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ステラ視点
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エルク様が旅立って数日後、お城の中では会議が開かれました。
私……ステラ-イチイバルも、宰相であるお父様に頼みこんで連れてきてもらいました。
もちろん参加はできないので、今はこうして終わるのを部屋で待っています。
そして、私が部屋の中をウロウロと歩いていると……扉が開く。
「お父様!」
「落ち着きなさい、ステラ。全く、お転婆なのは母さんそっくりだ」
「だ、だって、エルク様のお話ですもの!」
そう、今回の緊急会議のお題はエルク様だ。
護衛を置いて勝手に出て行ったこともそうですが、何やら驚くべきことをやったとか。
冒険者登録をした際に、誰も見たことない魔法をお使いになったらしいのです。
そのことを、ギランという冒険者の方が伝えにきたのです。
「まあ、とりあえず座りなさい」
「は、はい!」
ひとまずソファーに座り、お茶を飲んで心を落ち着かせます。
「そ、それで……」
「うむ。まずは事実から言おう……エルク王子は氷魔法を使える」
「っ~!? ほ、ほんとですの?」
「うむ、私にも信じ難いことではあるが」
私達が疑問に思うのも無理はない。
暑さによって作物や生き物が育ちにくくなっている今、氷魔法の重要さは言うまでもない。
水魔法使いの方々が研究を続けているが、未だに成功した者はいない。
それもこれも、今生きている者達は現物を見たことがないから。
遥か北の大地には氷があるというが、そこに至るには凶悪な魔物や魔獣を倒さないといけない。
「もう一度確認してもよろしいですか?」
「ああ、私も整理をしよう。まずは冒険者ギルドで騒動があり、その際にエルク王子が床に氷を張ったらしい。これは目撃証言も多く、ギルド職員などもいたのでおそらく事実だろう。何より、魔法を受けた本人が証言している」
「その方は一体何をしたのでしょう?」
「酒に酔って絡んで、そこを返り討ちにされた形だ。ただエルク王子が不問にすると言ったこと、本人が自首してきたので重い罪にはなっていない。牢屋で数日間を過ごした後、今さっき開放されたところだ」
「ふふ、その辺りは相変わらずですの」
エルク様は自分にも甘いですが、それ以上に他人に甘いお方。
メイドや兵士が何か粗相をしても、決して声を荒げたり怒ったりはしませんでした。
私の知る限り、身分を傘にきて偉そうな態度は取ったことはありません。
「……お前は、相変わらずエルク王子が好きなのか?」
「ふえっ!? い、いつ、私が好きだと言いましたか!?」
「はぁ……何も自堕落王子でなくともいいではないか」
お父様の、エルク様に対しての評価は低い。
確かにお勉強やお稽古はサボってばかりで、いつもダラダラしてましたけど。
それでも、私は良いところを沢山知ってます。
いざという時は、行動力があることも。
「むぅ……お父様、エルク様にだって良いところはありますの」
「例えばなんだ?」
「優しいですし、差別をしませんの。奴隷や平民であろうと決して下に見ず、目線を合わせてお話になりますわ」
「ふむ……王族としてはどうかと思うが、人としては美点か」
「何より……私を悪く言ったことがないのです。この髪質のことも、女性なのに馬や弓をやることも」
私は死んだお母様に似た赤髪ですが、髪質はサラサラではなく量が多い癖っ毛でした。
いつもぴょんぴょん跳ねて、それを同年代の男子にからかわれたり……それが嫌でした。
ですが、エルク様だけは初めて会った時に可愛いねって……はぅ。
「確かに、職種や性別で差別しないのは良い点だ。しかし、自堕落が全てを台無しにしていた」
「それですが……自堕落なフリだったとしたら? だって、氷魔法を使えることも誰も知りませんでしたわ」
「まさしく、今回の議題はそれだったのだ。エルク王子が敢えて氷魔法を隠していたのかという……もう一度確認だが、ステラは知らなかったのだな?」
「はい、私は知りませんでした。クレハはわかりませんけど……」
クレハが知ってて私が知らなかったら少しショックです……うぅー、こんな感情は良くないのに。
クレハだけついて行ってずるいとか……ダメですわ! そういう考えはなしですの!
