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いざ森へ

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その後、モーリスさんが皆に説明をし……人々から歓迎を受ける。

「ありがとうございます!」
「おかげさまで、苦しいのが治りました!」
「うちの人、気持ちよさそうに寝てますわ」

次々と、そんな言葉をかけてくる。
少々照れ臭くて、俺はわざとらしく頭をかく。

「あぁー、別に大したことはしてないので……」

「俺もお礼を!」

「私も言わせてください!」

そう言い、人々が詰め寄ってくる。
俺はじりじりと後退し、出入り口に向かって駆け出す。

「それではお大事に! ちなみにお金はいらないので!」

「あっ! お待ちください!」

そして、その場を逃げるように去るのだった。
その後を、すぐに二人が追ってくる。

「ふふ、照れ屋さんですね?」

「仕方ないじゃん。ああやって面と向かって感謝されることないし」

「孤児院に行って水魔法を使っていた時は、内緒のことが多かったですからね」

「だってそうしないと、シスターがお金を払うとか言いそうだったし」

「確かに。本来なら、魔法の使用は費用がかかりますから」

俺が通っていた孤児院は、元々は俺の母親が開いたものだ。
同じく水魔法を使えた母親は、よく子供達と遊んであげたらしい。
俺はそれを引き継ぐ代わりに、外に出る口実を得たってわけだ。
すると、それまで黙っていたモーリスさんが顔を上げた。

「その通りです!  有り難いですが、彼らには払えるお金は……」

「最初に言ったけどお金はいらないよ。俺が勝手にやったことだし、領民を救うのは領主の役目でしょ?」

「……やはり、あの人にそっくりですな」

「はい? 誰かに似てるの?」

俺がモーリスさんに問いかけると、先ほどの建物から数名の男性が出てきた。
その人達が、俺の前で膝をついてくる。

「エルク殿下! 感謝いたします!」
 
「幸いにして、我々はすぐにでも動けます!」

「何かお手伝いをさせてください!」

「わ、わかったから! 膝を付かなくて良いから!」

ひとまず、彼らを立たせて思案する。
流石に戦わせるのは早いし、何かできることか……あっ、そうしよう。
俺は魔力を込めて、すぐ側にありったけの氷を用意する。

「「「はっ?」」」

「ほい、一丁上がりと……それじゃ、これを崩してみんなに分けてあげて」

突然現れた氷に戸惑う彼らを放置して、モーリスさんに向き合う。

「モーリスさん、案内は良いから後のことは頼んでも良い?」

「は、はい。エルク殿下はどうなさるのでしょうか?」

「ちょっと、狩りにでも行ってくるよ。確か、北に森があるんでしょ?」

通称、魔の森と言われる場所だとか。
森に入らない限りは襲ってこないが、入ってきた者には容赦はしないらしい。
その代わり、あそこには食材が豊富にあるだろう。

「お二人では危険です! 放置しすぎたせいで森は育ち、中では魔物や魔獣達で溢れています!」

「でも、食料は必要だから。大丈夫、俺にはクレハがいる。最強の男が鍛えた、最強の獣人と言われた銀狼族の者がね」

「はっ、私にお任せを。我が一族の誇りにかけて、エルク様をお守りいたします」

「……わかりました。ですが、ご無理だけはなさらないように」

「うん、約束するよ」

俺に何かあったら、モーリスさんが責任を問われるかもしれないし。
俺達は二頭の馬を借りて、門の外から北へと向かう。
ちなみに、一頭は荷物運び用で二人乗りをしている。

