元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

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獣人のメルル

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    一見すると、ただのセミロングの白髪の美少女って感じだけど。

 カエラも見た時も思ったが……こうして見ると実感する。

 前の世界に似ていようとも、ここが異世界なのだと。

 彼女の頭からは白い耳が生え、お尻からは可愛らしく丸まった尻尾が出ている。

 身長も小さく体型も幼く見え、そして震えている……まるで、子犬のようだ。

「みなさん、今日より教室に留学生が仲間入りいたします。獣人国家ガイアからやってきた、メルルという方です。どうか、仲良くしてあげてください」

「メ、メルルです! よろしくお願いします!」

「メルルさん」

「ひゃい!」

「そんなに緊張しないで平気ですよ。確かに、人族の中で暮らすのは大変だと思いますが、そのうち慣れていくでしょう」

「が、頑張りましゅ……!」

 その言葉とは裏腹に噛んでるし、全身をプルプルさせている。
 どう考えても、すぐに慣れそうには見えない。

「クスクス……なにあれ」

「獣人ってみんなああなの?」

「弱っちそうだな」

 そんな声が、あちこちから聞こえてくる。
 どの世界でも、こういうのは無くならないらしい。

「静粛に! ……ふむ、困りましたね。交換留学生である獣人の方に何かあると問題に……」

「す、すみません……」

「いえいえ、メルルさんが謝ることではないですよ。むしろ、後で説教が必要みたいですね?」

 その言葉に、何人かの生徒が視線を逸らす。
 本当に、この方は良い先生だな。
 記憶を取り戻す前の俺にも、親身に相談に乗ってくれたし。

「さて、そうなると……アレク君」

「……はい? 何でしょうか?」

「君は先ほど、真面目になると言っていました。ならば、それを証明してもらいましょう。貴方を、メルルさんの世話係に任命いたします。国家の関係を悪化させないためにも頑張ってください」

「……えぇ~嫌なんですけど」

 国家の関係に関することはしたくない。
 そんなことをすれば、後々面倒なことになりそうだし。
 成功しても失敗しても、俺には何も得はないし。

「ほほう? 先程の発言は嘘だったと?」

「ぐっ……いや、しかしですね……」

「おや? ここに単位の足りない生徒が一人……うむ、彼は卒業が出来るのでしょうか? これは大量の補習が必要に……」

「ァァァ! もう! 不肖アレク、喜んでやらせて頂きます!」

 俺の一年の時のサボり具合と成績はやばい。
 二年でなんとか取り返さないと、進級すら危うくなる。
 まあ……世話になった先生の頼みだし、面倒だけど引き受けるとするか。

「うむ、良い返事です。これで、私も安心できます。メルルさん、そういうわけですので」

「え、えっと……?」

「あのアレク君という方が、貴女の世話役を名乗り出てくれました。隣の席が空いているので、そちらに座ってください」

「わ、わかりました」

 まるでロボットのような動きで、教壇からこちらに向かってくる。
 そして、俺の目の前まで来て……。

「は、初めまして! 僕はメルルといいます! よろし——痛っ!?」

「へ、平気か?」

 いたそ……思い切り、机の角に頭をぶつけたな。
 おどおどした態度といい、ドジっ娘属性がありそうだ。
   しかも、ボクっ娘でもあると。

「へ、平気です……痛いよぉ~」

「いや、そりゃ痛いでしょ。大丈夫? 保健室行くかい?」

「い、いえ! 身体だけは丈夫なので!」

 そういえば、獣人族は種族の中でも一番頑丈とは聞いたことあるな。

「そっか、なら良かった。一応、君の世話役になったアレクです。メルル、これからよろしくね」

「よ、よろしくお願いします! えへへ、優しそうな人で良かったです」

 ……何処を見たらそうなるのだろう?
 こちとら、さっき嫌だって言ったの聞いてなかったの?

「……とりあえず、席に着こうか」

「そ、そうですよね!」

 俺の隣に彼女が座り、ホームルームが再開する。
 その際に、また前の席にいるセレナと目が合う。
 その顔は、明らかに不機嫌そのものだった。

「……むぅ」

「いや、だから何ですかね?」

「ふんっ」

 ……はぁ、平穏な日々は難しそうです。



 ◇


 教室の前で、僕は深呼吸をします。

「うぅ……大丈夫かなぁ」

 祖国を離れ、人族の国にくるのは怖かった。
 あんまり、良い噂を聞かなかったから。
 獣人をニンゲンモドキって言ったり、昔は奴隷とかにしてた時代もあるらしい。

「で、でも、僕がやらないと……」

 こんな僕だけど、獣人族の王族として頑張らないと……ただの役立たずだけど。
 本当はお姉ちゃんがくるはずだったけど、お姉ちゃんは身体を壊してしまった。
 なのに無理していこうとするから、僕が代わりに行くって言った。

「優しい人いるかな?」

 すると、教室の中から僕の名前を呼ぶ声がする。
 意を決して中に入ると……人族の人達から視線を浴びる。
 こ、怖いよぉ……し、しっかりしないと。
 僕が恐怖で震えている中、どんどんと話が進んでいく。
 そして、結果的にアレク君という方のお世話になるみたい。
 ひとまず席に着いて、ホッとする。

「……ふぁ」

「……ふふ」

「あら、欠伸を見られてたか」

「ご、ごめんなさい」

「別に謝ることはないさ」

 そう言って微笑むアレク君は、とても自然体だった。

 彼には、僕を見下す視線が感じられない。

 この国に来てから、そういったことが多かったけど……。

 どうやら、優しい人に出会えたみたいです。




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