『まて』をやめました【完結】

かみい

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『まて』をやめました 38

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庭園に面したサロンの大きな窓は、開け放たれており花々の香しい風がサーっと吹き込んでレースのカーテンを揺らした。
その中、先程まで護衛さんたちもあわせて人が沢山いたサロンの室内は、私とエドワード様、監視役にクレアの3人だけになった。

『好きにならないように努力する』
意味の分からない戯言を口にしたエドワード様。
一つ一つ問答をしても、本人は何故そんな可笑しなことをしているのか気が付かない。
何故だろう。
話を聞く限りでは、ヴィンセント侯爵が言ったらしいけどもうしっかり職にも就いている大人のエドワード様が同意しなければ婚約の解消は侯爵だって勝手にはできない。
それこそ、今回のように陛下の許可が必要なことだから、本当に勝手にしてしまえば侯爵が何か責を負うことになる。
そんなことを分からない人ではないはずなのに、何故こんなに頭がカッチカチなのか。
不思議で堪らない。

レティシア様の言葉を借りるなら、まるで呪いのようだ。

もしかしたら、エドワード様は本当に呪いにかかっているんじゃないかと疑う。
いや、呪いじゃない。
多分だけど、トラウマ的な?
本人を無意識に従わせている何か、それはトラウマのようなものに縛られているんじゃないのかな?

トラウマの根本的なものを解決するのが一番なんだけど、私にはそれは分からないしそれを調べるなんてしたくない。
何よりも、もう時間がないもの。
だから手っ取り早い、解決法、違うな、これはショック療法っていうもの。それをやってみようとおもう。

これでエドワード様の呪いが解ければ、私がこの後したいことにもいい影響になるはず。

「エドワード様、貴方のそのがんじがらめになっている呪いの糸を私が今から解きますね。」

向き合ったエドワード様の戸惑いが珍しく顔に出ている。
何時もは無表情がデフォルトなのに、嘘くさい笑顔としかめっ面以外に珍しい。私の記憶喪失の事とかで取り繕うことが出来なくなっているのかな?
だとしたら、嬉しい・・・・・・かも。

長身のエドワード様を見上げる。
麗しのご尊顔。
煌めく玲瓏な瞳、細いのに凛々しい眉、シャープな頬、美しいラインの鼻梁、綺麗な桜色の唇。
どれも美しい。
10人が10人どころか、千人が千人、万人が万人、美しいと同意するほどの美しい男性。

その人と、婚約者であった10年は我慢してばかりだった。
私もまるで呪いにかかったように、ただ闇雲にエドワード様を、エドワード様だけを思っていた。

でももう私は、我慢しない。
『まて』はしない。
私の呪いは解けた。
だから、今度はエドワード様の呪いを解く。
解いたうえで、エドワード様にはきちんとけじめをつけてもらう。


「少し屈んでもらっていいですか?」


戸惑ってはいるが、レティシア様に任せると言われているのを聞いたせいか、素直に私の言葉に応じて身をかがめて私の目線に屈んでくれた。
その素直さに思わず、クスッと笑いがこぼれた。

今日はなんて素直なんだろう。
なんだか、エドワード様が幼く見えてかわいらしく思えた。

微笑む私を正面から見たエドワード様は、頬を染めて目を反らす。
微笑む私に、あまり笑うなといったのはなぜなのかな?
本当はその時かなり傷ついたんだよ。
頑張って前向きに考えるようにしたけど、普通なら女の子に笑うななんて言うのはひどいことなんだよ。
この呪いを解いたら、そのこともきちんと話をしたいなぁ。

そっと片手を頬に当てる。見た目は高価な陶磁器のように、冷たそうなすべらかな頬。だけど触れると、柔らかく温かい。肌理が細かいのか手触りは絹のようにスベスベだわ。
むっ、女の敵め。羨ましいぞ!

頬に触れられて、驚いて固まるエドワード様。私からエドワード様に触れるのは初めてだもんね。
初めて触れるエドワード様。私の胸もドキドキと高鳴る。


うふふっ。
さあ、10年分のご褒美これじゃあ足りないかもしれないけど───


いっただきま~す。






私の目線に屈んだ、エドワード様のすべらかな右頬にゆっくり顔を近づけて─────チュッとリップ音をたてて私の唇を押し当てた。


貴方を縛り付けているものを、吸い取ってあげる。


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