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『まて』をやめました 22
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◆レティシア視点◆
「どれだけ、どれだけ蔑ろにしたら、気が済むんですか?」
その声は、嗚咽こそ含んでいないが胸に響く悲しみが含まれていた。
聞いているものが、その声に胸が苦しくなるほど・・・
実際にその言葉を投げかけられている、エドワードですら、困惑とともに後悔が透けて見えていた。
もっとも僅かな変化の為、知らない人にとっては相変わらずの無表情だろう。
「クラウディア・・・」
その悲痛な声と共に流れ出る、透明な雫。
あふれ出る言葉と同じくクラウディアの悲しみの涙。
わたくしはその涙をハンカチに吸い取らせながら、心が痛んだ。
その涙を見たとき、わたくしの目論見は成功したと確信したと共に後悔もした。
こんなに悲しませるくらいなら、記憶が戻る手助けをするべきではなかったかもしれない・・・
わたくしの聖女の力は、どこまで使えるのか何に効くのか正確に解明されていない。
公式文書には、歴代の聖女たちの力が使われた内容しか伝わっていない。
しかし、実際はその力は言わないだけで多岐にわたる。
わたくしも浄化や結界だけでなく、癒しの力が使える。
その中の癒しの力にも、たくさんのものがある。
怪我や病気の治療。毒やしびれなどの外部からの干渉による身体異常の治療。そして、精神的苦痛の治療もある。
クラウディアの毒治療をした時に、すべて滞りなく取り除いて体の全ての機能が正常であるとわたくしは確認していた。
治療の反動が出ることから、治療後2日以内には目覚めるだろうと言い残してザリエル伯爵邸を後にした。
その後、クラウディアの目覚めと共に身体は元気ながら記憶がなくなってしまったと聞いたときには驚いた。
だって、わたくしは確かに確認したからだ。
脳の機能も正常であった、と。
毒の影響とはどこまでかわからないことも多いので全身隈なく、頭の先から足の指先まで確認したが異常はなかった。
その後お礼にと訪れたクラウディアは以前のクラウディアとは違うもので、わたくしの知らない女の子だった。
話してみると隠すことをしない好意に加えて、心地よい思慕が見て取れた。時々行き過ぎでは?と思うような言動もあるが、その素直な物言いに好感はますます上がる。
何よりも最初に見た時から思っていた、あの屈託のない微笑み。
その微笑みを見た瞬間、わたくしの心に彼女が住み着いた。暖かな陽射しの花畑にいるような多幸感。そこで一粒の砂糖菓子を口に含んだように広がる甘い幸せ。
一度知ってしまった、クラウディアの微笑みは、またみたいと思わせるほど威力は抜群だった。
噂で聞いたザリエル家に偶に現れる、天使の微笑みを持つもの。それがおそらくはクラウディアなのだろう。噂ではクラウディアの祖父にあたる人がそうであったと聞く。
これは一部の人しか知らない。外交にたけているザリエル伯爵家の秘密。
その一端は、微笑みだけで人を誑し込めるほどの魅力の持ち主が現れるからともいわれる。
もっともそれまで培ってきた人脈と言葉巧みな交渉術、さらに誠実な人柄という基盤の元である。
次期王妃として、ザリエル伯爵家の大切さを学んできた。そのクラウディアと以前は、ヴィクター殿下を争っていると思っていたがそれは杞憂に落ち着いた。
だからこそ、屈託ない微笑みにやられてしまった。
身分の垣根も性別も何もかもを超越した、破壊力のある微笑み。
何時もは、わたくしにだけ好意を示す聖騎士たちも、クラウディアに対してわたくしとの諍いが誤解であると知った後のその態度の変化は驚くほどだった。
気安く挨拶を交わして、まるで妹のように愛でかわいがる騎士たち。わたくしもその様子をみて嫉妬心は全く湧かずに、みんなにかわいがられるクラウディアの人柄を我がことのように喜んだ。
そのクラウディアは、将来私の義妹になるはずだった。
いや、今でもその予定だが、ザリエル家から婚約解消に動いているからいずれはその関係はなくなるかもしれない。
