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グーダラ王子、追放される

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「エルク! お前を辺境都市オルフェンに追放する!」

「父上……いえ、国王陛下、一体なぜですか?」

 部屋でダラダラと寝ていたところ、俺は国王である父上に呼び出しをくらった。
 まだ寝ぼけた頭を使い、ひとまず疑問を投げかけることにしたわけだけど。
 すると、王座に座る父上が俺を睨みつける。

「なぜ? ……お前が自堕落王子と呼ばれるような者だからだ。ただでさえ、我が国は苦境に立たされているというのに。このままでは、王族の威信が下がる一方だ。辺境の地に行き、性根を入れ換えてこい」

「えぇ……めんどくさいです」

「ええい! いいからいけぇ! 何かを成し遂げるまで帰ってくることは許さん!」

 ……これはどうやら、本気みたいだ。
 はぁ、仕方ない。
 まあ、辺境に行ってダラダラすれば良いでしょ。

「わかりました。それでは、準備が出来たら向かうとしますね」

「うむ、ちなみに準備期限は二日以内だ」

「うげぇ……できれば、期限を五十年くらいに」

「ばかもん! その間に寿命がきて死んでしまうわ!」

「ダメかぁ……」

「全く、ここを何処だと……コホン、さっさと下がると良い」

 俺は諦めて、トボトボと玉座の間から出て行く。
 家臣達の視線は冷たく、俺を止めるものはいない。
 それも当然で、俺は生まれた頃から自堕落に過ごし、何も期待されていない第二王子だからだ。
 その後、俺は準備をすることなく……いつものように、庭にある木の上で寝転がる。

「二日もあるなら余裕でしょ。とりあえず、一眠りしますか」

 うとうとしてきた俺は、すぐに夢の中へと……入れない。
 聞き覚えのある声が聞こえてきたからだ。

「エルク様! どこにいるんですの!?」

「げげっ、この声はやっぱりステラかぁ……」

「エルク様! そこにいるのですね!」

「に、逃げなくては——うおっ!?」

 俺はとっさに降りようとして足を滑らせ——そのまま、地面に激突する!

 そして、そのまま意識が飛んでいく……。






 ◇

 ……あれ? 俺は何をして……その時、恐ろしいほどの情報が頭の中に入ってくる。

 前世の俺、今の俺、それが混ざり合う。

   そうだ、俺は……前世では日本人で、三十代中盤の社畜として生きていた。
  
  原因はわからないけど、何かあって死んで……エルク-ティルナグとして転生したんだ。

    そのことをはっきり思い出した時——頭が割れそうになる。
    
       前世の記憶、そして

「っ~!? はぁ、はぁ……」

「エ、エルク様!? 起きて平気ですの!? ごめんなさい、私が声をかけたばかり木から落ちてしまって……」

 ふと顔を上げると、泣きそうになっている女の子がいた。
 燃えるような赤く綺麗な髪に、意志の強さと気の強さ両方を感じる瞳。
    髪の量が多く癖っ毛なのを本人は気にしてるみたいだけど、俺は割と気に入ってた。
 端正な顔立ちと、小柄で華奢な身体……そうだ、この子は。

「ス、ステラ?」

「わ、私の名前を忘れてしまいましたの?  やっぱり、うちどころが……」

「い、いや、平気だよ。君はステラ-イチイバル、俺の幼馴染にして侯爵令嬢だ」

「ほっ、良かったですわ。ただ、やけに説明口調のような……」
 
 俺は蘇った前世の記憶と、現在の記憶を整理する。
    彼女は今現在の俺、エルクの幼馴染だ。
    幼少期の頃から、俺に色々と小言を言ってきた気の強い女の子だ。
    少しうるさいと思っていたけど、前世の記憶を取り戻した今ならわかる。
 自分のために小言を言ってくれる人の有り難みを……言ってくれるうちが花ってね。

