれるわ。だって、私の自慢の息子だもの」
「……僕が良い男になったら、母上が喜ぶ?」
「ええ、もちろんよ」
……そういや、こんな話をしたっけ。
それが、今じゃこんな体たらく……いつからだっけ?
……母上が死んでからな気がする。
「あと妹のマリアはもちろん、シグルド様のこともよろしくね」
「マリアは良いけど、父上は嫌です」
「そんなこと言わないの。シグルド様も、アレクを愛しているのよ」
「……はぁ、仕方ないなぁ。とりあえず、できる限りのことはやりますね」
「……ありがとう、アレク」
多分、この時には死期を悟っていたのだろう。
何故なら、この数ヶ月後に母上は死んでしまったから。
何故なら、目の前には小さなセレナがいる。
そして遠くから、マリアを抱きながらそれを見守る死んだはずの母上が……。
「ちょっと!? どうして手を抜くのよ!」
「いや、だって……一応、女の子だし」
「むぅ~! 手加減はいや!」
「ええっ!? どうしろっていうのさ!?」
「うぅー……」
この時は確か、剣の稽古をしてたっけ。
セレナは女の子らしい遊びは苦手で、男に混じって遊びたかったらしい。
当然、王女様なので相手は限られ……俺に白羽の矢が立ったという流れだったと思う。
それから、よく俺の家に遊びにきていた。
「参ったなぁ」
「も、もう一回!」
すると、母上に手招きをされる。
ひとまず中断して、俺は椅子に座っている母上のもとに行く。
母上は身体が弱く、こうして庭に出てゆっくりしていることが多かった。
「アレク、ちょっといらっしゃい」
「母上、どうしたのですか?」
「貴方、またセレナちゃんを泣かせたでしょ?」
「だって、あいつってば手加減するなって。流石に本気を出したら怪我させちゃうよ」
そうだ、思い出してきた。
この頃の俺はセレナとよく遊んで、結構泣かせていたっけ。
負けず嫌いなセレナは、俺に負けるが嫌だったらしい。
面倒になった俺は、手を抜いて……それで逆に怒られたり。
「ダメよ、女の子を泣かせちゃ」
「えぇ~、でも僕は悪いことしてないよ? 母上だって、女の子には優しくって」
「そうね。それでも、女の子を泣かすような男の子にはなって欲しくないわ。つまり、その子に合った対応をしてねってこと」
「うーん……まあ、母上がそういうなら」
「ふふ、良い子ね」
この時は妹も赤ん坊で、父親が家にいなく俺自身も甘えたい盛りで……。
そして清楚可憐を絵に描いたような母上の微笑みが好きだった。
だから、これをされると何とも言えない気持ちにさせられた。
「でも、どうしたら良いかな? 僕としては、あんまり面倒なことは嫌なんだけど」
「ふふ、相変わらずね。だったら、本気で相手してあげなさい」
「でも、怒られるよ?」
「泣かせるよりは良いわ。セレナちゃんは、貴方と対等でいたいのよ。それを汲んであげるのも、良い男の条件よ?」
「えっ? でも、父上はアレだよ?」
この頃の俺ですからわかっていた。
父上が女性の気持ちを汲んであげられるような男ではないことを。
「そ、それは……コホン。それはそれ、これはこれです」
「ええ~!?」
「ふふ、そこを相手に合わせないと。シグルド様は不器用なところが可愛いのですから。私は、そこを好きになったのです」
「つまり……僕は、セレナと本気で向き合えば良いってこと?」
「ええ、そう思うわ。それが、セレナちゃんが求めてるモノな気がする」
……そうだ、こんな話をした気がする。
でも、俺は母上が死んで……そのことを忘れていた。
どうしてだろう? ……おそらく、アレクが辛い記憶として封じ込めたのかもしれない。
それが転生した記憶を取り戻したことで、再び蘇ってきたのか。
「うん、わかった。それじゃあ、本気でやってくる」
「ええ、それが良いわ。アレク、良い男になってね」
「えっ?」
「きっと、貴方なら良い男になれるわ。だって、私の自慢の息子だもの」
「……僕が良い男になったら、母上が喜ぶ?」
「ええ、もちろんよ」
……そういや、こんな話をしたっけ。
それが、今じゃこんな体たらく……いつからだっけ?
……母上が死んでからな気がする。
「あと妹のマリアはもちろん、シグルド様のこともよろしくね」
「マリアは良いけど、父上は嫌です」
「そんなこと言わないの。シグルド様も、アレクを愛しているのよ」
「……はぁ、仕方ないなぁ。とりあえず、できる限りのことはやりますね」
「……ありがとう、アレク」
多分、この時には死期を悟っていたのだろう。
何故なら、この数ヶ月後に母上は死んでしまったから。
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