それもこれも、クラウディアの記憶がなくなり私の知るエドワードからは考えられないクラウディアへの扱いの所為。
わたくしとエドワードは、双子でわたくしが聖女という力をもって生まれたからかエドワードと不思議な力で繋がっている。
お互いの思考というか、感情というかそんなものが言葉なく分かり合える。
趣味嗜好も似ている。
離れていても、エドワードが嫌悪しているならわたくしは気がつく。
だが、エドワードからそんな感情は今まで感じたことはない。
わたくしがこんなに抗い難いくらい、かわいらしいと思う子をエドワードが嫌うはずがない。
何かの間違いだと思いたいのに、さっきから見るエドワードの姿にクラウディアの日記にあった通りのことをしてきたんだと確信した。
こんなに押し込まれた気持ちを、ただ『愛している』それだけでずっと我慢して口に出せずにいたクラウディア。
クラウディアの記憶がなくなったのは、すべてエドワードが原因。
我慢の限界に諮らずも刺激を加えられ、すべてを忘れてしまった。否、すべてを記憶の奥底に封印してしまった。
わたくしは日記を読み、もしやと思いこっそりと会うたびにクラウディアに触れて癒しの力を流していった。いっぺんに治療すれば、折角の明るいクラウディアがまた大人しい子になるかもしれない。だから、慎重に少量ずつ精神的苦痛を取り除き、隠れた記憶を表に出していった。優しく語りかけるように楽しい思い出、幸せな思い出をちょっとずつちょっとずつ・・・
クラウディアは最近夢を見ると言っていたから、隠れた記憶が出てきているのだろう。
そして、今日も流していた癒しの力とエドワードに会えたということで完全に記憶は取り戻したようだ。
でも、それはクラウディアにとっては苦痛だったのかもしれない。
エドワードへの恋心がなければ、意気揚々と婚約解消ができただろう。
口にできただろうに・・・
でもそれを今は苦しそうにしている。
そう思うと、エドワードにだんだん腹が立ってくる。
婚約者がこんなに泣きじゃくっているというのに、木偶の棒のように突っ立ってる。どうしていいのかわからないという心情が流れてくるが、紳士としての心得を学んでいるのだからどうするのが正解かわかっているだろうに・・・
もう、こうなったら仕方がない・・・
「クラウディア?」
ハンカチだけでは抑えきれない涙を手の甲で拭って、しゃくりあげながら潤んだ瞳をこちらにあげるクラウディア。
もう、言葉にできないくらい庇護欲をそそるかわいらしい姿。
抱きしめて甘やかしてあげたい衝動に駆られる。
「申し訳ないけど、しばらくエドワードと二人で話していいかしら?
貴女には少し落ち着く時間が必要だし、どうやらエドワードは何も知らないみたいなの。」
お願い。とコテンっと首を倒していうと、真っ赤な鼻よりも頬を赤く染めて、出ない声の代わりに首を縦に振って許を示す。
その肯首があまりにも激しいものだから、首が折れやしないか心配になる。
ジェイクが痛ましそうに、クラウディアの肩を抱いて去っていった。
メイドも一緒についていったが、去る時の二人が揃ってエドワードに目を向けていったが、その視線の鋭い事。瞳の鋭さで人を傷つけられるのなら、エドワードはもう瀕死の重体ね。
「さて・・・」
クラウディア達が去って行く方を、無表情で見つめるエドワード。
この場にのこったのは、わたくしの護衛が居るばかり。離れたところにはザリエル家の隠れた警備が居るだろうが声が届く範囲では無い。
わたくしの護衛の聖騎士たちは、口がかたいし聴かない振りもできる。遮音の結界を張れば問題もない。
であるならば、大丈夫。
「エドワード、きちんと話してくれるわね。」
ニッコリ微笑み椅子へ座るように促すと、久しぶりにきちんと表情が崩れた。
ちょっと困ったような、迷子の子供のような顔。
随分と感情を隠すのがうまくなったけど、流石にこの状態で保つことはできなかったみたいね。クラウディアがここから去ったのもおおきいだろうけど。
「好きな子を苛めるなんて、いけない子ね。
わたくしがお説教して差し上げますわ。このままですと今度は貴方の方が『まて』させられますわよ。」
わたくしの言葉に見開かれる瞳。
クラウディアが黒曜石と見惚れるような瞳。