「気のせい気のせい。それより、ありがとね」

「ふぇ?」

「いや、俺の看病をしてくれてたんでしょ?」

 俺のベッドの横には、いつもはない椅子がある。
 それに座って、俺が起きるのを待っていたのだろう。

「だって、私の所為ですから……」

「ううん、ステラの所為じゃないさ。元はと言えば、俺が木の上にいたのがいけないし」

「エ、エルク様が謝って反省を……? やはり変ですわ! ちゃんとしたお医者様を呼ばないと!」

「だァァァァァ!? 待って!  平気だから!」

 立ち上がろうとするステラの手を掴み、その場に留まらせる。
 確かに記憶を取り戻す前の俺は、反省などしない駄目王子だったけど!
 流石に非人道的な人物ではないが、ただひたすらにだらけることだけを考えていた。
 ……もしかしたら、社畜だった前世が影響しているのかもしれない。
 今世では、ダラダラしたいと本能的に思っていたとか……という言い訳をしてみる。

「あ、あの、手を……」

「あっ、ごめんね。まあ、確かに変かもだけど……これで最後だしさ」

「さ、最後って……そうですわ! 荒地である辺境に追放されるって聞いて……私、お父様に頼んできます! そんなこと駄目だって!」

 ステラの父は、国王陛下の右腕にして宰相の地位にある。
 宰相に溺愛されている彼女が頼んだら、もしかしたら撤回もされるかもしれないが……。

「いや、それは止めておこうかな。ただでさえ、俺の印象は良くないし。そもそも、国王陛下の決定だ。何より、宰相であるネイルさんと対立させるわけにはいかない」

「で、ですが、何もそこまでしなくても……エルク様は怠惰ですし、ちゃらんぽらんでダメダメで……あれ?」

「あれ? じゃないし。まあ、その通りなので仕方ない……ステラ、元気でね」

「わ、私もついていきますっ!」

「それはダメだよ。危険な場所だし、ネイルさんが許してくれないよ」

 確かに彼女は特殊な能力もあり、かなりの弓の腕もある。
    戦えはするけど、周りが許さないだろう。

「それでは、エルク様は……」

「大丈夫、どうにかするさ。ちょっと、やる気を出してみるから」

「エルク様がやる気を……?  さっきから思ってましたけど、やっぱり様子が変ですの。いつもはもっと覇気がないといいますか……もしかして、頭を打った後遺症?」

 おっといかん、前世の記憶が出てきて違和感を覚えるのかも。
 幸い乗っ取りとかではなく、俺はエルクである。
 そこに、前世の記憶が上乗せされたよう感覚だ。
    ただ、前世の記憶も全部ではなく、少しずつ蘇ってる感じかな。
    おそらくだけど、脳に負担がかからないようにしているのかもしれない。

「酷くない? 俺だって、たまにはやるさ」

「それなら、もっと早くにやる気を出してれば……」

「それを言っちゃいけない。とにかく、ステラはここにいて」

「むぅ……嫌ですの! 私、お父様に直訴してきますわ!」

 俺は立ち上がろうとするステラの手を再び握り、しっかり目を合わせて言い聞かせる。

「それはダメだって……わかった、約束しようか。俺は必ず辺境を開拓してみせる。そしたら連絡をするから、それまで待ってること……いいかな?」

「エルク様、それってもしかして最初から……そのために怠惰な姿を? それに呼んでくれるって……まさか、そういうことなのかな?」

 何やら身体をくねらせているけど大丈夫かな?
 俺自身の今後を考えるためにも、しばらくは整理の時間が欲しい。

「うーん……どうかな?」

「……それではお待ちしておりますわ」

「ほっ……それじゃあ、行ってくるから」

 俺が手を離すと、ステラは両手の拳を握ってやる気を見せてくる。

「はいっ!  私も花嫁修行頑張りますのっ!」

「う、うん? 頑張ってね」

 よくわからないが、とりあえず説得はできたみたい。

 よし、ひとまず……引き続き自堕落に過ごせるように頑張りますか。





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