グーダラ王子の勘違い救国記~好き勝手にやっていたら世界を救っていたそうです~

おとら@ 書籍発売中

文字の大きさ
上 下
15 / 46

グーダラ王子は決意する

しおりを挟む
 ……なんか、柔らかい?

 無意識に、その柔らかいモノに触れる。

 すると、ふわふわの感触がした。

「ひゃっ!?」

「ん? ……クレハ? あれ、どうしてクレハの顔が上にあるんだ?」

「そ、それは、エルク様がお倒れになったので膝枕をしてたからです。幸い、疲労だけと思ったのでベンチを借りて休ませていました」

「そっかそっか、道理で気持ちいいわけだ。もう少し、この態勢でもいいかな?」

「も、もちろんです……ただし、尻尾は触らないでください」

 ……なるほど、俺が触ったのはクレハの尻尾だったのか。
 というか、多分だけどセクハラ案件じゃん!

「ごめんなさい!」

「べ、別にエルク様ならいいですけど……たまになら」

「ほんと? でも、嫌がることはしたくないからね」

「ふふ、相変わらずお優しいですね」

「別にそんなことないよ。それより、どれくらい寝てた?」

「大体、一時間といったところかと」

 するとタイミングよく、扉が開いてモーリスさんが入ってくる。
 俺はそれを見て、起き上がる……少し残念だけどね。
  
「エルク殿下、こちらの準備はできました」

「ほんと? ありがと。それじゃ、こっちも仕上げに入りますか……そういえば、灰汁抜きとか……?」

「他の方々がやっていましたから大丈夫かと」

「ほっ、助かった……」

 その後、スープを試飲して問題がないことを確認する。
 雑味がなく澄んだ色のスープはとても美味い。

「うん、美味しい。あとはここにりんご酒を足すかな」

「お酒を足すのですか?」

「うん、甘みと深みが出て美味しくなるよ」

 本当ならクリームシチューにしたいけど、この世界にはバターがない。
 理由は簡単で一年を通してほとんど暑く、冷蔵庫がないからだろう。
 逆に暑くても日持ちする方法や、お酒などは割と進んでいる。
 とりあえず、今回はイギリス料理のシンプルなうさぎシチューにした。
 これなら小麦粉や牛乳、バターなどなくても平気だ。

「へぇ、そうなのですね」

「そうそう、楽しみにしてて」

 りんご酒を入れてアルコールを飛ばし、軽く混ぜ合わせたら完成だ。
 後は、これに固めのパンをつけて食べれば良い。
 皆に協力してもらい、都市の中央にある噴水広場に次々と鍋を持って行ってもらう。

「さあ、私達も行きましょう」

「だね、お腹減ったし」

「ふふ、仕方のない方で……はっ!?」

 言葉の途中で、クルルーという可愛らしい音がした……クレハから。
 しまったという表情のクレハと目が合う。

「「……」」

「なんだよ、クレハだってお腹空いてるじゃん」

「くぅ……! 私としたことが」

「ほら、早く行こうよ」

 悔しそうにするクレハを可愛らしいと思いつつ、俺達も噴水広場に向かう。
 その途中で、俺の


 ◇

 俺達が噴水広場にくると、そこには住民達が押し寄せていた。
 おそらく、軽く数百人はいるだろう。
 すると、俺達に気づいたモーリスさんがやってくる。

「エルク殿下、お待ちしておりました」

「うん、お待たせ。モーリスさん、ここにいる人達が全住人でいいのかな?」

「ええ。動けない者などや、家を離れられない者などを除いてきております。元々は数万人が暮らす都市でしたが、縮小を繰り返して今では千人程度しかおりません」

「なるほど……それくらいなら量は足りそうかな」

 本来ならうさぎは食うところが少ないけど、あのデビルラビットは別だ。
 軽く見積もっても、二百キロの肉はあったはずだ。
 一人当たり二百グラムもあれば、パンや野菜もあるし平気だろう。

「はい、仰る通りでございます」

「なら良かった。それじゃ、ここにいない人達には……」

「あの!」

「ん? ……どうしたのかな?」

 振り返ると、頭から耳の生えた小さな女の子が俺を見上げていた。
   洋服や肌もボロボロだが、その目は俺を真っ直ぐに見つめている。
 俺は怖がらせないように、膝を折って視線を合わせる。

