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だらだらするために
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……どういうことだろうか?
領主が俺? 自慢じゃないけど、自堕落王子とか言われてるんだけど?
「えっと、何かの間違いではなくて?」
「い、いえ、お手紙にはそう書いております」
「エルク様、とりあえず中に入って見せてもらいましょう」
「その方が早そうだね」
ひとまず中に入り、吹き抜けタイプの玄関ホール脇の階段を上がって、二階の通路を歩く。
その真ん中辺りにある目立った扉を開け、その中へと通された。
一番奥には一人用の机と椅子がいくつかあり、真ん中には客席用のソファーがある。
俺達はソファーへと促され、モーリスさんに渡された手紙を確認する。
「なになに……エルクを領主として任命したので、モーリスには補佐をお願いする。出来の悪い息子が苦労をかけるが、悪い奴ではないのでよろしく頼む……随分と簡潔だね」
「ですが、きちんと国王陛下の印があります。それに、宰相であるネイル様の署名もありますから」
「まあ、確かに……じゃあ、本当に俺が領主に?」
一体、父上は何を考えているのだろう?
単純に追放されただけだと思っていたんだけど。
すると、モーリスさんが話しかけてくる。
「はい、エルク殿下にお願いいたします」
「でも、モーリスさんは良いの? その……俺みたいのが、いきなり上に来て」
「どういう意味ですかな?」
「いや、俺ってば自堕落王子で有名だしさ」
今まではモーリスさんが仕切っていたはずだ。
そこに俺みたいな自堕落王子が来て嫌じゃないかな?
もしかして知らないとか?
「貴方がどう呼ばれているかは知っております。国王陛下や、奥方とは知己でありましたから」
「へっ? そ、そうなの?」
「ええ、昔の話ですが。私が王都にいた頃なので、もう20年くらい前になりますか。私の家は代々、国王陛下に仕えておりました」
「その人が、どうして辺境に?」
「そのためには、まずはこの国の成り立ちを説明しないといけません……知らないのですか?」
「はは……ごめんなさい」
「いえ、今は習わないのかもしれないですね」
俺に気を遣いつつも、モーリスさんが簡単に説明してくれた。
実は、昔はここが王都だったらしい。
それを六十年ほど前に、今の場所に移したらしい。
前世の日本で言うところの、京都から東京に首都を変えたみたいな感じかも。
「へぇ、初めて聞いたかも。クレハは知ってた?」
「いえ、私も初耳ですね」
「無理ないことです。私ですら、まだ生まれていない頃ですから。もう忘れている者や、当時生きていた方々は少ないでしょう」
「それは言えてるね」
医療が進んでいないこの世界の寿命は、大体五十後半から六十歳くらいと言われている。
異能である回復魔法があるけど使い手も限られているし、みんながみんな受けられる訳ではない。
治療を受けられる貴族はともかく、平民の平均寿命は下がっているはずだ。
「移した理由としては、環境の変化により作物が育たなくなってきたこと。西の帝国が攻めてきたこと、北の大地から魔物がくるようになったことなどです。それに対応するために、そちらに移したとされてます」
「なるほど……それまでは、ここはどんな場所だったの?」
「獣人やドワーフ族、今では見ない竜人族など多種多様な種族が仲良く暮らしていたと聞いております。我が国は元々は異種族に寛容な国でしたから」
この世界には人族、ドワーフ族、獣人族、エルフ族、竜人族の五つの種族がいる。
人族を除く四種族は、数の多い人族と争っていた過去があったとか。
その中でも、うちの国は良かった方なのだろう。
「そっか……そんな良い時代があったんだね」
「ええ、本当……私も見たかったです」
「それじゃ、今は……?」
「知っての通り、南にあるドワーフ族とエルフ族の国とは断絶しております。そして竜人は何処かに去り、数十年姿を見せておりません。獣人の多くは、この都市におります。ですが、人族との仲は良いとはいえないでしょう」
「つまり、みんなバラバラってことか。そもそも、人族ですら一致団結してるとは言えないし」
「はい、これも私の力不足かと。先王陛下や父上に申し訳が立たない……この地を任されたというのに」
そう言い、モーリスさんは拳を強く握った。
「それが、モーリスさんがいる理由?」
「ええ、そうでございます。王都を移す際に、我が父が代官としてこの地を任されました。私は王都にて国王陛下達と共に学び、そして跡を継ぐために戻ってきたのです」
「そういうことかぁ……」
「そして、エルク殿下が上に立っても良いかという質問ですが……私では変えることが出来なかったので何も言う資格はございません」
そう言って、モーリスさんは目を向けて伏せるのだった。
きっと、自分で変えたいと思っていたに違いない。
……どうやら、このままだと自堕落には過ごせないや。
苦しんでいる人や困ってる人を見て、自分だけが良い思いをするような奴にだけはなりたくない……何よりそれだと気まずいし! 落ち着いてダラダラ出来ないよ!
