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憧れ

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俺がひとしきりボアーズを洗い終えると、クレハがやってくる。

「さて、どうしますか?  提案としては、この場で食べても良いかと。近くに森もありますし、見晴らしも良いので」

「そうだね、次の村がいつあるのかわからないか。急いできたから何も食べてないからお腹空いたし」

「決まりですね。では、炙り焼きにでもしましょう」

「いいね! 食べよ食べよ!」

そして二人で枯葉や木々を集めて、そこにを使って火をつける。
魔物から取れる魔石には魔法を込めることができる。
人々はそれを使って生活を便利にしてきた。
ただし、使うには魔力が必要で……獣人達には使えない。
それが獣人達が虐げられる一因になったとか。

「後は肉に塩胡椒をしたら串に刺して、炙るように火の回りに置いてと……おおっ、パチパチと音がしてきた」

「ふふ、こういうことするのも初めてかと」

「そりゃね、腐っても王子ですから。というか、こういう食事も初めてだよ」

「そうですね。普段はお城の中にいましたから」

たまに城下町に出てはいたけど、何かを食べることだけはしなかった。
第二王子だから毒味役は必要だったので、基本的には城で食べていたからだ。
俺の立場的には、兄上に何かあった時のスペアだ。
別にそれを悲観したこともないし、むしろ楽な立場でラッキーとか思ってたっけ。
不満があるとするならば……出来立て熱々や庶民的な食事ができなかったこと!

「というわけで、結構楽しみだったり……」

「これからは、こういう機会も増えますよ。幸いにして、ロイド様の奥様も妊娠して安定期に入りましたから。これで、エルク様も自由に食べられますね」

「まあね。ひとまず、第二王子の役目は終わったかなって思う」

兄上に子供ができるまでは、俺の役割はあった。
というより、その役があったから今まで許されてきたのだろう。
逆を言えば、それが終わったから追放されたとも言える。
あのまま王都にいても、俺に仕事はないだろうし。

「というより、それを狙っていた? ……まさか、このタイミングで?」

「クレハ~? 何をぶつぶつ言ってるの?」

「いえ……エルク様、大丈夫です。私だけは、わかっていますから。いや、きっとステラ様も気づいているかと」

「……なんの話? 俺がダメダメってこと?」

「ふふ、そういうスタンスを取り続けるのですね。では、私もそのようにいたします」

……なんだ? 何かよくわからないけど、クレハが嬉しそうだからいっか。
俺についてきたのに、つまらなかったら可哀想だし。

「そういえばさ、余った肉はどうしよう?」

「そうですね……保存するにしても、この量だと苦労します。何より、時間がかかってしまうかと。近くの村に届けようにも、腐ってしまうかもしれません。食べる分だけを取って、あとは森にでも投げますか?」

「うーん……勿体ない気がするけど。確か、何処も食糧難だって話だしさ」

 この世界には、みんな大好きアイテムボックスはないようだ。
 空間魔法とか、そういうのもない。
   あれ? そう考えると、意外と氷魔法ってチート?
   何より、この大陸は冬が短く全体的に暑い日が続くし。

「待って……俺の氷魔法を使えばいいんじゃないかな?」

「えっ? ……確かに凍らせれば保存は効きますね。しかし、このサイズを凍らすとなると魔力量が心配ですね。魔力枯渇は命にも関わりますから」

「多分、全然余裕だと思う」

魔法とは発動する時のイメージが大切だ。
それがあれはあるだけ、消費量は少なく済む。
何より……記憶を取り戻した時、膨大な量の魔力を手に入れた。
理由はわからないけど、記憶を取り戻したことに関係ありそう。

「では、それを信用するとしましょう」

「じゃあ、ささっとやっちゃいますか——フリーズ」

食材を囲むイメージで魔法を放つと、一瞬でボアーズの全身が凍りつく。

「はっ? ……い、一瞬で? この大きさの魔獣を……魔力は!?」

「うーん、全然減ってる感じはしないかな」

「そんなに魔力量もあったのですね……いえ、もう良いでしょう」

「そうそう、気にしない気にしない」

俺自身もあんまり突っ込まれると困るのです。
なにせ、明確な理由はわからないし。
 
「それよりも暗くなってきたし……お腹減ったなぁ」

「ふふ、そうですね。じゃあ、そろそろご飯にしますか。私の鼻が、もうすぐできると言っていますから」

「よし!  レッツ異世界飯だ!」

「……異世界飯?」

しまった、つい嬉しくて出てしまった。
なんか、昔読んでた漫画とかでよく見たから憧れてたんだよね。
大きな生き物がいる横で肉を焼いて、その場で食べるとか。

「な、なんでもない! それより……」

「ええ、もう平気ですよ。はい、どうぞ。暑いから気をつけてくださいね」

「ありがとう。 それでは……いただきます!」

クレハからもらった串焼きに思い切り齧り付く!
すると、肉汁が口いっぱいに広がった。

「~!? あふっ、あつっ」

「ほ、ほら、言ったじゃないですか」

「だいひょうぶ! もぐもぐ……ウマイ!」

食べたのはロース肉かな? 噛み応えもありつつ、程よい脂が乗っていた。
隣では、クレハも肉にかぶりついていた。
それを見て、俺も次々と肉を口に入れていく。

「もぐもぐ……確かに美味しいですね。エルク様、口元がべちゃべちゃですよ?」

「言っておくけど、そういうクレハだってついてるからね?」

「はっ……私としたことが」

そうして、俺とクレハは顔を見合わせて笑う。

自堕落生活もいいけど、こういう時間も悪くないよね。
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