「……柄にもないこと言っちゃったね」

「いえいえ、素敵でしたよ?」

「そう? ……なら良いけど」

「それに、柄ではないなど……私を救った後、貴方は同じことを言ってくれましたよ。お礼など良いから、今は元気になることだけを考えてと。ふふ、少し昔を思い出しました」

「俺、そんなこと言った?」

「ええ、今でも私の大切な言葉です」

その言葉に俺は再び照れ臭くなり、どうして良いかわからずに頬をかくのだった。



その後、森に到着する。
すぐ近くに小屋があったので、そこに馬を待機させておく。
ちなみに四方に氷の壁を作っておいたので、おそらく安全だろう。

「さてさて、どうしようか?」

「二人しかいないので私が前衛……後衛がエルク様では不安ですね。気配で敵がくるかわかりますが、咄嗟の攻撃に対応できるか」

「なるほど、俺を守ろうとしてクレハが全力を出せないか。その辺りの課題は今後として、とりあえず……今はこれでいこうか」

俺は自分の後ろ側に、いくつかの氷の盾を出現させる。
これで後ろの守りはマシになるだろう。

「氷の盾が三枚? しかも空中に……どうやって維持しているのですか?」

「ん? 空中に具現化させて、ずっと魔力を送り続けてるだけだよ?」

「……魔力は保つのですね?」

「うん、少なくとも一日中くらいは」

「そ、そうですか……」

目を丸くするクレハだが、俺にもうまく説明はできないし。
魔力が増えたのは、記憶を取り戻したことに関係してるとは思うけどね。

「ほら、日が暮れる前に帰りたいから急ごう」

「ええ、そうですね」

そして、険しい森の中へと入っていく。
そこは長年整備されていないのか、草木が生い茂っている。
これだと視界も悪いし、探索もやり辛いね。

「邪魔ですね」

「んじゃ、俺が刈り取るよ——アイスブレード」

俺は腕から氷の刃を出し、近くにある草木を刈り取っていく。

「……もう驚くのはやめますか」

「サクサクサクッと……どうしたの?」

「いえ、何という無駄遣いかと。魔法使いの方々が見たら怒りそうです」

「使えるものは使わないと」

そしてクレハの護衛の元、俺が刈り取りながら進んでいくと……聞き覚えのない声がする。

「ブヒィ!」

「ブホッ!」

現れたのは斧を持った、二本足で立っている豚の顔の生き物……オークだ。
人類の女性を連れ去り孕ませる、全女性の敵と言われていた。
横を見ると、クレハの顔がすうっと冷たくなる。

「ブタどもが……片付けてまいりますで、ここを動かないてください」

「は、はーい!」

そしてクレハが、鞘に手を置いて駆け出し……オーク達に迫る。
同時に一体が駆け出し、クレハに向かって斧を振り下ろす。

「遅いっ!」

「ブヒィ!?」

半歩ずれて斧を躱し、クレハが居合斬りでカウンターを食らわせる。
オークは魔石となり、残りは一体だ。

「あっ! クレハ!」

「ブヒィ!」

その一体が、刀を振り抜いたクレハの隙を突いて斧を投げた!

「なんの!」

「ブヒィ!?」

なんとクレハは
その手には、傷が一切付いていない。
そして、武器をなくしたオークに迫り……一刀のもとに斬り伏せた。

「ふぅ……」

「おおっ! かっこいい!」

「あ、ありがとうございます……」

そう言い、頬をかいて照れ臭そうにする。
クーデレさんの照れ顔は良きですね!

「いや、それにしても腕は平気?」

「ええ、問題ありません。ふふ、最近はエルク様に驚かされてばかりでしたから」

「闘気ってやつだよね。うん、実際に見ると凄いや」

「我々には魔法が使えませんから」

獣人は魔法が使えない代わりに、一部の者達は闘気という力を使える。
闘気は肉体を頑丈にしたり、身体能力を高めたりできるとか。
元々身体能力の高い獣人にとっては、もってこいの能力だ。
……でも、そのせいで魔力の首輪を嵌められて人族の奴隷になることも。
クレハが捕まっていた時もそうだった。

「クレハ、辛くない?」

「急になんです?」

「いや、その……もう奴隷じゃないし、俺は一人でも平気だから……自由になっても良いんだよ?」

クレハが俺についてきてくれたことは嬉しい。
でも、前世の社畜の記憶が……奴隷というものに忌避感を覚える。
クレハを自由にさせてあげたいって。

「……エルク様」

「な、なに——イタイ!?」

近づいてきたクレハが、俺の頬を引っ張った。

「変なこと言うからです」

「で、でもさ……」

「私は、私の意思で貴方についてきました。それを止める権利は、エルク様にもありません……それとも、私は邪魔ですか?」

そう言い、寂しそうに微笑む。
あっ……俺は自分のエゴで、クレハを傷つけてしまった。
自分勝手に罪悪感を覚えて、クレハの気持ちを無視した。

「ごめん……前も言ったけど、クレハがいてくれると嬉しい」

「……なら、許してあげます」

「ありがとう……んじゃ、先に行こうか」

気持ちを切り替えて、俺達は森を進んでいくのだった。
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