『まて』をやめました【完結】

かみい

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『まて』をやめました 35

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そうだそれよりもだ!
何よ好きにならないようにって。なんでそんな嘘までつく必要があるんだろう。
だから夜会のあの親子の会話を聞いたと言った。
わざわざそんな嘘つく必要なんてない。

「・・・なんで、君までそんな、知って?」

「だ~か~ら~ですね。私は聞いたんです。私が涼んでいたバルコニーにあとからきたのは、エドワード様たちですよ。
そこであんな話を始めて出るに出れなかったんです。」

いつもならエドワード様のエスコートで出るはずの夜会だけど、その日の夜会の招待がザリエル家に家族で来てほしいとあった。私はジェイクをパートナーに参加した。ジェイクから、エドワードには言わなければわからないと言われて。その侯爵夫人は他国から嫁いで来た方。故郷が恋しくて時々、私たち家族を呼び別室で故郷の言葉で会話を楽しむ。夫人は故郷の言葉で会話ができることで、それだけで気持ちが安らぐらしい。私たちは、言語の勉強とその国について聞くことができる貴重な時間となった。夜会に参加といっても、会場に入ることはあまりない。
両親は、少し会場を回って挨拶をしてるようだけど、私はいつも会場から外れた、夜会の参加者があまり来ないバルコニーから庭園を眺めていた。
そこに聞き覚えのある声が聞こえて、視線を向けるとそこにはエドワード様とお義父様(予定)の侯爵様がバルコニーで話をしていた。
私は影にあるベンチに座っていたから気が付かなかったみたい。久しぶりに見れたエドワード様は、夜会用のタキシード姿でやっぱり美しい。窓から洩れる会場の光に艶やかな髪が光って天使の環ができて、はぅぁ~、綺麗・・・
って、見ほれていたら挨拶のタイミングを逃してしまった。
でも挨拶しなくてよかったと、今なら思う。

まさか、あんな場所であんな会話をするなんて・・・

誰かに聞かれてもいいと思っているとしか思えない。
そんなふうに思われていたなんてショック過ぎて2人が会場に戻ってからも暫く動けなかった。
冷たい風に肩が冷えて、やっと動く気になってフラフラと控室に戻った。
控室にはまだ誰も帰っていなかったから、ぼんやりしてどうにか取り繕うくらいには時間があった。
でも、ショックが大きすぎて帰ってから日記にありのままの気持ちを綴った。

結婚できると思っていたから、あと3年我慢すれば毎日あの顔が見れるならって我慢できたのに・・・
結婚できないなんて、この10年はなんのために我慢してきたのか・・・
家族とも友達とも、もっと一緒にいる時間を増やせばよかった。
エドワード様がいつ来るか分からないからって、先ぶれも無しに訪問なんて一度もなかったんだから連絡があるまでは好きに過ごしてたらよかったのに・・・
お母様の故郷のお爺様が、何度も国においでって言ってくれてたのに・・・

もう、後悔しかない。

なんで、なんで・・・

それからすぐだった、あのお茶会で毒を盛られたのは・・・
普通なら、おかしい行動のあの人たちを躱して問題なく立ち去ることが出来たはずなのに、あのショックを引きずっていたからか色々面倒になって口にしてしまった。
強いスパイスで何かが入っていても全く分からない状態だけど、多少だけど毒の耐性はつけているから大丈夫だろうと思っていた。
実際はそんな私を嘲笑うかのような、思いもしない混合毒なんて作っていた。
もう何もかも、頑張ることに疲れて家族や友達を大切にしなかった自分が情けなくってすべてを忘れてやり直したいって思ったんだよね。
だから記憶がなくなった。
でも真っ新にはならなかった。貴族としての柵を忘れた一般人の日本人の記憶が表に出てきた。おかげで色々と俯瞰してみることが出来た。
だから、記憶が戻っても前の馬鹿馬鹿しい『エドワード様至上主義』に、ならなかったんだとおもう。

ならなかったけど、なんで婚約解消できなかったかわかった。
私、悔しいんだ。
こんなに言われてるのに、まだ好きで悔しいんだ。
そしてこのまま婚約を解消することが、この人たちの思惑通りで特に侯爵様は何とも思わない。
悔しい。
一矢報いてやりたい。そんな考えがさっきからグルグル頭を駆け巡る。
扉の前で聞いたエドワード様の理解しがたい言葉。

『好きにならないように努力』?
そんな努力聞いたことない。
大体、好きになるならないに努力も何もない。
恋とはするものではない、落ちるものとどこぞの誰かが言っていたような言わないような空耳レベルで聞いたことがある、と思う。
そんなもの、理性でどうにかなるものじゃないし、好きになるのに我慢するとか意味わからない。

「婚約破棄ありきで婚約とか酷いことする意味わからないし、好きにならないようにとかそんな嘘つくのも意味わかんないです!」

「嘘じゃない!」

打てば帰ってくるかのように、食い気味に反論するエドワード様だけど信じられない。

「大体婚約を破棄していいと思っていたなら、我慢なんかするか!」

何を言ってるんだこの人?
無表情か嘘くさい貴族らしい笑みがデフォルトのエドワード様が、必死な顔をしている。
でも言ってることは、意味わからない。
“婚約破棄まで我慢する”ならわかる。でも“婚約破棄ために我慢する”とはどういう意味?
レティシア様のために私と婚約してるだけなら、ヴィクター殿下との誤解が解けて親密になった今なら婚約を破棄したはずなのでは?

「・・・何を、おかしいことを言っているんですか?」

エドワード様の必死さに押し負けそうになるけど、はっきりと聞いておかないとこの後の計画が崩れる。

「おかしくはないだろう。
俺が君を好きになると婚約は破棄させると父上が言ったんだ。あの父上なら、強引な手を使って破棄をするだろう。それを望まないから、好きにならないように努力する必要があるんだ。」

ん?
ど~言うことかな?
私って、頭がおかしくなったのかな?
この人の言っている意味が本当に理解できない。いや、理解しようとするならば、根底を覆す必要がある。
私は、思わず周りに視線を向ける。
レティシア様は心底困った顔で、椅子に座りこちらを見守る体制のようだ。ミリアム様も同様。
後ろについてきているジェイクは呆れ顔だ。クレアは・・・・・・メイドらしい澄ました顔だが面白がっている。絶対。

さて、ひも解く必要があるかな?
この人の頭の中って、いろんな糸ががんじがらめになっているみたいだわ。
このまま、だまし討ちみたいに計画を実行してもいいけど多分それじゃない気がしてきた。

たぶん、私が思うよりも面白いことになりそうだわ。



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