だけど今は、長年の隠し事がバレた気まずい落ち込んだ表情。
わたくしとよく似た、美しい顔が台無しね。
さあ、お説教の時間よ。
「どれだけ、どれだけ蔑ろにしたら、気が済むんですか?」
その声は、嗚咽こそ含んでいないが胸に響く悲しみが含まれていた。
聞いているものが、その声に胸が苦しくなるほど・・・
実際にその言葉を投げかけられている、エドワードですら、困惑とともに後悔が透けて見えていた。
もっとも僅かな変化の為、知らない人にとっては相変わらずの無表情だろう。
「クラウディア・・・」
その悲痛な声と共に流れ出る、透明な雫。
あふれ出る言葉と同じくクラウディアの悲しみの涙。
わたくしはその涙をハンカチに吸い取らせながら、心が痛んだ。
その涙を見たとき、わたくしの目論見は成功したと確信したと共に後悔もした。
こんなに悲しませるくらいなら、記憶が戻る手助けをするべきではなかったかもしれない・・・
わたくしの聖女の力は、どこまで使えるのか何に効くのか正確に解明されていない。
公式文書には、歴代の聖女たちの力が使われた内容しか伝わっていない。
しかし、実際はその力は言わないだけで多岐にわたる。
わたくしも浄化や結界だけでなく、癒しの力が使える。
その中の癒しの力にも、たくさんのものがある。
怪我や病気の治療。毒やしびれなどの外部からの干渉による身体異常の治療。そして、精神的苦痛の治療もある。
クラウディアの毒治療をした時に、すべて滞りなく取り除いて体の全ての機能が正常であるとわたくしは確認していた。
治療の反動が出ることから、治療後2日以内には目覚めるだろうと言い残してザリエル伯爵邸を後にした。
その後、クラウディアの目覚めと共に身体は元気ながら記憶がなくなってしまったと聞いたときには驚いた。
だって、わたくしは確かに確認したからだ。
脳の機能も正常であった、と。
毒の影響とはどこまでかわからないことも多いので全身隈なく、頭の先から足の指先まで確認したが異常はなかった。
その後お礼にと訪れたクラウディアは以前のクラウディアとは違うもので、わたくしの知らない女の子だった。
話してみると隠すことをしない好意に加えて、心地よい思慕が見て取れた。時々行き過ぎでは?と思うような言動もあるが、その素直な物言いに好感はますます上がる。
何よりも最初に見た時から思っていた、あの屈託のない微笑み。
その微笑みを見た瞬間、わたくしの心に彼女が住み着いた。暖かな陽射しの花畑にいるような多幸感。そこで一粒の砂糖菓子を口に含んだように広がる甘い幸せ。
一度知ってしまった、クラウディアの微笑みは、またみたいと思わせるほど威力は抜群だった。
噂で聞いたザリエル家に偶に現れる、天使の微笑みを持つもの。それがおそらくはクラウディアなのだろう。噂ではクラウディアの祖父にあたる人がそうであったと聞く。
これは一部の人しか知らない。外交にたけているザリエル伯爵家の秘密。
その一端は、微笑みだけで人を誑し込めるほどの魅力の持ち主が現れるからともいわれる。
もっともそれまで培ってきた人脈と言葉巧みな交渉術、さらに誠実な人柄という基盤の元である。
次期王妃として、ザリエル伯爵家の大切さを学んできた。そのクラウディアと以前は、ヴィクター殿下を争っていると思っていたがそれは杞憂に落ち着いた。
だからこそ、屈託ない微笑みにやられてしまった。
身分の垣根も性別も何もかもを超越した、破壊力のある微笑み。
何時もは、わたくしにだけ好意を示す聖騎士たちも、クラウディアに対してわたくしとの諍いが誤解であると知った後のその態度の変化は驚くほどだった。
気安く挨拶を交わして、まるで妹のように愛でかわいがる騎士たち。わたくしもその様子をみて嫉妬心は全く湧かずに、みんなにかわいがられるクラウディアの人柄を我がことのように喜んだ。
そのクラウディアは、将来私の義妹になるはずだった。
いや、今でもその予定だが、ザリエル家から婚約解消に動いているからいずれはその関係はなくなるかもしれない。
それもこれも、クラウディアの記憶がなくなり私の知るエドワードからは考えられないクラウディアへの扱いの所為。
