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魔獣狩り

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その後もゴブリンを倒しつつ、街道を進んでいく。

この辺りは兵士達が巡回してるからか、数の多いゴブリンくらいしか現れないみたいだ。

「森の中に入れば、他にも魔物いるかな?」

「会いたいのですか?」

「うーん……まあ、少し冒険的なことはしたいかも」

冒険者カードを作ってある程度満足したとはいえ、やはりランク上げとかには興味ある。
エルクだったらやらないけど、今の俺は前世の記憶もあるし。

「そうですか。でしたら、辺境に行ったら冒険活動でもします?」

「おっ、それもいいね。あっちでものんびり過ごしたいし、お金は必要だもんね」

そんな会話をしていると、何やら前方から砂煙が見えてくる。

「何だろ?」

「あれは……エルク様、魔獣です!  馬から降りますよ!」

「えっ? わ、わかった!」

ひとまず指示に従い、馬から降りると……俺にも見えてきた。
そいつは、俺たちに向かって突撃してくる。
急いで馬を避難させ、クレハが俺の手を引く。

「エルク様! こっちです!」

「わわっ!?」

そのままクレハに手を引かれ、その場を飛びのく。
そして俺達がいた場所を、何かが通り過ぎる。
そこで一時停止し……俺たちの方に振り向いた。

「エルク様、 ボアーズです!」

「へぇ、あれがそうなんだ。実物を見るのは初めてだね」

 猪に似た魔獣で、作物を荒らすので危険視されている。
 その突進は人くらいなら轢き殺してしまうので、見つけ次第討伐するのが義務だ。
 ちなみに、
 区別は実に簡単で、魔獣は魔石にならない。
 魔物は魔石になる。
 魔物は人類の敵であり、魔獣は敵でも味方でもない。
 自然の生き物で、人類と共存する……とにかく食材確保だね!

「わっほい! クレハ、今日の飯だよ!」

「はい、今度は私が行きます。でないと、私がきた意味がありません」

「……とりあえず、お手並み拝見しますか」

 魔力は余裕があるけど、ここは任せることにした。
 どうやら、クレハは俺の役に立たないといけないと思い込んでいるみたいだし。
   奴隷だったからか、自分の存在価値というか、そういうのが必要なのかも。
   今までの俺では気づかなかったけど、前世の記憶を取り戻した今ならわかる。
   孤独だった者は、自分がここに居ていいという存在理由が欲しいから。

「ええ——いきますっ」

「ブルァ!」

 クレハは居合いの構えように鞘に手を置き、地を這うように駆け出した。
   同時にボアーズも駆け出し、二人の距離が近づいていく。

「ブルァ!」 

「遅いっ!」  

 クレハとボアーズが交差して——ボアーズの首が落とされる。
   居合い斬りで、すれ違い様に斬ったようだ。
   その姿は、サムライみたいでめちゃくちゃカッコいい。
   前世の記憶を取り戻したから尚更のことである。

「おおっ! すごいやっ!」

「あ、ありがとうございます……何だか照れますね」

クレハはぽりぽりと頬をかいて、その姿は少し可愛らしい。
普段はクールなんだけど、褒められると弱いみたい。
……はっ! これはクーデレというやつか!

「なんだかんだで、戦うところを見るのは初めてだしね。たまに、叔父上との鍛錬は見てたけど」

「まあ、エルク様を連れて実戦に行く機会などありませんでしたから。ですが、こうしてお役に立てたので、無駄ではなかったです」

「うんうん、頼りにしてるよ。それにしても、魔獣に魔物かぁ……」

 この世界には普通の動物はいなくて、代わりにいるのが魔獣という生き物だ。
 でっかい昆虫だったり、強い草食獣や肉食獣、人を丸呑みできる魚などがいる。
   魔法や魔物がいるから、それに適応して進化したのかもしれない。

「それで、どうします? 二人で食べきれる量ではないかと」

「確かに、大きさが1,5メートルくらいあるもんね」

「とりあえず、処理をして食べてしまいますか。時間が経つと鮮度が落ちていくので」

「うん、そうしよっか。血抜き……あっ、水魔法があるから楽か」

「ふふ、そうですね。では、私がナイフで切っていくのでお願いします」

その後、二人でボアーズを処理することになったのだが……当然、こうなる。
俺は腐っても今世は王子、前世では一般人……生の肉の処理などしたことない。

「ぎゃァァァァァ!?   血がァァァァァ!?」

「ほら! しっかり見て洗ってください!」

「だってぇぇぇ!」

「だってじゃありません!」

グロいよ!? なんか血が沢山出てくるよ!?
でも……今世でも前世でもこういう作業をしてくれてる人がいるから、美味しいご飯にありつけてるんだよね。

「さて、これでほとんど処理できましたね。では、仕上げに全体を洗ってくれますか?」

「ぐぬぬ……やったろうじゃんか!」

「ちょっ!? そっちは——きゃっ!?」

「あっ……おおっ」

俺が力んで放ったホース状の水魔法が、クレハにかかってしまった。
上半身が濡れて服がはり付き、何やら色気がすごいことなってます!
すると、クレハがジト目で俺を睨んでくる。

「……エルク様?」

「ごめんなさいぃぃ! わざとじゃないんです!」

「も、もう、仕方のない人ですね……いつまで見てるんです?」

「す、すみません! では、後はやらせていただきます!」

クレハが上着を脱いてる間に、俺はいそいそと処理が済んだボアーズを洗っていく。

……ひとまずわかったのは、俺(エルク)は思春期の男の子ってことですね!
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