「えっと……その……」

「も、申し訳ありません! ダメでしょ! 相手は王子様なのよ!」

「だ、だってぇぇ……」

「すみませんでした! どうかお許しください……私はどうなっても良いので」

 母親らしき人がやってきて女の子を叱りつけ、俺に向かって頭を下げてきた。
 ……そういや、俺って王子だったね。
 気を抜くと忘れそうになるけど、不敬に値するのか。

「お母さん、平気ですよ。別に何もされてませんから。それより、女の子と話しても良いかな?」

「大丈夫ですよ、言った通りエルク殿下はお優しい方ですから」

「は、はい……ネコネ、失礼のないようにね」

 モーリスさんがそう言うと、母親が一歩下がる。
 俺は改めて、女の子と向き合う。
 多分だけど、十歳くらいかな。

「うん! えっと……獣人の私たちにも、ただでご飯くれるって聞いたの」

「そうだね」

「どうしてそんなことするの?」

「難しい質問だね。どうしてそう思うの?」

 俺の問いに、女の子が目を伏せる。
 急かさないように、じっと待つと……口を開く。

「お、大人の人達が、何か魂胆があるに違いないって。恩を着せて、私達に何かさせるなんじゃないかって」

「あぁー……」

 ふと母親を見ると、顔が真っ青になっていく。
 きっと子供だからと聞かせても問題ないと思ったのだろう。
 しかし、それは無理もないことだ。
 俺も嫌というほど知っているが、無償の奉仕ほど怖いものはない。

「そうだね、魂胆はあるよ」

「そ、そうなの?」

「そう、君達には元気になって俺のために働いてもらう。そのためには、一杯食べてもらわないと。もちろん、適材適所でそれぞれに合った仕事をね」

「……働いたら私でも食べさせてくれる?」

「ああ、もちろんさ。君だと主に雑用になるかな。ただ、どうして働きたいの?」

「お母さん、一人で私と弟を育ててるの……お父さん、狩りに行って死んじゃったから」

 ……やはり、男手不足は深刻か。
 人が足りないから無理をして、更に人を減らすという悪循環だ。
 それに栄養不足で亡くなる子供もいるだろう。

「わかった。それじゃ、何か仕事が欲しければ俺の所に尋ねるといいよ」

「えっ!? いいの!?」

「甘くはしないけどね。それに、君が特別ではなくて他の子達も同じようにするし……それでも良いかな?」

「うん! お兄ちゃんありがとう! おかあさーん! このお兄ちゃん良い人!」

 そう言い、下を向いている母親に抱きつく。
 すると、母親がようやく顔を上げる。

「あ、あの……」

「大丈夫、その気持ちは当然の話だよ。今まで放置してきた王族が、いきなりやってきたんだから。ひとまず、無体なことはしないと約束するからさ」

「は、はい! 失礼いたします!」

 そして、女の子を連れて下がっていった。
 周りを見ると、その光景を見ていた人々が反応する。

「おおっ……なんと慈悲深い」
「これは信用しても良いのでは?」
「いや、しかし……」

 そんな声があちらこちらから聞こえてくる。
 その中でも、獣人達の視線が強い……奴隷時代の名残だろう。
 こればっかりは、少しずつ時間をかけていくしかないかな。
 すると、クレハが広場の中心に立つ。

「クレハ……?」

「同族の者たちよ!  私は銀狼族のクレハ! 主人であるエルク様は、奴隷だった私をお腹いっぱい食べてさせてくれて、汚れきった身体を綺麗にしてくれて、おまけに仕事と生きる術を与えてくれた! どうか、私に免じて一度でいいから信じてほしい!」