「んじゃ、俺達で変えていきますか!」
「へっ? エルク殿下……?」
「まだ何が出来るかわからないけど、俺なりにやってみるからさ。クレハも手伝ってね?」
「ええ、エルク様の思うがままに。私は、貴方が為すことを全力で支えましょう」
「うん、ありがとう……って、大丈夫?」
ふと見ると、モーリスさんが目頭を押さえて嗚咽していた。
「し、失礼いたしました……まさか、そのようなお言葉を頂けるとは。しかし、国王陛下の言う通りでした」
「父上が何か言ってたの?」
「自堕落だが、優しい方だと。こっそり城を出ては、孤児院などに行って無償で水魔法を使っていたとか。その貯めた水で、子供達に水浴びさせたりとか」
「あちゃー、バレてたのか」
別にそんなに良い話じゃない。
城から抜け出したことの理由付けと、単純に……今ならわかるけど、前世の自分を見るようで辛かったのかもしれない。
偽善的だけど、放って置けなかったのかな。
「……やはり、あの方に似たのですね」
「はい? なんか言ったかな?」
「いえ、なんでもございません。それでは、これからよろしくお願いいたします」
「うん、こちらこそよろしく」
そうして、俺とモーリスさんは握手を交わす。
自堕落に過ごしても気不味くならないように、辺境開拓を始めるとしますか。
領主が俺? 自慢じゃないけど、自堕落王子とか言われてるんだけど?
「えっと、何かの間違いではなくて?」
「い、いえ、お手紙にはそう書いております」
「エルク様、とりあえず中に入って見せてもらいましょう」
「その方が早そうだね」
ひとまず中に入り、吹き抜けタイプの玄関ホール脇の階段を上がって、二階の通路を歩く。
その真ん中辺りにある目立った扉を開け、その中へと通された。
一番奥には一人用の机と椅子がいくつかあり、真ん中には客席用のソファーがある。
俺達はソファーへと促され、モーリスさんに渡された手紙を確認する。
「なになに……エルクを領主として任命したので、モーリスには補佐をお願いする。出来の悪い息子が苦労をかけるが、悪い奴ではないのでよろしく頼む……随分と簡潔だね」
「ですが、きちんと国王陛下の印があります。それに、宰相であるネイル様の署名もありますから」
「まあ、確かに……じゃあ、本当に俺が領主に?」
一体、父上は何を考えているのだろう?
単純に追放されただけだと思っていたんだけど。
すると、モーリスさんが話しかけてくる。
「はい、エルク殿下にお願いいたします」
「でも、モーリスさんは良いの? その……俺みたいのが、いきなり上に来て」
「どういう意味ですかな?」
「いや、俺ってば自堕落王子で有名だしさ」
今まではモーリスさんが仕切っていたはずだ。
そこに俺みたいな自堕落王子が来て嫌じゃないかな?
もしかして知らないとか?
