43 / 57
『まて』をやめました 43
しおりを挟む◇
「姉様、終わった?」
サインをもらったところで、いいと勝手に判断をしたのかジェイクが入ってくる。
そのあとには、別室に案内されたはずのレティシア様も。
ジェイクは私の横に、レティシア様は一人掛けの椅子に座り落ち着いたところで私の手にある書類を目にする。
「サインを、したのね?」
そうエドワード様に声をかける。
それに苦渋の顔で頷いたエドワード様。その様子を目に映して、私はこれからの事を思う。
私室で考えた策は、レティシア様も知らない。
命の恩人で敬愛する女神さまを騙すのは良くないけど、このくらいは許されるよね?
ほら、作戦を成功させるために「敵を欺く前に、まず味方から」っていうよね?
あれ?これは違うのかな?
しんみりとしているが、どこか仕方がないと思っているレティシア様。
「クレア、これの保管をお願いね。」
そう言って渡されたクレアは心得たと、書類をトレーに乗せてサロンを出ていった。
ジェイクはそれに不満そうに、入れなおされたお茶を手に取る。
目の前のエドワード様とレティシア様は、えっ?と飲み込めないようだ。
恐らくは、すぐにでも書類の提出をジェイクに頼むと思っていたのだろう。
「エドワード様、私は来月からハイドランジア国に暫く行くことになります。」
「えっ?」
「その間、我が家の金庫で保管管理をしておきます。」
そう言ってにっこりと微笑む。
エドワード様だけでなく、レティシア様までも驚き言葉なくこちらの次を待っている。
綺麗でそっくりなふたりの似揃った表情が嬉しくて、私は緩む口許を隠すため入れられたお茶を飲む。
エドワード様とたくさん話したのと、何度も泣いたことで体が水分を求めているのだ。
ああ、レティシア様がいらしているだけあってとってもいいお茶を使ってる。
香りがよく爽やかでいい。
落ち着く。
エドワード様はとっても驚いているけど、うふふっ、10年の償いがこれで終わると思わないでよね?
「貴方も宰相補佐として政務に関わっていらっしゃるのでしたら、お母様の母国ハイドランジア国から何度も、お父様と家族を大使に任命するようにと催促が来ていましたのをご存知でしょう?
今までは私の我儘で国外に行きたくないと言っていたので、先延ばしにしていたのですが、この度私の記憶がなくなって寧ろ多くを見て学びたいと思ったのでその手配を取ったのです。」
私の説明に、相槌も頷くこともできずに、いきなりの情報に口を半開きになり何も告げなくなっていた。
「もともと姉様が行かないと言って、保留にしていたから姉様が行くと言えばすぐにでも行けるように何年も用意されていたんだ。
ハイドランジア国王のお爺様も、もうご高齢だからね。いっそのこと家族みんなで移住しないかと言われているんだよね。」
呆然としているエドワード様の様子に気をよくしたジェイクが余計なことまで言う。
確かにハイドランジア国にいる国王は、お爺様で高齢だけどいまだに矍鑠とした人だったはず。
「そんな!では、クラウディアに挽回をする機会が・・・」
「ですので、エドワード様──────」
恐らくエドワード様は、サインをした後で私を振り向かせる努力をする決意をしたと思われる。でも、その思惑が外れた。
だって、私が国外に行ってしまえばご自慢の私が大好きな顔を使って誑し込めないものね。
そんなことは、御見通しだ!
「私とたくさんお手紙のやり取りをしましょうね。」
始めからやり直しましょう。
そう告げる。
にっこりと笑うと、呆然としていたエドワード様の顔が目をぱちくりとして驚きのものに変わる。
うふふっ、今日はたくさんの表情を見れた楽しいなぁ。
暫くは見れないのだから、堪能出来てよかった。
サインはもらったけど、提出するなんて一言もいっていませんからっ!!!