 そう言い頭を下げるクレハに、獣人達が顔を見合わせる。

「ど、どうする?」
「しかし、あの誇り高いと言われる銀狼族が従ってる」
「確かに健康そうだし、奴隷と主人って関係には見えない」

 そして意見がまとまったのか、彼らがコクリと頷いた。
 それを見て、クレハが俺の所に戻ってくる。

「クレハ、ありがとね」

「い、いえ、私は事実を言ったまでですから」

「ただの自己満足だよ」

「ふふ、それでもいいのですよ」

 その後、衛兵さんに手伝って貰いつつ、器を持ってきた人々の列ができる。
 その器によそったシチューを入れ、持って帰るなりその場で食べるなり自由にしてもらう。

「美味しい……! お父さん! お母さん! お肉柔らかくてすごいね!」
「ああ! そうだな!」
「グスッ……ええ、そうね」

 そんな光景があちらこちらで見れる。
 それを見ていると、俺の心にじんわりと暖かいモノが溢れてくる。
 全てを配り終え、俺達もベンチに座って食事を取ることにした。

「いただきます! はむっ……おおっ、肉が口の中でほどける! こりゃ、美味いわ!」

「では私もいただきます……あっ、美味しいです。大した味付けしてないのにコクがあって……」

「ふふふ、これが素材を活かすってやつさ」

 骨ごと入れてるから肉の出汁が出てるし、野菜の出汁もある。
 そこに調味料を加えて、うまく調和を図ると料理はシンプルでも美味しくなるのだ。

「それこそ、人と同じですか?」

「そそっ、適材適所ってね。俺は自堕落に過ごすことが仕事さ」

「ですが、ここにきてから頑張ってますよ? まるで、別人のようです」

 その問いに、俺は食事の手を止めて空を見上げる。
 クレハのいうことはもっともだった。
 そして思う……俺が自堕落だった原因を。
 きっと社畜だった前世の記憶が眠っていたからかもしれない。
 もちろん、それを言い訳にしちゃダメだし、まだまだダラダラしたい。

「そうなんだよねー……あのさ、俺ってば自堕落だったじゃない?」

「ええ、そうですね。朝遅く起きてはご飯を食べて、それから昼寝や本を読んだりしてダラダラ過ごし昼食を済ませ、また夜になるまで同じことをしてました」

「あはは……王族として生まれ、何不自由なく……って訳じゃないけど、人からしたら贅沢な暮らしをしてきた。だから、その分くらいは頑張ろっかなって。こっちきて、色々と現実を知って……俺だけが自堕落に過ごすのは違うかと」

「そういうことなら納得です。昔から、貴方は優しい方ですから」

「んなことないよ、ただのダラダラしたい小心者さ」

 でも俺は、苦しんでいる人が目の前にいるのに、それを放ってダラダラするような神経は持ち合わせていない。
 もちろん、ダラダラしたいのが本音だ。
 そのためには……それが許される実績を上げればいい。

「……そうか、そういうことか」

「エルク様?」

「クレハ、俺は自堕落するために頑張るよ」

「はい? ……矛盾していますが、エルク様らしいですね。では、お手伝いしましょう」

「うん、よろしくね。さて……んじゃ、景気よく行きますか!」

 俺は噴水広場にある枯れた噴水の前に立つ。

「みなさーん! これから辺境を改革していくつもりなのでよろしく!」

「ついていきますぜ!」

「我々も頑張ります!」

 俺の声に、そんな声が聞こえてくる。
 そして、注目が集まったことを確認し……特大の水魔法を放つ。

「ありがとー! それじゃ、今日という日の記念に……水の滝よ降り注げ——アクアフォール!」

 噴水の頭上に水の滝が現れ、泥塗れになった水を押し出していく。
 そのまま滝は流れ続け……汚れを取り、綺麗な水になった。

「な、なんと……!」

「噴水が綺麗になるなんていつ振りだろう!」

「このように少しずつですが変えていくので、皆さんも協力してくださいね!」

そして、次の瞬間……空に虹がかかった。

 それを見て、皆が更に笑顔になっていく。

 これで、俺の心は決まった。

 俺も自堕落過ごせてみんなも幸せ……全員でスローライフを目指せばいいんだよね!









しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

スキルポイントが無限で全振りしても余るため、他に使ってみます

銀狐
ファンタジー
病気で17歳という若さで亡くなってしまった橘 勇輝。 死んだ際に3つの能力を手に入れ、別の世界に行けることになった。 そこで手に入れた能力でスキルポイントを無限にできる。 そのため、いろいろなスキルをカンストさせてみようと思いました。 ※10万文字が超えそうなので、長編にしました。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

処理中です...