グーダラ王子の勘違い救国記~好き勝手にやっていたら世界を救っていたそうです~

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 エルク殿下に作戦を伝えたオイラは、はやる心臓を手で抑える。

「オ、オイラに出来るかな?」

 図体がでかいだけで、小さい頃から鈍臭くて何も上手くいかなかった。
 両親からは期待されたけど、それも最初だけで後は呆れられた。
 結局、両親は離婚して……辺境にある母方の祖父の家に預けられることになった。
 じいちゃんは優しく娘がすまないといい、俺が責任を持って育てるって言ってくれた。

「だから、恩返しをしたかった……でも、出来なかった」

 じいちゃんが夢見た景色を見せてあげたかった。
 そのために辺境を変えようと、まずは魔法の自主練や槍の稽古をしてきた。
 でも内弁慶なオイラは、獣人族どころか人族とも上手く話せない。
 何をやっても、失敗ばかりだった。

「気がつけば、二十歳を過ぎていた」

 じいちゃんは死んでしまい、オイラは目標を失った。
 じいちゃんは好きに生きろって言ってくれたけど……それでも、まだ夢は燻っていた。

「もう諦めて、ただ平凡に暮らそうと思ってたんだ……だけど、エルク殿下が現れた」

 彼はあっという間に溶け込んで、次々と人族と獣人族、住民間の空気を変えていった。
 オイラがやりたかったことを、たった一週間くらいで……凄い人だ。

「氷魔法もそうだけど、それだけじゃない」

 馬鹿にされてきたオイラにはわかる。
 エルク殿下からは、人を見下す視線を感じない。
 王族に生まれ、魔法も使えるのに。
 獣人のクレハさんを対等に扱うし、オイラなんかにも優しくしてくれた。

「それどころか、オイラは怪我をさせてしまった……馬鹿なオイラでもわかる、本来なら殺されてもおかしくない」

 でも、エルク殿下は笑って許してくれた。
 オイラを一言も責めず、怒っているクレハさんを宥めてくれた。

「……その人が、オイラを信じてくれるって言った」

 もちろん、半分はやる気を出させるためだってわかってる。
 それても、嬉しかった……それに、じいちゃんが言ってた。
 自分を信じてくれる人がいたら、それは物凄く貴重なことなのだと。

「ダメなオイラだけど、ここでやらなきゃ……じいちゃんや、信じてくれたエルク殿下に顔向けができない」

 ……よし、覚悟は決まった。
 オイラは後ろで待ってくれていたエルク殿下に振り向く。
   すると、彼がニカッと笑う。

「ん? 覚悟はできたっぽいね?」

「はいっ……! 待ってくれてありがとうございます……いつでもいけます」

「わかった。それじゃ、俺と一緒に出るとしますか……行くよ!」

 オイラはエルク殿下を守るように、前を先行して走る。
 一瞬だけ振り返ると、先ほどとは違ってエルク殿下の顔は強張っていた。
 ……当たり前だ、怖くないわけがない。
 オイラなんて頼りにならないし、エルク殿下だって戦いの専門じゃない。
 それなのに、こうして頼ってくれた。

「……エルク殿下! オイラが必ずお守りします!」

「うん? そっか……んじゃ、俺も覚悟を決めるとしますか」

 すると、ワイバーンが一度上昇し、俺達にクレハさんが気づく。

「何をしているのです!?」

「あの位置からだと狙いがつけにくい! 下手すると、クレハに当たっちゃうし!」

「私のことなど気にしなくていいのです! 最悪、一緒に当ててしまえば……」

「却下! 全員で無事に帰るよ! 俺がどうにか撃ち落とすから、クレハはそこを狙って!」

「し、しかし……」

 クレハさんの視線が、オイラに向けられる。
 オイラに出来るのかと、その目がいっていた。

「オイラに任せてください!」

「……問答してる時間はなさそうですね。では、私はいざという時の為に気を溜めておきましょう」

 そう言い、刀を鞘に収めて抜刀の構えを取る。
 すると、ワイバーンがオイラ達に視線を向けた。
 そして、その大きな口を広げて咆哮する!

「ギシャァァァ!」

「っ~!? く、来るなら来い!」

 そして、クレハさんとオイラ達を見比べ……こちらへ急降下の姿勢をとった。
 オイラ達の方が弱いと判断したんだ……悔しい。

「オルガさん! 魔法のコツは出来ると信じること! 自分が思い描くモノをイメージ!」

「はい! オイラにはできるオイラにはできる……我が主君を守る盾となれ——アースシールド!」

「ギシャァァァ!」

 オイラが土の大楯を展開すると当時に、ワイバーンがそれに向かって爪を立てる!
 強風と体当たりにより、身体中に激しい負荷がかかって思わず倒れそうになる……負けられるか!

「……ァァァァァ!」

「ギシャ!?」

 大楯を身体ごと押し出すと、ワイバーンが上昇する。
 すると土煙の中、後ろから声が聞こえた。

「撃ち貫け——アイスライフル」

「ギァァァァ!?」

 上を見ると、上昇するワイバーンの片翼に穴が開いていた。
 おそらく、エルク殿下の氷魔法だ。
 そのためか、ワイバーンは高度を下げてしまう。

「クレハ!」

「お任せを——闘気刃!」

 エルク殿下の声に反応し、クレハさんが飛び跳ねると同時に抜刀する!
 それは傷ついていない方の翼を断ち切った。
 当然、ワイバーンは飛べずに地上に落下する。

「ギ……ガァァァ……」

「とどめです!」

 そして最後に、クレハさんが落下しながら脳天に刀を刺した。

「ふぅ……どうにかなりましたか」

「クレハ! ナイス!」

「……終わった?」

 オイラが呆然としていると、エルク殿下に背中を叩かれる。

「そうだよ! オルガさん凄いじゃん! ちゃんと盾が出たね!」

「ええ、ワイバーンの体当たりを止められる冒険者は少ないでしょう……エルク様を守って頂きありがとうございました」

「オ、オイラにもできた……! いえ! お二人の魔法と剣技があったからです!」

 間違っても、オイラの手柄なんかじゃない。
 オイラは攻撃を受け止めただけだし、お二人がいなかったら倒せなかった。

「うんうん、みんなの勝利ってことだ」

「ふふ、そういうことですね……きっと、昔はこのように戦っていたのかもしれません」

「あぁ、なるほど……種族や身分関係なく、力を合わせて戦うってことか。確かに、そんな時代があったのかも。確か、オルガさんのお爺さんが言ってたっけ?」

「はい! じいちゃんから聞きました! 昔は、みんなで協力してたって!」

「ふんふん……それじゃ、これで一歩近づいたわけだ」

「あれ? ……本当だ」

 エルク殿下は王族だし、オイラは平民、クレハさんは獣人だ。

 まだ他にも沢山種族はいるけど……可能性はゼロじゃない。

 もしかしたら、じいちゃんの夢が叶うのかもしれない……同時にオイラの夢も。

 じいちゃんの夢とは別に、小さい頃は誰かを守れる騎士になりたかった。

 決めた、オイラはエルク殿下に……主君について行こう。

 オイラ自身のためと、この方の成すことを手伝いたい。

 そしていつか、じいちゃんの夢を叶えてみせるんだ。





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