ねっ、婚約者様。
28
お気に入りに追加
3,750
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
完結)余りもの同士、仲よくしましょう
オリハルコン陸
恋愛
婚約者に振られた。
「運命の人」に出会ってしまったのだと。
正式な書状により婚約は解消された…。
婚約者に振られた女が、同じく婚約者に振られた男と婚約して幸せになるお話。
◇ ◇ ◇
(ほとんど本編に出てこない)登場人物名
ミシュリア(ミシュ): 主人公
ジェイソン・オーキッド(ジェイ): 主人公の新しい婚約者
あなたの側にいられたら、それだけで
椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。
私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。
傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。
彼は一体誰?
そして私は……?
アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。
_____________________________
私らしい作品になっているかと思います。
ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。
※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります
※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
貴方誰ですか?〜婚約者が10年ぶりに帰ってきました〜
なーさ
恋愛
侯爵令嬢のアーニャ。だが彼女ももう23歳。結婚適齢期も過ぎた彼女だが婚約者がいた。その名も伯爵令息のナトリ。彼が16歳、アーニャが13歳のあの日。戦争に行ってから10年。戦争に行ったまま帰ってこない。毎月送ると言っていた手紙も旅立ってから送られてくることはないし相手の家からも、もう忘れていいと言われている。もう潮時だろうと婚約破棄し、各家族円満の婚約解消。そして王宮で働き出したアーニャ。一年後ナトリは英雄となり帰ってくる。しかしアーニャはナトリのことを忘れてしまっている…!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
はずれの聖女
おこめ
恋愛
この国に二人いる聖女。
一人は見目麗しく誰にでも優しいとされるリーア、もう一人は地味な容姿のせいで影で『はずれ』と呼ばれているシルク。
シルクは一部の人達から蔑まれており、軽く扱われている。
『はずれ』のシルクにも優しく接してくれる騎士団長のアーノルドにシルクは心を奪われており、日常で共に過ごせる時間を満喫していた。
だがある日、アーノルドに想い人がいると知り……
しかもその相手がもう一人の聖女であるリーアだと知りショックを受ける最中、更に心を傷付ける事態に見舞われる。
なんやかんやでさらっとハッピーエンドです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約者に好きな人ができたらしい(※ただし事実とは異なります)
彗星
恋愛
主人公ミアと、婚約者リアムとのすれ違いもの。学園の人気者であるリアムを、婚約者を持つミアは、公爵家のご令嬢であるマリーナに「彼は私のことが好きだ」と言われる。その言葉が引っかかったことで、リアムと婚約解消した方がいいのではないかと考え始める。しかし、リアムの気持ちは、ミアが考えることとは違うらしく…。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
王子を助けたのは妹だと勘違いされた令嬢は人魚姫の嘆きを知る
リオール
恋愛
子供の頃に溺れてる子を助けたのは姉のフィリア。
けれど助けたのは妹メリッサだと勘違いされ、妹はその助けた相手の婚約者となるのだった。
助けた相手──第一王子へ生まれかけた恋心に蓋をして、フィリアは二人の幸せを願う。
真実を隠し続けた人魚姫はこんなにも苦しかったの?
知って欲しい、知って欲しくない。
相反する思いを胸に、フィリアはその思いを秘め続ける。
※最初の方は明るいですが、すぐにシリアスとなります。ギャグ無いです。
※全24話+プロローグ,エピローグ(執筆済み。順次UP予定)
※当初の予定と少し違う展開に、ここの紹介文を慌てて修正しました。色々ツッコミどころ満載だと思いますが、海のように広い心でスルーしてください(汗
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
とある令嬢の勘違いに巻き込まれて、想いを寄せていた子息と婚約を解消することになったのですが、そこにも勘違いが潜んでいたようです
珠宮さくら
恋愛
ジュリア・レオミュールは、想いを寄せている子息と婚約したことを両親に聞いたはずが、その子息と婚約したと触れ回っている令嬢がいて混乱することになった。
令嬢の勘違いだと誰もが思っていたが、その勘違いの始まりが最近ではなかったことに気づいたのは、ジュリアだけだった。
大好きなあなたを忘れる方法
山田ランチ
恋愛
あらすじ
王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。
魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。
登場人物
・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。
・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。
・イーライ 学園の園芸員。
クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。
・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。
・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。
・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。
・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。
・マイロ 17歳、メリベルの友人。
魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。
魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。
ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる