グーダラ王子の勘違い救国記~好き勝手にやっていたら世界を救っていたそうです~

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変な王子

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魔石を回収し終えて、みんなを一箇所に集まる。

「みんな、お疲れ様」

「エ、エルク殿下、お怪我は?」

「オルガさん、大丈夫だって。それより、こんなに魔物がいるの?」

俺の問いに、みんなが顔を見合わせて困惑する。   
そういや、最近は森に狩りに行かないんだった。

「そっか、わからないか。そうなると、少し調査が必要かな。これが異常事態なのか、それとも普通なのか」

「で、ですが、エルク様の怪我が……」

「クレハも心配性だなぁ。少し休んだけど、これなら平気だよ。それよりも、早めに調査をしないと……スタンピートだったら笑えない」

俺の言葉に、全員の顔色が変わる。
スタンピート、それは魔物の集団が一斉に襲いかかることを意味する。
理由は様々だけど統率者が現れたり、何かに追われるように起きるとか。

「それは確かに……もしそうなら、今の都市の戦力では太刀打ちができません」

「どう考えても無理だね。だから、すぐに調査をしないといけない。何もないならいいし、何かあるなら対策を立てないと」

「……わかりました。その代わり、無茶だと思ったら抱えてでも帰りますから」

「うん、わかった」

話を終えた俺達は、再び森の中を歩いていく。
すると、やはり……同じ種類の魔物の集団に襲われる。
今のところは下位である魔物しかいないが、これで上位種がいたら危険だ。

「アイスショット!」

「ハァ!」

「フンッ!」

俺の氷魔法、クレハの剣技、パンサーさんの拳を中心に魔物を倒していく。
撃ち漏らしを四人の人族が協力して倒していく。
それでも、限界が近い。
やっぱり、もう一人遠距離攻撃と回復役が欲しい。
こんな時、ステラがいてくれたらなぁ……いけないいけない、自分で断ったんだ。

「ふぅ……」

「エルク様、平気ですか?」

「魔力は平気だけど、精神的に疲れたかな。他のみんなはどう?」

俺の問いにパンサーさんは首を振る。
そして人族の四人は……明らかに疲弊していた。
最初の探索だし、仕方ないよね。
でもこれで、大変さがわかってくれたらいい。

「別にここでは気を使わなくていいからね。無理される方が、困ることもあるし。ちなみに、俺は疲れたのでベッドで寝たいです」

「ふふ、エルク様ったら」

「とりあえず、休憩したらどうだ? それなりに、俺も疲れている」

「うん、そうしよっか」

パンサーさんの提案に乗り、再び休憩を取る。
俺はコップに水と氷を注ぎ、それをみんなに渡す。

「オルガさん、しっかり飲んでね」

「あ、ありがとうございます!

「ほら、パンサーさんも」

「……俺もいいのか?」

「うん、もちろんだよ。みんなも、お代わりは自由だからねー」

俺が言うと、みんなが嬉しそうに水をごくごくと飲み干していった。
俺はお代わりを注いだ後、パンサーさんの隣に座る。

「これは美味い……冷たい水がこんなに美味いとは」

「ふふふ、でしょ?」

「ああ……お主は不思議な人族だ」

「ん? 何か変かな?」

俺がそう言うと、パンサーさんがじっと見つめてくる。
あらやだ、黒い目がステキなイケメン……違う違う、そうじゃない。
このネタがわかる人は昭和生まれかなー。

「クレハという銀狼族を対等に扱っているのもそうだが、先程の人族を庇った件もだ。それに、こうして自らが雑用のような真似をしている」

「だって、喉が乾いたら辛いじゃん。それに、俺だけ飲んでるのは気まずいし」

「そういえば、前にもそんなことを言っていたな。しかし、上の者はいちいち下の者の気持ちなど考えないと思っていたが……違うのだな」

「そういう人がいることは否定しないけどね。ただ、俺は小心者だからさ。あと、単純に良い人って思われたいし」

「くく、馬鹿正直な奴だ……だが、嫌いじゃない」

少しずつだけど、警戒心が取れてきたかな?
それだけでも、ここにきた甲斐があるね。
すると、クレハが話に入ってくる。

「エルク様、この後はどうしますか?」

「うーん、俺も疲れたし帰ろうか。とりあえず、魔物が沢山いることはわかったし。本当だったら、食材とか土産があったら良かったんだけど」

「ええ、調査としては充分かと。後は地元の方々に聞くのがいいでしょう」

後は帰って、これがスタンピートの前兆なのか確認しなきゃ。
周りを見ると、あからさまにホッとしていた。
すると、聞きなれない鳴き声がする。
感高い声というか耳がキーンとなる感じ?

「クレハ、なんの鳴き声かな?  鳥?」

「……まさか、あの魔獣がいるのですか?」

「心当たりがあるの?」

「はい。もしそうだとしたら、いい土産になるかと。何より、放っておくと危険かと」

「むむむっ……仕方ない、もう一働きしますか」

ふと周りを見るが、中々立ち上がれない。
あぁー、帰るって言われてからまた動くのしんどいよね。
定時で帰れると思ったら、残業ありますみたいな……いやだいやだ。

「オ、オイラはやれます! 体力だけが取り柄ですから!」

「ふむふむ……それじゃ、手伝ってもらおうかな」

「が、頑張ります!」

「うん、よろしく。パンサーさんは、ここで人族の方々を頼めますか?」

「ああ、任せるといい」

俺は最後に、クレハに振り向く。

「クレハ、君を頼りにしてるから」

「っ——!  はっ、我が剣に懸けて」

クレハの耳がビーンと立ち、顔つきに気迫がこもる。

さてさて、何がいるのやら。
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