『まて』をやめました【完結】

かみい

文字の大きさ
上 下
35 / 57

『まて』をやめました 35

しおりを挟む


そうだそれよりもだ!
何よ好きにならないようにって。なんでそんな嘘までつく必要があるんだろう。
だから夜会のあの親子の会話を聞いたと言った。
わざわざそんな嘘つく必要なんてない。

「・・・なんで、君までそんな、知って?」

「だ~か~ら~ですね。私は聞いたんです。私が涼んでいたバルコニーにあとからきたのは、エドワード様たちですよ。
そこであんな話を始めて出るに出れなかったんです。」

いつもならエドワード様のエスコートで出るはずの夜会だけど、その日の夜会の招待がザリエル家に家族で来てほしいとあった。私はジェイクをパートナーに参加した。ジェイクから、エドワードには言わなければわからないと言われて。その侯爵夫人は他国から嫁いで来た方。故郷が恋しくて時々、私たち家族を呼び別室で故郷の言葉で会話を楽しむ。夫人は故郷の言葉で会話ができることで、それだけで気持ちが安らぐらしい。私たちは、言語の勉強とその国について聞くことができる貴重な時間となった。夜会に参加といっても、会場に入ることはあまりない。
両親は、少し会場を回って挨拶をしてるようだけど、私はいつも会場から外れた、夜会の参加者があまり来ないバルコニーから庭園を眺めていた。
そこに聞き覚えのある声が聞こえて、視線を向けるとそこにはエドワード様とお義父様(予定)の侯爵様がバルコニーで話をしていた。
私は影にあるベンチに座っていたから気が付かなかったみたい。久しぶりに見れたエドワード様は、夜会用のタキシード姿でやっぱり美しい。窓から洩れる会場の光に艶やかな髪が光って天使の環ができて、はぅぁ~、綺麗・・・
って、見ほれていたら挨拶のタイミングを逃してしまった。
でも挨拶しなくてよかったと、今なら思う。

まさか、あんな場所であんな会話をするなんて・・・

誰かに聞かれてもいいと思っているとしか思えない。
そんなふうに思われていたなんてショック過ぎて2人が会場に戻ってからも暫く動けなかった。
冷たい風に肩が冷えて、やっと動く気になってフラフラと控室に戻った。
控室にはまだ誰も帰っていなかったから、ぼんやりしてどうにか取り繕うくらいには時間があった。
でも、ショックが大きすぎて帰ってから日記にありのままの気持ちを綴った。

結婚できると思っていたから、あと3年我慢すれば毎日あの顔が見れるならって我慢できたのに・・・
結婚できないなんて、この10年はなんのために我慢してきたのか・・・
家族とも友達とも、もっと一緒にいる時間を増やせばよかった。
エドワード様がいつ来るか分からないからって、先ぶれも無しに訪問なんて一度もなかったんだから連絡があるまでは好きに過ごしてたらよかったのに・・・
お母様の故郷のお爺様が、何度も国においでって言ってくれてたのに・・・

もう、後悔しかない。

なんで、なんで・・・

それからすぐだった、あのお茶会で毒を盛られたのは・・・
普通なら、おかしい行動のあの人たちを躱して問題なく立ち去ることが出来たはずなのに、あのショックを引きずっていたからか色々面倒になって口にしてしまった。
強いスパイスで何かが入っていても全く分からない状態だけど、多少だけど毒の耐性はつけているから大丈夫だろうと思っていた。
実際はそんな私を嘲笑うかのような、思いもしない混合毒なんて作っていた。
もう何もかも、頑張ることに疲れて家族や友達を大切にしなかった自分が情けなくってすべてを忘れてやり直したいって思ったんだよね。
だから記憶がなくなった。
でも真っ新にはならなかった。貴族としての柵を忘れた一般人の日本人の記憶が表に出てきた。おかげで色々と俯瞰してみることが出来た。
だから、記憶が戻っても前の馬鹿馬鹿しい『エドワード様至上主義』に、ならなかったんだとおもう。

ならなかったけど、なんで婚約解消できなかったかわかった。
私、悔しいんだ。
こんなに言われてるのに、まだ好きで悔しいんだ。
そしてこのまま婚約を解消することが、この人たちの思惑通りで特に侯爵様は何とも思わない。
悔しい。
一矢報いてやりたい。そんな考えがさっきからグルグル頭を駆け巡る。
扉の前で聞いたエドワード様の理解しがたい言葉。

『好きにならないように努力』?
そんな努力聞いたことない。
大体、好きになるならないに努力も何もない。
恋とはするものではない、落ちるものとどこぞの誰かが言っていたような言わないような空耳レベルで聞いたことがある、と思う。
そんなもの、理性でどうにかなるものじゃないし、好きになるのに我慢するとか意味わからない。

「婚約破棄ありきで婚約とか酷いことする意味わからないし、好きにならないようにとかそんな嘘つくのも意味わかんないです!」

「嘘じゃない!」

打てば帰ってくるかのように、食い気味に反論するエドワード様だけど信じられない。

「大体婚約を破棄していいと思っていたなら、我慢なんかするか!」

何を言ってるんだこの人?
無表情か嘘くさい貴族らしい笑みがデフォルトのエドワード様が、必死な顔をしている。
でも言ってることは、意味わからない。
“婚約破棄まで我慢する”ならわかる。でも“婚約破棄ために我慢する”とはどういう意味?
レティシア様のために私と婚約してるだけなら、ヴィクター殿下との誤解が解けて親密になった今なら婚約を破棄したはずなのでは?