「貴方がどう呼ばれているかは知っております。国王陛下や、奥方とは知己でありましたから」
「へっ? そ、そうなの?」
「ええ、昔の話ですが。私が王都にいた頃なので、もう20年くらい前になりますか。私の家は代々、国王陛下に仕えておりました」
「その人が、どうして辺境に?」
「そのためには、まずはこの国の成り立ちを説明しないといけません……知らないのですか?」
「はは……ごめんなさい」
「いえ、今は習わないのかもしれないですね」
俺に気を遣いつつも、モーリスさんが簡単に説明してくれた。
実は、昔はここが王都だったらしい。
それを六十年ほど前に、今の場所に移したらしい。
前世の日本で言うところの、京都から東京に首都を変えたみたいな感じかも。
「へぇ、初めて聞いたかも。クレハは知ってた?」
「いえ、私も初耳ですね」
「無理ないことです。私ですら、まだ生まれていない頃ですから。もう忘れている者や、当時生きていた方々は少ないでしょう」
「それは言えてるね」
医療が進んでいないこの世界の寿命は、大体五十後半から六十歳くらいと言われている。
異能である回復魔法があるけど使い手も限られているし、みんながみんな受けられる訳ではない。
治療を受けられる貴族はともかく、平民の平均寿命は下がっているはずだ。
「移した理由としては、環境の変化により作物が育たなくなってきたこと。西の帝国が攻めてきたこと、北の大地から魔物がくるようになったことなどです。それに対応するために、そちらに移したとされてます」
「なるほど……それまでは、ここはどんな場所だったの?」
「獣人やドワーフ族、今では見ない竜人族など多種多様な種族が仲良く暮らしていたと聞いております。我が国は元々は異種族に寛容な国でしたから」
この世界には人族、ドワーフ族、獣人族、エルフ族、竜人族の五つの種族がいる。
人族を除く四種族は、数の多い人族と争っていた過去があったとか。
その中でも、うちの国は良かった方なのだろう。
「そっか……そんな良い時代があったんだね」
「ええ、本当……私も見たかったです」
「それじゃ、今は……?」
「知っての通り、南にあるドワーフ族とエルフ族の国とは断絶しております。そして竜人は何処かに去り、数十年姿を見せておりません。獣人の多くは、この都市におります。ですが、人族との仲は良いとはいえないでしょう」
「つまり、みんなバラバラってことか。そもそも、人族ですら一致団結してるとは言えないし」
「はい、これも私の力不足かと。先王陛下や父上に申し訳が立たない……この地を任されたというのに」
そう言い、モーリスさんは拳を強く握った。
「それが、モーリスさんがいる理由?」
「ええ、そうでございます。王都を移す際に、我が父が代官としてこの地を任されました。私は王都にて国王陛下達と共に学び、そして跡を継ぐために戻ってきたのです」
「そういうことかぁ……」
「そして、エルク殿下が上に立っても良いかという質問ですが……私では変えることが出来なかったので何も言う資格はございません」
そう言って、モーリスさんは目を向けて伏せるのだった。
きっと、自分で変えたいと思っていたに違いない。
……どうやら、このままだと自堕落には過ごせないや。
苦しんでいる人や困ってる人を見て、自分だけが良い思いをするような奴にだけはなりたくない……何よりそれだと気まずいし! 落ち着いてダラダラ出来ないよ!
「んじゃ、俺達で変えていきますか!」
「へっ? エルク殿下……?」
「まだ何が出来るかわからないけど、俺なりにやってみるからさ。クレハも手伝ってね?」
「ええ、エルク様の思うがままに。私は、貴方が為すことを全力で支えましょう」
「うん、ありがとう……って、大丈夫?」
ふと見ると、モーリスさんが目頭を押さえて嗚咽していた。
「し、失礼いたしました……まさか、そのようなお言葉を頂けるとは。しかし、国王陛下の言う通りでした」
「父上が何か言ってたの?」
「自堕落だが、優しい方だと。こっそり城を出ては、孤児院などに行って無償で水魔法を使っていたとか。その貯めた水で、子供達に水浴びさせたりとか」
「あちゃー、バレてたのか」
別にそんなに良い話じゃない。
城から抜け出したことの理由付けと、単純に……今ならわかるけど、前世の自分を見るようで辛かったのかもしれない。
偽善的だけど、放って置けなかったのかな。
「……やはり、あの方に似たのですね」
「はい? なんか言ったかな?」
「いえ、なんでもございません。それでは、これからよろしくお願いいたします」
「うん、こちらこそよろしく」
そうして、俺とモーリスさんは握手を交わす。
自堕落に過ごしても気不味くならないように、辺境開拓を始めるとしますか。
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