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番外編7 父はずっと『まて』をしています

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「あの後は、大変だったわ。」

そう言う母上は、とても遠い目をした。
そのあと、神殿に無理やり連れていかれたレティ。
それを体を張って、阻止しようとしたが神殿と王家の命令が下り泣く泣く下がるしかなかったという。
父上は、王と神官長とで聖女としてレティをどう遇するのか話し合いに行き帰ってこない。
俺はそのころは蚊帳の外で、ただ、レティがいないことはわかっていたが、少し意識をすればレティと繋がりが分かっていたから・・・

「その時に、エドが教えてくれたのよ。
レティが泣いているって・・・」

レティが一人神殿で知らない人ばかりで怖がり、寂しくて泣いていると。ご飯も食べていない。このままじゃ死んじゃう。
そう幼いエドワードが訴えたらしい。
留守を預かっていた、母上と老執事は、一時帰宅した父上に訴えたらしいが取り合ってくれなかったらしい。
それで、母上の堪忍袋の緒が切れて一人神殿に乗り込み、王と神官長と取引をしたという。
以来、母上は『侯爵領地で引き籠り』という状況の出来上がりだったのだ。

父上の失言はひどい。子供たちへの無関心が引き金だったのだろう。
母上にとっては、どれも許しがたいことだろう。

仕事第一の父上が、当時の陛下の意向に沿った婚約者を選ばなければいけなかったのも事実だろう。
さらに、父上が勝手に目の敵ライバルとしているザリエル伯爵の鼻をあかしたかったのもあるだろう。誰もが見惚れる、母上だ。ザリエル伯爵が惚れていたと勘違いしてもおかしくはない。
レティが聖女になって、守ってもらうためには神殿や王家の力が必要なのも尤もだ。

だが、やり方がよくない。

たとえ、母上を見初めた経緯はどうであれ、ザリエル伯爵の件は余計だ。レティの件だって、父上の交渉術でどうとでもできただろうに・・・

なぜだ?
父上が、ポンコツに感じる。
そして、それは俺が最近感じたことではないか?
そういえば・・・
父上もまさか・・・

・・・・・・拗らせてる?

・・・・・・できれば、言いたい。
俺は、知っている。
父上の、執務室の机の一番下の引き出しの秘密を・・・

だが・・・

俺は、チラリと隣の美しい母の横顔を見る。
話をして、当時を思い出したのか、怒りで顔が怖い。そして、いつも以上に怖くて綺麗だ。美人が怒ると怖いとはよく言うが、ここまでとは・・・

「大丈夫よ。レティの結婚式が済んだら本当に領地の離れに引っ越しますわ。
娘の結婚式には、表に出るけどあの人と口を利くつもりはないからエドワード、貴方がそこはうまく動いてちょうだい。」

そんな恐ろしく美しまで怒りで微笑み、そんなことを言われれば否とは言えない。
小さく了解を伝えるが、うまく立ち回る自信など微塵もない。ここはオトモダチのハンスに協力をお願いするか。
大丈夫だ、オトモダチだから、一緒に助けてくれるさ。
一日、一緒にいて行動してくれさえすればいいのだから。

ああ、父上の心内を話せたらどんなにいいだろうか。


父上の引き出しには・・・


「わたくしは、あの人が離縁してくれるまで絶対に口を利きませんわ。」

美しい母上から生まれた俺たちは、同じくらい美しいと言われているが、たぶん、父上の目には母上だけ違うように見えるのだろう。
母上は、怒りでのどが渇いたのだろう、温くなったであろうカップをかまわず手に取り一気に飲み干す。所作に厳しい人が珍しい風景だ。
それだけ怒っているのだろう。
そのカップの絵柄は、カラーの花。
思い出すのは、ちらっと見えた引き出しの中身。



『すまない。
愛しい君へ、謝れば許されるなど思っていない。だが、どうか許してほしい。
愛しているからこそ、あの栞に嫉妬をしてしまった。
君を愛している。』

おそらく書き損じだろう。
父上のいないときに、書類を探して開いた一番下の引き出し。
同じような内容の紙が、途中までは書いて丸めて放り込まれていた。
あれは、母上にあてたものだろうか?
だとしたら、父上の素直になれない気持ちは、いつまでも引き出しに仕舞ったまま。


だが、手紙などで許されるだろうか?
額を地面に擦り付けて謝っても許さないと言っていたような・・・

レティの結婚式に何も起こらなければいいのだが・・・



今日初めて知った、父上は俺よりも長く『まて』をさせられていたらしい。










~◇~◇~◇~



番外編を含めてこれにて完結です。
すっきりしないところはあるかと思いますが、未熟なためお許しください。
途中まで一気に書いて、行き詰って、最近さいかいして仕上げたのでどこか中途半端でしたが書きたい物語がたくさんあるので『まて』はおしまいです。
読んでくださりありがとうございました。
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