上 下
2 / 68

エルフのメイドはお調子者

しおりを挟む
 ……よし、とりあえず出るか。

 記憶は混濁してるし考えはまとまってないが、これから考えれば良い。

 それに、上手い言い訳も考えたし。

「ふぅ、さて……」

「御主人様、お疲れです。それでは、身体をお拭きしますね」

「うんうん、よろし……へっ? な、何してんの!?」

 シャワーを出たら、カエラがタオルを持って待っていた。
 当然、俺は生まれたての姿である。
 そして、ムスコは丸見え。
 こちとら、十六歳なので普通に大人です。

「何って、いつも通りに拭きに来ただけですが……?」

「……今日からは自分で拭くから平気だよ」

 そ、そうだったァァァァ! 俺って公爵家嫡男だった!
 お手伝いさんはもちろんのこと、洋服を着せられたり……このように風呂上がりに拭かれたりする。
 いつも俺は、カエラに拭いてもらっていた。

「……えっ?」

「いや、そんなこの世の終わりみたいな顔しないでよ」

 というか、タオルを落としてるし。
 どんだけショックだったんだか。
 ひとまず、そのタオルを拾い腰に巻く……これで一安心だ。

「わ、私の楽しみが……ヨヨヨ」

「ヨヨヨじゃないよ。というか、早く出てってくれると助かるんだけど?」

「……本当にどうしたんですか? 頭でも打ちましたか? いや、やっぱり婚約破棄されたことが……」

 そうだ、それもあった……考えるのは後にしようっと。

「別に大したことじゃないよ。俺も成人したし、色々と考えないと思ってね」

 これが言い訳の一つだ。
 成人を機に、自分のことは自分でやろうとする……別に変じゃないよな?
 というか、こんな美少女に身体を拭かれるのは勘弁である。
 それが当然と思っていた前の俺ならいざ知らず、今は前世の記憶があるわけだし。

「……ふむふむ、これは私の予想通りということでしょうか?」

「なに? どういうこと?」

「いえいえ、御主人様はお気になさらずに。では、残念ですが私は下がるとします」

「待て待て! 俺の履いてたパンツを握るな!」

「えっ? これもですか? これを嗅ぐのが、私の朝の」

「か・え・せ。そして、嗅ぐんじゃない」

「むぅ……仕方ありませんね」

 そう言い、パンツを置いて部屋から出て行く。

「いやいや……思い出した今、美少女にパンツを洗ってもらうとか勘弁だ……まあ、ご褒美という人もいるかもだけど」

 モデル体型の、銀髪美少女エルフがメイドか……。
 確かエルフの髪は本来は金髪だけど、あの子は銀髪だ。
 銀髪は不吉の象徴らしく、排他的な種族であるエルフから追放されたとか。
 その際に親父が身元を引き受け、うちにやってきたんだよな。

「それを、俺が世話をしてて……今では、俺が世話されていると」

 最初はおどおどしてたけど、今ではあの有様である。

 俺にいたずらすることや、からかうことを生きがいにしてる節がある。

 そうだ、あの子はお調子者のカエラだ。

 俺は前の自分の記憶と、今の記憶を擦りあわせていくのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

妾の子だった転生勇者~魔力ゼロだと冷遇され悪役貴族の兄弟から虐められたので前世の知識を活かして努力していたら、回復魔術がぶっ壊れ性能になった

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
◆2024/05/31   HOTランキングで2位 ファンタジーランキング4位になりました! 第四回ファンタジーカップで21位になりました。皆様の応援のおかげです!ありがとうございます!! 『公爵の子供なのに魔力なし』 『正妻や兄弟姉妹からも虐められる出来損ない』 『公爵になれない無能』 公爵と平民の間に生まれた主人公は、魔力がゼロだからという理由で無能と呼ばれ冷遇される。 だが実は子供の中身は転生者それもこの世界を救った勇者であり、自分と母親の身を守るために、主人公は魔法と剣術を極めることに。 『魔力ゼロのハズなのになぜ魔法を!?』 『ただの剣で魔法を斬っただと!?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ……?』 『あいつを無能と呼んだ奴の目は節穴か?』 やがて周囲を畏怖させるほどの貴公子として成長していく……元勇者の物語。

嫌われ者の悪役令息に転生したのに、なぜか周りが放っておいてくれない

AteRa
ファンタジー
エロゲの太ったかませ役に転生した。 かませ役――クラウスには処刑される未来が待っている。 俺は死にたくないので、痩せて死亡フラグを回避する。 *書籍化に際してタイトルを変更いたしました!

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

処理中です...