『まて』をやめました【完結】

かみい

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『まて』をやめました 19

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まだ婚約は解消されていないが、お父様の根回しもあって陛下からも本人同士の了解があるのならば、どちらにもお咎めはないと言われていた。
なんでも、高位貴族が婚約を結ぶときに王族の了承がいるらしく、その婚約締結証には、前国王のサインがされているらしい。なので今回の解消には現在の国王陛下の了承がいる。
お父様の尽力もあったが、レティシア様の離宮を何度か訪れる私に興味を示した王妃様が、私の話を聞いて陛下にそっと囁いてくれたのも功を為した。強い味方だ。
因みに、王妃様も『クラウディア恋愛妄想日記』の愛読者だ。
味方が増え嬉しくってニコニコしていたら、王妃様は頬を赤らめて私の頭を撫でてくれた。

あれかな?ふわふわした私の髪が触り心地よかったのかな?ワンコかなにかと思われてる?

そんなわけで、エドワード様に連絡がつきさえすれば婚約は解消への道筋は準備万端だ。
悲しいがレティシア様の義妹になることはない。

でも・・・
義妹はなれなくとも、妹のような友達というのはどうだろう・・・
繋がりが細すぎてダメかな?

「あの・・・」

細くたってレティシア様のご尊顔を拝することができるなら十分。
そう言おうと口を開いたとき、表玄関辺りがざわついている声が聞こえた。

っ!!!

今、我が家には聖女レティシア様がいらっしゃる。
たくさんの護衛を配置し厳重警備を敷いてはいるが、万が一不埒者が敷地に押し入った可能性がある。
私も含め、全員に緊張が走る。

「姉様たちは、このままここに。状況がわからないから動かないで。ミリアム様、僕がいってみてきます。あとはよろしくお願いします」

いつの間にか私たちの周りをミリアム様以外の聖騎士たちも囲み、物々しい空気になる。
その中素早く立ち上がり、私たちに指示すると足早に騒ぎの方へ去っていった。
今日は来客の予定はない。
先触れも入っていない。
お父様は、お城で仕事中。お母様は、他家に招かれて留守。
レティシア様の来訪は、外部には臥せられて我が家だけに数日前に知らせが届いた。
ザリエル家が有する、正規の護衛と屋敷の者すべてに警備に当たらせている。
聖女様の滞在中なにかあっては大変だ。お城と変わらないくらいの警備にしているがそれでも、不測の事態に対して警戒するのは仕方ない。

「まあみんな、落ち着きなさい。」

ピリピリとした緊張感のなか、のんびりとした涼やかな声がかけられる。
守られている本人、レティシア様だ。

レティシア様の顔には、焦りや恐怖、緊張はなくいつもと変わらない落ち着きがあった。
この状況に慣れきった豪胆さからなのかわからないが、すごく、不自然なくらいすっごく落ち着いている。
周りの騎士様たちも警戒を緩めることなく元の配置に戻っていった。

「訪ねてきたのが誰だかわかっているわ。大丈夫よ。特に危害を加えるような人物ではないわ。」

そう言いながらクッキーを一枚手に取り、私の口元に持ってくる。
唇に触れたナッツが香ばしい、我が家料理人自慢のクッキーに思わずパクりと咥えてしまった。

はわぁ~、女神様の手で自ら私の口に入れてくださるなんて・・・、毒だってなんだって食べます!!!

ニコニコと笑い、私の手を取るレティシア様。
私、最近餌付けされてます。その後に私の髪を撫でたり、手を握ったりしてスキンシップをしてくださいます。
私、貴女の愛玩動物ペットです。

思わずそんな変態じみた思考が浮かぶ。
そんな思考が読まれたのか、ミリアム様の視線が痛い。いや、痛いのは私の変態思考か?

「そんなことより」

私の変態思考がレティシア様にバレたわけじゃないですよね?
しかし、誰が来たかわからない今の状態を「そんなこと」で済ませていいんですか?
あっ、ミリアム様が私に頷いた。いいのね。大丈夫なのね?

「クラウディアは、やっぱりエドワードと婚約を解消するの?」

最近のレティシア様は、私の前で飾らない。
私を愛でるのは勿論、言いたいことも奥歯にものが挟まったようなまどろっこしい特有の物言いでなく、私やヴィクター殿下にも言いたいことをストレートに言う様になった。
その方が変な誤解もないし、そう言える間柄であると思っていると言っていた。

『そう言える関係』なんて素敵な言葉。
レティシア様にそう思っていただけているなんて・・・。ええ、私はレティシア様の下僕ですから踏まれて喜びを感じますよ。
何言われても、私は、バッチ来いだ!
もうどんな罵倒でもレティシア様からなら喜んで受けます。
うふふっ、ああ、幸せ。

でもレティシア様からの質問は、答えによっては幸せとはいいがたい。

「レティシア様、あの、私がエドワード様と婚約を解消しても仲良くしてくださいますか?」

私の危惧はそこっ!

だって、夢を見ても顔も思いださない婚約者エドワードよりも、触れあえる優しい義姉女神様の方の繋がりがなくなるのが心配。

「あらそんなことを心配しているの?
うふふっ、婚約がどう転んでも貴女はわたくしの大切なお友達よ。妹の様に思っているわ。」

わぁぁぁぁぁん、嬉しすぎて幸せすぎて、その一言でもう解消への道の憂いは無くなりました。
可憐に微笑んで、『大切な友達』しかも『妹』ポジ頂いました!

「はいっ!でしたら、まったくすっぱり憂いなく婚約解消に乗り気です!」

「それは、どういうことかな?」



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