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今更

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 その後、ついでなので室内の壁汚れなども同じ要領で掃除していく。

 これで、しばらくの間は平気なはず。

 仕事を終えた俺達は、地上へと戻ってくる。

「すぅ……うん、さっきより空気が美味い。モーリスさん、そういえば流れたモノは何処に行くの?」

「エルク殿下が向かった森へと流れていきます。それが肥料となり、大きな森になったのです」

「あぁ、なるほど。それなら無駄にはならないか。さて……身体洗いたいね」

 まだ作業している方には申し訳無いけど、こればっかりは仕方ない。
 こちとら今世は王子で、前世は日本人だったんだから。
 そういえば、お風呂があるのは王都でも一握りだった。
 まず水の量が必要だし、温めるために薪や火魔法が必要になってくる。

「申し訳ございません。領主の館にも昔はあったのですが……やはり、整備不足により壊れてしまいました」

「まあ、仕方ないよ。それを作ったのもドワーフ?」

「はい、その通りでございます」

「となると、どちらにしろドワーフ族を誘致する必要があると」 

 ドワーフ族は、同族で争う人族に嫌気が指し、南にある海沿いの土地に国を建てた。
 そこにはエルフ族もいて、我が国とは交流を絶っている。
 すると、それまで放心していたクレハが俺の服を掴む。

「エ、エルク様……私もシャワー浴びたいです」

「あっ、そうだよね。クレハも、良く頑張ったね」

「い、いえ、私は途中でダメでしたから……エルク様こそ、凄い魔法でした。水魔法があんな威力が出せるとは知りませんでした」

「まあ、生活水のために魔力を温存するのが基本だから。極めれば、どんなものでも切り裂く……話は後にして、一旦屋敷に戻ろうか」

 その後、軽くシャワーを浴び、自室に戻る。
 クレハは時間がかかるので、その間にモーリスさんと話をする。

「エルク殿下、改めてありがとうございました」

「いやいや、自分のためにやっただけだから。それで、ドワーフ族と再び交流するにはどうしたら良いかな?」

「難しい問題でございますな。領主権限の一つして、エルク殿下には交渉することは可能です。ですが、彼らは人族を見限っております。大昔に手を取り合って戦った獣人を奴隷にしたり、エルクやドワーフを差別したり、人族同士で争うのを見て」

「まあ、当然の話だよね。そうなると、彼らが欲しいモノを用意するしかないかな」

 ドワーフ族は、酒と熱くて辛い物を好むとか。
 エルフ族は、果物や野菜、そして冷たいものを好むらしい。
 この二つの種族は性格も暮らしも正反対で、南の国を半分個にして統治しているとか。

「氷魔法はきっと欲しがるのではないかと存じます」

「氷魔法か……確かに冷やした酒の美味さは格別だろうね」

「おや? お酒をお好きなので?」

「い、いや! シグルド叔父さんが、温い酒がまずいってぼやいていたからさ。かといって、熱燗で飲むのは暑いしって」

 いかんいかん、今の俺は成人したばかり。
 前世の時は、仕事終わりに缶ビールを家で飲むのが唯一の楽しみだった。
 ただ、ある時冷蔵庫が壊れ……温くなった缶ビールを飲んだが、全く美味しくなかった。
 そうか、この世界の人々はあの美味さを知らないのか。
 ちなみにこの世界にはエールと果実酒や普通の酒などがあるが、ラガーやワインはない。

「酒豪で有名な方ですから。話を戻しますが、川などで冷やした酒は格別だと聞いたことがあります。それを手軽に飲めるとしたら興味を引けるのではないかと。同時にエルフ族は暑さに弱いので、そちらにもアプローチできるのはないかと」

「ふんふん、なるほど。いやー、モーリスさんがいて良かったよ」

「い、いえ、私など……懐かしい感覚ですな」

「懐かしい?」

「いえいえ、気になさらないでください」

 すると、扉が開いてクレハがやってくる。

「ただいま戻りました。遅くなりすみません」

「ううん、平気だよ。髪の毛長いから大変だもんね。乾かすのも一苦労……ァァァァァ!?」

「ど、どうしたのです?」

「エルク殿下!?」

 頭を抱える俺を心配して、二人が寄ってくる。
 だが、俺の頭はそれどころじゃない。
 記憶を取り戻したばかりとはいえ、自分のアホさ加減に呆れる。

「そうだよ、どうしてさっき気づかなかったんだ」

 水を高圧洗浄機のように使ったとき、それに思い至るべきだった。
 今の俺には前世の知識があるから、簡単な便利道具くらいなら作れるじゃないか。
 それを使って交渉なり、領地を発展させていけばいい。
 というか、俺自身が便利な道具が欲しい。

「エルク様?」

「あぁ、ごめんね。二人とも、もう大丈夫。ちょっと、自分のアホさ加減に嫌気がさして」

「なるほど、 今更気づいたと」

 したり顔で、クレハは頷いている。

「クレハさんや? そんなこと言うと、いいことしてあげないよ?」

「な、なんです?」

「ほら、いいから後ろを向いて」

「……エッチなことはダメですよ?」

「しないし! と、とにかくほら!」

「……わかりました」

 怪訝な顔をしつつも、クレハが後ろを向く。
 俺は手持ちの風魔法が入った魔石を用意し、それを左手に持つ。
 右手には魔法で冷気を発動させ、それを風で送る。
 いわゆる、クーラーもどきだ。

「こ、これは……気持ちいいです! 涼しい風……シャワーを浴びた後だから尚更です」

「ふふふ、でしょ?  多分、これを量産すれば少なくとも部屋の暑さはどうにかなる」

「そうですね。それに、このように使えるもいいかと」

「うん、髪を乾かすにもいいかなって。冷風の方が気持ちいいし、髪も傷みにくいんだよ」

 この世界にも、火の魔石と風の魔石を利用したドライヤーもどきはある。
 でも暑い中でやるのは大変だし、そもそもそんな無駄使いをできる人は限られてる。
 魔石も貴重だし、そもそも魔法を込められる人が少ない。
 普通の人は自然乾燥したり、誰かにうちわであおいでもらったりする。
   氷魔法があれば、冷風ドライヤーも作れるはず。

「確かにいつもよりサラサラになった気がしますね」

「とまあ、こんな風な便利な道具を作っていきたいと思ってさ。そのためには、やっぱりドワーフ族の力が必要になるね。あと、エルフ族もね」

 ドワーフ族は物を作る天性の才能がある。

 概要さえ説明すれば、彼らなら前世で使っていた道具を作れるかもしれない。

   エルフ族は魔力が多く、全エルフが風魔法が使えるので仲良くしておきたい。

 ……よし、彼らを釣るための餌を用意しないとね。
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