わたくしとエドワードは、双子でわたくしが聖女という力をもって生まれたからかエドワードと不思議な力で繋がっている。
お互いの思考というか、感情というかそんなものが言葉なく分かり合える。
趣味嗜好も似ている。
離れていても、エドワードが嫌悪しているならわたくしは気がつく。
だが、エドワードからそんな感情は今まで感じたことはない。
わたくしがこんなに抗い難いくらい、かわいらしいと思う子をエドワードが嫌うはずがない。
何かの間違いだと思いたいのに、さっきから見るエドワードの姿にクラウディアの日記にあった通りのことをしてきたんだと確信した。
こんなに押し込まれた気持ちを、ただ『愛している』それだけでずっと我慢して口に出せずにいたクラウディア。
クラウディアの記憶がなくなったのは、すべてエドワードが原因。
我慢の限界に諮らずも刺激を加えられ、すべてを忘れてしまった。否、すべてを記憶の奥底に封印してしまった。
わたくしは日記を読み、もしやと思いこっそりと会うたびにクラウディアに触れて癒しの力を流していった。いっぺんに治療すれば、折角の明るいクラウディアがまた大人しい子になるかもしれない。だから、慎重に少量ずつ精神的苦痛を取り除き、隠れた記憶を表に出していった。優しく語りかけるように楽しい思い出、幸せな思い出をちょっとずつちょっとずつ・・・
クラウディアは最近夢を見ると言っていたから、隠れた記憶が出てきているのだろう。
そして、今日も流していた癒しの力とエドワードに会えたということで完全に記憶は取り戻したようだ。
でも、それはクラウディアにとっては苦痛だったのかもしれない。
エドワードへの恋心がなければ、意気揚々と婚約解消ができただろう。
口にできただろうに・・・
でもそれを今は苦しそうにしている。
そう思うと、エドワードにだんだん腹が立ってくる。
婚約者がこんなに泣きじゃくっているというのに、木偶の棒のように突っ立ってる。どうしていいのかわからないという心情が流れてくるが、紳士としての心得を学んでいるのだからどうするのが正解かわかっているだろうに・・・
もう、こうなったら仕方がない・・・
「クラウディア?」
ハンカチだけでは抑えきれない涙を手の甲で拭って、しゃくりあげながら潤んだ瞳をこちらにあげるクラウディア。
もう、言葉にできないくらい庇護欲をそそるかわいらしい姿。
抱きしめて甘やかしてあげたい衝動に駆られる。
「申し訳ないけど、しばらくエドワードと二人で話していいかしら?
貴女には少し落ち着く時間が必要だし、どうやらエドワードは何も知らないみたいなの。」
お願い。とコテンっと首を倒していうと、真っ赤な鼻よりも頬を赤く染めて、出ない声の代わりに首を縦に振って許を示す。
その肯首があまりにも激しいものだから、首が折れやしないか心配になる。
ジェイクが痛ましそうに、クラウディアの肩を抱いて去っていった。
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「さて・・・」
クラウディア達が去って行く方を、無表情で見つめるエドワード。
この場にのこったのは、わたくしの護衛が居るばかり。離れたところにはザリエル家の隠れた警備が居るだろうが声が届く範囲では無い。
わたくしの護衛の聖騎士たちは、口がかたいし聴かない振りもできる。遮音の結界を張れば問題もない。
であるならば、大丈夫。
「エドワード、きちんと話してくれるわね。」
ニッコリ微笑み椅子へ座るように促すと、久しぶりにきちんと表情が崩れた。
ちょっと困ったような、迷子の子供のような顔。
随分と感情を隠すのがうまくなったけど、流石にこの状態で保つことはできなかったみたいね。クラウディアがここから去ったのもおおきいだろうけど。
「好きな子を苛めるなんて、いけない子ね。
わたくしがお説教して差し上げますわ。このままですと今度は貴方の方が『まて』させられますわよ。」
わたくしの言葉に見開かれる瞳。
クラウディアが黒曜石と見惚れるような瞳。
だけど今は、長年の隠し事がバレた気まずい落ち込んだ表情。
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