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想定外

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 そして、数時間かけて森へと到着する。

 馬を小屋に預け、以前と同じように小屋の周りに氷の壁を作っておく。

 これで水もいらないし、空からドラゴンでも襲ってこない限り平気だろう。

「よし、これでいいかな」

「こ、こんなに魔力を使ってよろしいのですか?」

 その作業を見ていたオルガさんが聞いてくる。
 周りを見ると、他の人達も唖然としていた。
   こういう反応にも慣れてきたなぁ。

「うん、全然減ってないから平気だよ」

「みなさん、エルク様の魔法に驚いていてはキリがありません。この方は色々と規格外ということを認知してください」

「……なんか、褒められてる気がしないんだけど?」

「ふふ、気のせいです」

「……まあ、いいや。確かに一々驚かれるのもあれなんで、慣れていってね」

 俺の言葉に全員が頷く。
 褒められるのは慣れてないし、少し照れてしまうのだ。
 その後、隊列を組んで森の中に入る。
 先頭からクレハ、俺、オルガさん達が続き、最後尾にパンサーさんがつく。
 獣人族は気配察知能力が高いので、この編成となった。

「エルク様は、もう少し後ろでも良かったのでは?」

「そうすると、咄嗟に魔法が撃てないじゃん。俺だって、クレハを守りたいわけさ」

「そ、そうですか……それでは、よろしくお願いします」

「うん、任せて。それに、今回は五人はお試しでもあるから。出来るだけ、俺とクレハで片付けるよ。獣人と人族が協力すれば凄いって見せてやろう」

「ええ、お任せください」

 そして、森を進むこと数分……。

「エルクよ!」

「エルク様! 来ます!」

 獣人二人の声に俺達が臨戦態勢に入ると、すぐにゴブリンの群れが現れる。
 こいつらは繁殖率が高いので、見つけ次第倒さないと。
 俺は相手の数を見て、指示を出す。

「数が多いのでクレハは遊撃! 俺は魔法で数を減らす! オルガさんは俺の守り! 残りの人族は一箇所に固まって来た敵を全員で仕留める! パンサーさんは全体をフォローして!」

 俺の言葉に全員が頷き、行動を開始する。
 クオンは俺を視界に入れつつ、敵を一刀のもとに仕留めていく。
 オルガさんを除く人族は三人で固まり、近づいて来たゴブリンを一体一体確実に仕留める。

「よしよし、いい感じ」

「オ、オイラはどうしたら?」

「大丈夫、俺がくる前に仕留めるから——アイスショット!」

 撃ち漏らしは俺が魔法で仕留める。
 そして、数分ほどで数十体いたゴブリンを殲滅する。
 少し待って何もなかったので、警戒を解く。

「ふぅ、これで良いかな」

「エルク様、見事な指揮でしたね」

「クレハも凄かったよ」

「ふふ、ありがとうございます。ですが、あのような指揮ができたとは……」

「あぁー……」

 確かに以前の俺では無理だったに違いない。
 でも、前世の記憶では……うっすらだけど、俺は部下がいたはずだ。
 営業部に所属して、日々残業に明け暮れていた気がする。
 もしかしたら、その頃の記憶が関係してるのかも。

「いえ、何も驚かないと言ったのは私でしたね」

「はは……うん、そういうこと。さて、他のみんなもお疲れ様。初めてにしては、上手くいったんじゃないかな」

「「「ありがとうございます!!!」」」

「ふむ、俺の目から見ても悪くはなかった……やはり、人族の力は個でなく集ということか」

「うん、そうかも。人は弱いから群れるけど、その代わり力を合わせることができる」

 ふと見ると、オルガさんが肩を落としていた。

「はぁ……みんなすごいや」

「オルガさん、どうしたの?」

「い、いえ、オイラは何もできなかったから……」

「初めてだし仕方ないよ。大丈夫、生きていればチャンスはいくらでもあるから。焦らず、のんびり行こう」

「エルク殿下……はい!」

「良い返事だね。それじゃ、先を進もう」

 その後、再び探索を始め……ゴブリンの群れが現れる。
 しかもその数は、三十を超えていた。
 その中には、オークも混じっている。

「ギャ!」

「ブホッ!」

「なんか数が多くない? まだ入り口付近なんだけど?」

「確かに多いですね」

「ともかく、さっきと同じように戦おう! ただし、俺やクレハはオークを中心に! パンサーさんも遊撃に回って!」

 俺の言葉に皆が頷き、戦闘を始める。
 オークは俺の魔法とクレハが倒し、ゴブリンをその他の人が倒していく。
 ゴブリンはともかく、オークは弱くはない。
 負けるとは思わないけど、怪我を負うこともある。
 そんな中、俺たちの方にもゴブリンが迫ってきた。

