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『まて』をさせられました 24

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やっと出ました、エドワード。
エドワードsideだけは話題が変わりますが、話数は通し数となります。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


◆エドワード視点◆

「好きな子を苛めるなんて、いけない子ね。
わたくしがお説教して差し上げますわ。このままですと今度は貴方の方が『まて』させられますわよ。」

そうして微笑む、いや、嗤っている双子の姉は、隠しきれていない怒りを含ませて周りを震えあがらせていた。

「レティ・・・、一体何があったんだ?
この3か月確かに俺は、忙しくしていたが屋敷に帰ればいきなり陛下から『婚約解消には反対しないがよく話し合うように』と手紙が来ていた。それも、王印がされた正式なものだ。一体どういうことなんだ?」

俺と双子の姉は、俺の言葉にやれやれと息をわざとらしく大きくつく。
何故か知らないが、レティの醸し出す雰囲気が変わった。

俺が知っている姉は柔らかく堂々としていつもどこか俺を頼っていたのに、今はそれがすっかりない。

レティはこの世界一膨大な魔力を持った聖女として生を受けた。そして俺はその双子として誕生した。
そこに何かの意味はあるのか、幼いころには分からなかったが成長につれて聖女たるレティの精神的支えだと認識していった。
レティは僅か3歳で聖女の片鱗を見せ、その力を安定させるために家族と引き離されて神殿に連れていかれた。
俺たちにとってはある日突然だった。
両親は貴族らしい政略結婚の末、完璧な仮面夫婦であった。その為、俺とレティは強い絆で結ばれていた。双子の神秘か、レティの聖女の力所以か、レティの心の揺らぎが俺に流れてきていた。もちろん俺の心情もレティに筒抜けだったようだ。
幼いころなど、感情の制御ができておらずお互いの考えが手に取るようだった。
そのレティが突然引き離され知る者など誰もいない場所に連れていかれ、不安な日々を過ごしていた。その不安が離れていても感じ取れて俺は父上や母上に何度も訴えたのだが、両親にとってはレティが聖女と認められれば家の誉と黙って我慢しろの一点張り。そのうち何かがあったのか、いつの間にか母親は、王都から離れてた領地の屋敷に籠り父上との接触を一切絶った。
そして俺はそれよりも日に日に心細く弱っていくレティを心配してあらゆる手段でそのことを伝えた。と言っても、幼い俺が訴えることのできるところなんてたかが知れていた。屋敷の使用人、なかでも古くから仕える老執事が俺の訴えを聞き、祖父の伝手を辿った。
人を介して介して辿り着いた前ザリエル伯爵。
前ザリエル伯爵は現在とは違い、父上が目の敵にすることもなく一目置く御仁だった。
前ザリエル伯爵のとりなしがあり、双子である俺だけはレティと一緒にいることを許可された。と言っても、最初は泊まり込んで過ごしたが、そのうちレティが落ち着きを取り戻した頃から、数日に一度の面会となった。
レティはそのことがあってとても人見知りとなった。
今でこそ淑女教育と王妃教育の賜物で、表情を表に出さないから誰にも気づかれていないが、初めて会う人などとても緊張している。最初などは涙ぐんで話もできない状態だった。
だから俺がいつも慣れるまで傍にいた。

レティの婚約者のヴィクター殿下と初顔合わせをした時もそうだった。

淑女教育が随分と進み、我儘を言わなくなり淑やかで素直な聖女としてすでに周知され認定されていた、10歳になった時に結ばれた。
相手は次期国王になる予定の幼い王子。現王太子が子を成せない為に若い側妃から生まれた王子は、その時まだ5歳。やんちゃ盛りで同じくらいの年の高位貴族の子息たちと悪戯をして周りを困らせ笑わせていたと聞いた。やんちゃで愛されていた王子様。
その幼い王子様との初顔合わせで、王子様ヴィクター殿下はやってくれた。

王城の謁見室で俺たち母上を除く家族と王家の皆様。
王太子殿下はすでに婚姻をされていて、そこには初々しい王太子妃も列席していた。
父上はこの王太子妃こそを狙っていたが、どのみちこのヴィクター殿下も何れは王太子、いや王太弟なのか?に決定済みだからそう問題ないだろう。
問題は、年齢くらいか・・・

年老いた国王陛下と父上が言葉を交わした後、婚約を結ぶ当人───その時にはもう親たちで書面を交わしていたのですでに婚約者になった二人が引き合わされた。
神殿からの付き添いの侍女から促され、前に進むように言われたが神殿を3歳から出たことのなかったレティにとっては、この王城は見知らぬ場所。城に入った時から人見知りを発動していて、隣にいた俺の手をぎゅっと強く握り離さなかった。
嫌々と首を振って拒否するレティに仕方なく俺も一緒について出ることでその場を収めようとした。
しかしどうやら、それはこの小さなおこちゃまな王子様の矜持を傷付けたことになったようだ。
ヴィクター殿下は、レティと手を繋ぎ一緒に進み出た俺を見るとムッとした顔を隠すこともせず感情のまま挨拶もなく大声で怒鳴った。

「なんだお前は!僕の婚約者はどっちなんだ!」

確かに俺とレティはよく似ていた。子供の頃だけでなく、未だに性別の違いだけでよく似ていると言われた。不躾なものなど、俺がドレスを着れば絶世の美女だと言った。
まあ、そんなことはどうでもいい。
このお子ちゃま王子様が言った言葉は、そういう本当にわからないからでは無い。俺は子息らしいパンツスタイルであるし、レティは父上が用意した、豪華なドレス姿だ。誰がどう見ても王子様のお相手がドレス姿のレティであることは一目瞭然だ。
それなのにそんなことを言うのはわざとだ。
恐らくは、楽しみにしていた婚約者が姉弟とは言えど、男と手をつないで出てきたことが幼い男の心を刺激したらしい。
だがこれは最悪だった。

ヴィクター殿下は、ぎゃんぎゃんと吠え盛る仔犬のようだし、レティは人見知りに加えて神殿では長らく聞いていない大きな声に驚き怯えてしまった。

怯えたレティは益々俺にしがみつき、それを見て怒りで更に顔を真っ赤にしてなにやら罵るという、混沌とした中、顔合わせは一時中断してしまった。
その後別室で、落ち着いた二人を再び顔合わせをしたが、ヴィクター殿下の不機嫌は収まらずにいた。レティも殿下よりも年上なのに怯え切ってまともに会話ができなくなってしまった。

この初顔合わせの失敗が尾を引き、穏やかで仲良さげな様子はついぞ見られず、ギクシャクとした関係の二人。
それはそのまま、年月が経っても変わらなかった。

レティの人見知りは、上部うわべでは上手く隠すことができるようになったが、ヴィクター殿下は勿論、幾人か未だに緊張しているととれるものがいる。

その一人が、俺の婚約者クラウディア。

理由は簡単だ。ヴィクター殿下の片思い相手だからだ。

妖精のような愛らしい少女は、見た目の儚さを裏切る子だった。

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