「まあ、親交が深い王弟シグルド様も知らなかったそうだ。おそらく、誰も知らない可能性が高い。そして、隠した理由について……追放と成人したタイミングというのが、あまりに出来すぎているという話になった」
「やはり、そうなりますの……丁度、王太子様に子供ができたタイミングでもありますわ」
「うむ、それもある。とりあえず、最後はここで話していてもらちが明かないという結論に至った。故に、辺境に向けて使節団を派遣することになった。代表はシグルド様で、元々エルク様を送るはずだった護衛達を連れてな」
「お、お父様! ……私もその視察団に入れてください!」
私はテーブルに身を乗り出し、真剣にお父様を見つめる。
ここで待っててって言ってたけど、じっとしていられないもん!
もちろん、簡単に許されるとは思ってません。
嫁入り前の娘ですし、危険な地でもありますから。
「そういうと思ったぞ。私としては反対なのだが……」
「お父様?」
私が疑問に思っていると、再び扉が開く。
入ってきたのは、王弟であるシグルド様だった。
「シグルド様!」
「ステラ、久しぶりだな。益々エミリアに似て綺麗になったな」
「ふふ、ありがとうございます。それで、どうしたのですか?」
「悪いが外で話は聞いていた。ネイル、良いな?」
シグルド様の言葉に、お父様が息を吐く。
「……ええ、許可します」
「え、えっと?」
「俺が本人が行きたいなら行かせてやれと頼んでおいた。もう成人したし、これ以上は過保護を超えて干渉になるぞとな」
「……はい、わかっております。ステラ、お前の好きにしなさい」
「あ、ありがとうございます! シグルド様も!」
「なに、良いってことよ。んじゃ、俺が責任を持って送り届けるぜ」
やったぁ! これでエルク様に会えますわ!
もう、しっかり説明してもらいますからね!
私……ステラ-イチイバルも、宰相であるお父様に頼みこんで連れてきてもらいました。
もちろん参加はできないので、今はこうして終わるのを部屋で待っています。
そして、私が部屋の中をウロウロと歩いていると……扉が開く。
「お父様!」
「落ち着きなさい、ステラ。全く、お転婆なのは母さんそっくりだ」
「だ、だって、エルク様のお話ですもの!」
そう、今回の緊急会議のお題はエルク様だ。
護衛を置いて勝手に出て行ったこともそうですが、何やら驚くべきことをやったとか。
冒険者登録をした際に、誰も見たことない魔法をお使いになったらしいのです。
そのことを、ギランという冒険者の方が伝えにきたのです。
「まあ、とりあえず座りなさい」
「は、はい!」
ひとまずソファーに座り、お茶を飲んで心を落ち着かせます。
「そ、それで……」
「うむ。まずは事実から言おう……エルク王子は氷魔法を使える」
「っ~!? ほ、ほんとですの?」
「うむ、私にも信じ難いことではあるが」
私達が疑問に思うのも無理はない。
暑さによって作物や生き物が育ちにくくなっている今、氷魔法の重要さは言うまでもない。
水魔法使いの方々が研究を続けているが、未だに成功した者はいない。
それもこれも、今生きている者達は現物を見たことがないから。
遥か北の大地には氷があるというが、そこに至るには凶悪な魔物や魔獣を倒さないといけない。
「もう一度確認してもよろしいですか?」
「ああ、私も整理をしよう。まずは冒険者ギルドで騒動があり、その際にエルク王子が床に氷を張ったらしい。これは目撃証言も多く、ギルド職員などもいたのでおそらく事実だろう。何より、魔法を受けた本人が証言している」
「その方は一体何をしたのでしょう?」
「酒に酔って絡んで、そこを返り討ちにされた形だ。ただエルク王子が不問にすると言ったこと、本人が自首してきたので重い罪にはなっていない。牢屋で数日間を過ごした後、今さっき開放されたところだ」
「ふふ、その辺りは相変わらずですの」
エルク様は自分にも甘いですが、それ以上に他人に甘いお方。
