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スタンピートに向けて

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それから数日の間は忙しかった。

パンサーさんを中心に、獣人達が出来るだけ城壁などの補強をしたり。

ギランは、近接戦闘のレクチャーをしたり。

クレハは動きの速い猫や犬系の獣人達と、敵を遊撃するために打ち合わせたり。

それらをモーリスさんが上手くまとめてくれていた。

えっ? 領主の俺は何をしているのかって?

「ひたすら、氷水を作ってますけどォォォ!?」

「お兄さん! 飲み物の追加ですっ!」

「主君! こっちもです!」

「はいよっ! 持って行って!」

「「はいっ!」」

城門近くに簡易休憩所を設置し、俺はそこで暑い中働いている人達のために冷たい氷水を作る作業をしていた。
右手から水を出し容器に水を入れ、左手から氷を出してもう片方の容器に氷を入れる。
そこからオルガとネコネがコップに入れ、並んでる人々に配って行く。
当然並んでる間にも暑いので、迅速な行動が求められる。
つまり……休みがない!

「疲れたョォォ!」

「お、お兄さん! 頑張ってっ!」

「うぅ……頑張るけどさぁ」

はっきり言って、魔力量は全く問題ない。
ただいかんせん、精神的にきついものがある。
単純作業もそうだけど、並んでる人達が苦しい顔をしているので手も抜けない。
俺は屋根付きだからまだいいけど、彼らは炎天下の中で並んでいるのだから。

「かといって、日差しを遮るようなモノを設置するのは大変だし……そうだ!」

「お兄さん?」

「ネコネ! これだけあれば保つから、少し待ってて!」

俺は設置所を出て、並んでいる人々に向かって叫ぶ。

「みなさーん! その場から動かないでくださいねー!」

並んでいる人々が顔を見合わせて……頷いた。
どうやら、俺の奇行にも慣れてきたらしい……喜んでいいのやら。
気を取り直し、俺は並んでいる人達の両脇から氷の壁を発生させる。

「おおっ! 両脇に氷の壁が!」

「涼しいわ!」

これだけでも緩和されるけど、一番の問題は昼間の日差しだ。
だからここから……
これで、氷のアーチの完成だ。
魔力を相当つぎ込んだので、そう簡単には溶けないはず。

「こ、これは……! すげぇぇ!」

「まるで氷の洞窟にいるみたいだぜ!」

「めちゃくちゃ涼しい! エルク様ありがとうございます!」

「「「ありがとうございます!!!」」

すると、住民達が口を揃えてお礼を言ってきた。
俺はそれに軽く手を振り応える。

「ふぅ……これで日差し問題も解決したはず。これで、気兼ねなく落ち着いて作業ができるね」

「なんの騒ぎですか? ……これは凄いですね」

異変に気付いたクレハがやってきて、その光景を見て納得した様子。
相変わらず、心配性だよね。
といってもオルガがいるおかげで、こうしてクレハが側にいないことも増えた。
少し寂しいけど、多分良い傾向なんだと思う。

「やあ、クレハ。いや、こうした方が涼しいかなって。あと、俺も急かされなくていいし。俺はのんびりと作業がしたいんよ」

「ふふ、相変わらず変な方ですね。自分のためにやっているのに、それが人を笑顔にしてしまうのですから」

「褒めても何も出ないよ?」

「それは残念ですね」

そう言い、柔らかく微笑む。
うん、やっぱり正解だ。
クレハは俺を心配するあまり、いつも硬い印象だった。
その硬い印象が取れて、年相応の女の子に見える。
きっとこのままいけば、元奴隷という卑屈さも消えて普通の女の子になれるよね。

「クレハ、この領地を守るよ」

「急にどうしたんですか?」

「いや、言ってみただけ」

「やっぱり変ですね。ですが……はい、私もお手伝いします。ここは、良いところですから」

俺とクレハの視線の先には、共同して作業にあたる獣人と人族がいる。
それはなんだが、とても心温まる光景だった。
この光景を守るのが、領主である俺の役目なんだなって思う。
すると、パンサーさんとギランがこちらに向かってくるのが見えた。

「兄貴ィィ! ずるいですぜ! 俺らにも氷の洞窟を!」

「うむ、こちらの近くにも頼む」

「あっ、でしたら私たちが鍛錬してる場所にも」

「はい?」

そして、俺を放って三人で話し合いが始まる。
待って待って、何か嫌な予感しかしないんだけど?
すると、何やら話がまとまったらしい。

「では、順番に回るとしよう。まずは、俺のところからだな」

「私はネコネ達に言ってきますね」

「俺は住民達に説明してくるぜ!」

「……はい?」

三人がそれぞれ行動を開始する。 

そしてパンサーさんが、俺を引きずっていく。

あれ!? 自分が楽をするために氷のアーチを作ったのに仕事が増えたよ!?

……どうしてこうなったァァァァ!?
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