『まて』をやめました【完結】

かみい

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『まて』をやめました 18

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夢は毎日ではないが見たときは、はっきりと覚えている。

夢の中で私は、家の一室でほぼ一日を過ごしていた。
その部屋の窓辺に外に向けて置かれたカウチに座り、刺繍をしたり読書をしたりしていた。
そして時折、というには見すぎなくらいに窓の外に目をやる。その部屋の窓からは、表玄関の門につながるアプローチが見えるのだ。
ほぼ一日をその部屋で過ごし、ランチもこの部屋に運んでもらう。いつも付き従っている、クレアと他愛のない会話をして笑っていても、先が気になるような展開の書物を読んでいても窓の外が気になる。
その様は、まるで主人を待つ忠犬の様で『まて』をさせられているみたいだ。
窓を見てはため息を漏らす。
太陽の位置が陰りだすと悲しそうに目を伏せて、その部屋を出て自室に戻る。
なんども繰り返しそんな夢をみる。
そして、起きると枕は涙でしめっていた。夢の中では、周りに心配をかけたくなくって気丈に明るく振る舞って涙は一切溢していない。だけど、堪えきれず夜に泣いていたのか。そして私も・・・

とにかく、私は夢の中で忠犬よろしく毎度毎度、彼を待ち続けた。

私は窓の外のアプローチの植木が風に揺れただけで、誰かが来たのでは?と笑みを浮かべ窓を開けてその先を見つめる。
馬車が見えて、玄関にいそいそと出れば、外出していた両親やジェイクが帰ってきて「おかえりなさい」というのに想い人でなかったことが悲しい。そんな薄情な心をもって自己嫌悪する。お父様は遠路出かけて帰ってきたというのに、無事を喜んでほっと安堵しているのに、それでも想い人でない悲しみが胸を締め付ける。

時には、無理やりジェイクに引っ張られて庭で剣を振るっていた。
剣の稽古は楽しい。
体を動かすと自然と笑みが浮かぶ。嫌なことも悩みも忘れて体を動かすとスッキリする。
なのにふとした時に玄関口が気になる。
もしも今、訪ねてこられてたら?
この姿をみられたら?
幻滅される?
嫌われてしまう?
そう頭に浮かんだ途端、力なく腕が下がる。
心配そうにするジェイクに断り、室内に入っていく。

本当はもっと剣の稽古をしたい!
外出だってしたい。
お友達とお菓子を食べながら、たくさんお話をしたい。
家族と一緒に、他国を廻りたい。
貴族らしい笑みでなく、自然な笑顔でたくさんの人に会いたい。

でもその思いを凌ぐほど愛おしい人がいる。

数ヶ月に一度でも、時間は短くとも会えるなら、声を聴けるならその多幸感は言いあらわせない。
その一瞬の為に我慢ができる。

例え正面から尊顔を見ることはなくとも、かけられる言葉が苦言であっても・・・

一目ぼれをした執着は凄まじく、会えなくとも妄想で乗り越えられる。




そう思っていた・・・・・・



夢は日記の内容にあるものもあれば、ないものをある。

クラウディアの記憶なのかな?


夢で見たことが、じわじわと私の記憶になっていく。

もしかしたら、記憶が戻ってきているのでは?



朝起きて、ぼんやりと夢を反芻すると、胸が締め付けられる切なさと同時に恐怖が頭を占める。

この夢が記憶がもどっているのだとしたら、何れはエドワードへの恋慕も思い出す。そして私はまた、自分を押さえてあの待つ日々を過ごす?


嫌だ!!!


今ならそんなことしたくないと、はっきり拒否できるけど、記憶が戻ったらわからない。
また尻尾を振って『まて』を自主的にするかもしれない。

記憶が戻る、恐怖。

だけど見る夢は、エドワードに関することだけじゃない。クラウディアの15年分の記憶らしき夢。家族や友達、屋敷の優しい使用人たちと過ごした思い出。
お父様やお母様、ジェイクに聞いた、もう亡くなった祖父母に可愛がって貰った思い出。
新しく築くことができるものもあるが、できないものもある。
だから思い出したくもある。
実際に祖父母の顔が朧気だが脳裏に浮かぶ。
優しい祖父母の膝にのり、他国漫遊の旅を面白おかしく話して聞かせてくれた思い出。ワクワクした気持ちが今も甦る。

けど、

だけど、

エドワードへの恋心だけは、いらない!
思い出したくない!!
もう待つだけの恋心は、いらない!!!

思い出す前に早く、婚約を解消したい。

それから思い出したとしても、諦めがつく。
どうせ会うこともないのだから・・・


今のクラウディアには、エドワードへの恋慕はいらない。




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