メイドや兵士が何か粗相をしても、決して声を荒げたり怒ったりはしませんでした。
私の知る限り、身分を傘にきて偉そうな態度は取ったことはありません。
「……お前は、相変わらずエルク王子が好きなのか?」
「ふえっ!? い、いつ、私が好きだと言いましたか!?」
「はぁ……何も自堕落王子でなくともいいではないか」
お父様の、エルク様に対しての評価は低い。
確かにお勉強やお稽古はサボってばかりで、いつもダラダラしてましたけど。
それでも、私は良いところを沢山知ってます。
いざという時は、行動力があることも。
「むぅ……お父様、エルク様にだって良いところはありますの」
「例えばなんだ?」
「優しいですし、差別をしませんの。奴隷や平民であろうと決して下に見ず、目線を合わせてお話になりますわ」
「ふむ……王族としてはどうかと思うが、人としては美点か」
「何より……私を悪く言ったことがないのです。この髪質のことも、女性なのに馬や弓をやることも」
私は死んだお母様に似た赤髪ですが、髪質はサラサラではなく量が多い癖っ毛でした。
いつもぴょんぴょん跳ねて、それを同年代の男子にからかわれたり……それが嫌でした。
ですが、エルク様だけは初めて会った時に可愛いねって……はぅ。
「確かに、職種や性別で差別しないのは良い点だ。しかし、自堕落が全てを台無しにしていた」
「それですが……自堕落なフリだったとしたら? だって、氷魔法を使えることも誰も知りませんでしたわ」
「まさしく、今回の議題はそれだったのだ。エルク王子が敢えて氷魔法を隠していたのかという……もう一度確認だが、ステラは知らなかったのだな?」
「はい、私は知りませんでした。クレハはわかりませんけど……」
クレハが知ってて私が知らなかったら少しショックです……うぅー、こんな感情は良くないのに。
クレハだけついて行ってずるいとか……ダメですわ! そういう考えはなしですの!
「まあ、親交が深い王弟シグルド様も知らなかったそうだ。おそらく、誰も知らない可能性が高い。そして、隠した理由について……追放と成人したタイミングというのが、あまりに出来すぎているという話になった」
「やはり、そうなりますの……丁度、王太子様に子供ができたタイミングでもありますわ」
「うむ、それもある。とりあえず、最後はここで話していてもらちが明かないという結論に至った。故に、辺境に向けて使節団を派遣することになった。代表はシグルド様で、元々エルク様を送るはずだった護衛達を連れてな」
「お、お父様! ……私もその視察団に入れてください!」
私はテーブルに身を乗り出し、真剣にお父様を見つめる。
ここで待っててって言ってたけど、じっとしていられないもん!
もちろん、簡単に許されるとは思ってません。
嫁入り前の娘ですし、危険な地でもありますから。
「そういうと思ったぞ。私としては反対なのだが……」
「お父様?」
私が疑問に思っていると、再び扉が開く。
入ってきたのは、王弟であるシグルド様だった。
「シグルド様!」
「ステラ、久しぶりだな。益々エミリアに似て綺麗になったな」
「ふふ、ありがとうございます。それで、どうしたのですか?」
「悪いが外で話は聞いていた。ネイル、良いな?」
シグルド様の言葉に、お父様が息を吐く。
「……ええ、許可します」
「え、えっと?」
「俺が本人が行きたいなら行かせてやれと頼んでおいた。もう成人したし、これ以上は過保護を超えて干渉になるぞとな」
「……はい、わかっております。ステラ、お前の好きにしなさい」
「あ、ありがとうございます! シグルド様も!」
「なに、良いってことよ。んじゃ、俺が責任を持って送り届けるぜ」
やったぁ! これでエルク様に会えますわ!
もう、しっかり説明してもらいますからね!
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