「・・・何を、おかしいことを言っているんですか?」

エドワード様の必死さに押し負けそうになるけど、はっきりと聞いておかないとこの後の計画が崩れる。

「おかしくはないだろう。
俺が君を好きになると婚約は破棄させると父上が言ったんだ。あの父上なら、強引な手を使って破棄をするだろう。それを望まないから、好きにならないように努力する必要があるんだ。」

ん?
ど~言うことかな?
私って、頭がおかしくなったのかな?
この人の言っている意味が本当に理解できない。いや、理解しようとするならば、根底を覆す必要がある。
私は、思わず周りに視線を向ける。
レティシア様は心底困った顔で、椅子に座りこちらを見守る体制のようだ。ミリアム様も同様。
後ろについてきているジェイクは呆れ顔だ。クレアは・・・・・・メイドらしい澄ました顔だが面白がっている。絶対。

さて、ひも解く必要があるかな?
この人の頭の中って、いろんな糸ががんじがらめになっているみたいだわ。
このまま、だまし討ちみたいに計画を実行してもいいけど多分それじゃない気がしてきた。

たぶん、私が思うよりも面白いことになりそうだわ。



しおりを挟む
感想 66

あなたにおすすめの小説

夫に相手にされない侯爵夫人ですが、記憶を失ったので人生やり直します。

MIRICO
恋愛
第二章【記憶を失った侯爵夫人ですが、夫と人生やり直します。】完結です。 記憶を失った私は侯爵夫人だった。しかし、旦那様とは不仲でほとんど話すこともなく、パーティに連れて行かれたのは結婚して数回ほど。それを聞いても何も思い出せないので、とりあえず記憶を失ったことは旦那様に内緒にしておいた。 旦那様は美形で凛とした顔の見目の良い方。けれどお城に泊まってばかりで、お屋敷にいてもほとんど顔を合わせない。いいんですよ、その間私は自由にできますから。 屋敷の生活は楽しく旦那様がいなくても何の問題もなかったけれど、ある日突然パーティに同伴することに。 旦那様が「わたし」をどう思っているのか、記憶を失った私にはどうでもいい。けれど、旦那様のお相手たちがやけに私に噛み付いてくる。 記憶がないのだから、私は旦那様のことはどうでもいいのよ? それなのに、旦那様までもが私にかまってくる。旦那様は一体何がしたいのかしら…? 小説家になろう様に掲載済みです。

記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました

冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。 家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。 過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。 関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。 記憶と共に隠された真実とは——— ※小説家になろうでも投稿しています。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

【完結】初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが

藍生蕗
恋愛
 子供の頃、一目惚れした相手から素気無い態度で振られてしまったリエラは、異性に好意を寄せる自信を無くしてしまっていた。  しかし貴族令嬢として十八歳は適齢期。  いつまでも家でくすぶっている妹へと、兄が持ち込んだお見合いに応じる事にした。しかしその相手には既に非公式ながらも恋人がいたようで、リエラは衆目の場で醜聞に巻き込まれてしまう。 ※ 本編は4万字くらいのお話です ※ 他のサイトでも公開してます ※ 女性の立場が弱い世界観です。苦手な方はご注意下さい。 ※ ご都合主義 ※ 性格の悪い腹黒王子が出ます(不快注意!) ※ 6/19 HOTランキング7位! 10位以内初めてなので嬉しいです、ありがとうございます。゚(゚´ω`゚)゚。  →同日2位! 書いてて良かった! ありがとうございます(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

私のお金が欲しい伯爵様は離婚してくれません

みみぢあん
恋愛
祖父の葬儀から帰ったアデルは、それまで優しかった夫のピエールに、愛人と暮らすから伯爵夫人の部屋を出ろと命令される。 急に変わった夫の裏切りに激怒したアデルは『離婚してあげる』と夫に言うが… 夫は裕福な祖父の遺産相続人となったアデルとは離婚しないと言いはなつ。 実家へ連れ帰ろうと護衛騎士のクロヴィスがアデルをむかえに来るが… 帰る途中で襲撃され、2人は命の危険にさらされる。

【完結】愛されないあたしは全てを諦めようと思います

黒幸
恋愛
ネドヴェト侯爵家に生まれた四姉妹の末っ子アマーリエ(エミー)は元気でおしゃまな女の子。 美人で聡明な長女。 利発で活発な次女。 病弱で温和な三女。 兄妹同然に育った第二王子。 時に元気が良すぎて、怒られるアマーリエは誰からも愛されている。 誰もがそう思っていました。 サブタイトルが台詞ぽい時はアマーリエの一人称視点。 客観的なサブタイトル名の時は三人称視点やその他の視点になります。

処理中です...