「うわっ!? こっちに来ました!」

「オルガさん 落ち着いて。 迫ってきたところを槍を突けばいい」

「迫ってきたところを……こう!」

「ギャ!?」

 カウンター気味に放った突きが頭に刺さり、ゴブリンが魔石となる。

「オ、オイラにもできた?」

「できたじゃん! そうそう、それでいいと思う!」

「あ、ありがとうございます!」

「それじゃ、その調子で——危ない!」

 俺は咄嗟にオルガさんを突き飛ばす。
 同時に、頭に鈍い痛みが走る。

「イテテッ……あれ? 血が出てるのか」

「エルク様!? ……貴様ァァァァ!」

 視界の隅でクレハが激昂して飛び出していくのが見えた。
 ふと横を見ると、オルガさんが尻餅をついてガクガクと震えていた。

「ごめんなさいごめんなさい……」

「平気だって、ちょっと血が出てるだけだから。それより、状況がわからないや」

 すると、パンサーさんがやってくる。

「俺が説明しよう。どうやら、後方からコボルトが現れたようだ。その一体が、石を投げつけてきた」

「ああ、そういうことかぁ」

 ゴブリンやオークは、上位種になろうと基本的に頭が悪い。
 しかし犬型のコボルトは、攻撃力は低いけど頭が良い。
 素早い動きと小狡さで、こちらを翻弄する魔物だ。
 投石をしてきたのを、俺が食らってしまったと。

「オ、オイラのせいで……」

「いやいや、それは違うよ。俺が勝手に庇っただけだから」

「ど、どうしてオイラなんかを? それも、王族の方が……」

「特に理由はないよ。危ないなと思ったから動いただけ」

「……身体が勝手に動いた……」

 そして、敵を殲滅させたクレハが戻ってくる。
 さっきまでの怖い顔は何処へやら、オロオロと情けない顔をしていた。
 こんな状況なのに、少し可笑しくなる。

「エルク様! お怪我は!? あぁ、おでこから血が……ど、どうしよう? こんな時、ステラ様がいれば……」

「まあまあ、落ち着いて。目眩やふらつきもないし、手足が痺れる感じもしない。頭痛も大したことないし、目も見えるし」

「そ、そんな治療師みたいな知識をいつ……いえ、そもそも合っているのですか?」

「まあ、合っていると思う。それより、魔石を回収しよう。これだけあれば、俺の氷魔法を込められる」

「私は側を離れませんから」

「はいはい、わかったよ」

 その後、他の人達が魔石を回収するのを眺めつつ、氷で頭を冷やす。
 すうっと痛みが取れていき、視界がクリアになる。
 頭を打ってから六時間は気をつけるって話だけど、おそらく平気かな。

「い、痛くないですか?」

「うん、平気だよ」

「わ、私がついていながら……」

「仕方ないって。ちょっと想定外だったし」

 モーリスさんが魔物が多いとは言っていたけど、前回来た時はこうじゃなかった。
 ちょっと、甘く見ていたかもしれない。

「確かに、少し変でしたね。何か……逃げてきたような」

「……それは不気味だね」

「と、ともかく、やはり私がお側にいないと……」

「それはダメ」

 するとクレハの耳が垂れ、悲しい表情になる。

「やっぱり、私は役に立たないのですか……」

「ァァァ! 違うって! どうして、みんなネガティブかな!  クレハには側にいて欲しいけど、遊撃が向いているんだよ。それに……ここで彼を外したら、余計に責任を感じちゃうよ」

「それはそうですが……」

「彼みたいな若者が、この先の辺境に必要なんだ。だから、怒らないであげてね?」

「……エルク様がそう仰るなら」

「ありがとう、クレハ」

 俺は久々に、隣に座るクレハの頭を撫でる。

 すると、ようやく笑顔になるのだった。
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