17 / 57
『まて』をやめました 17
しおりを挟む「アボット子爵の罪は軽いでしょう。本人は、同罪だと言っていますが脅されていたのもありますし、彼が作った毒薬ではクラウディア様は、あのようにはならなかったはずです。かなりの減刑されるでしょう。」
それに、と、言葉を切り複雑な心情の顔をこちらに向けたミリアム様。
その瞳は、騎士としての厳しさではなくお茶会で会ったときの親しみと寄り添う優しさがあった。
「彼も被害者であると証明するためザリエル伯爵もどうにかして、真犯人を引きずり出し子爵を救いたかったみたいです。」
「真犯人?」
「真の首謀者は、バロン公爵です。」
なんとなく気が付いていたが、改めてミリアム様からその名前が出てやっぱりと思った。
あのメイドは、雇われて6年の中堅どころのメイド。可もなく不可もなく仕事はきっちりとやるタイプ。お嬢様の身の回りをお世話する何人かの中の一人であるため、シンディー様が名前を知っているメイドではあった。メイドは男爵の6人兄弟の四女で、その男爵家は過去、聖女様に領地を救われたことがあることから熱心な聖女信望者の家系。その教えを聞きながら育ったメイドは噂を信じ切ってクラウディアに憎悪を持っていた。そんな中、偶々お嬢様の付き添いで訪れたザリエル家で見かけたクラウディアの、のほほんとした顔をみて憎しみが爆発した。サビーナの目論見が失敗し油断した一瞬を見逃さなかった。
メイドが突発的に独断で護衛用に持たせていた、ナイフを用いてクラウディアに襲いかかった。ただそれだけで、バロン公爵家は関わっていないというのが調書に書かれている。
だがそうとは言い切れないともある。当のメイドは、死んでしまい真相は闇の中だ。
子爵を脅したという内容は、実際のところパイル伯爵からではない。
パイル伯爵は協力者に教えてもらったいう。その協力者も何人もの人を介しているので、人物を特定するのは困難。
怪しいとされるバロン公爵だが、実証がない限りは取り調べもできない。
そして茶会の2日後にはシンディー様は、結婚されて辺境の侯爵家に向かわれた。怪しすぎる速さだ。
公爵も愛娘の婚姻を期に領地に引き上げ、王都のタウンハウスはいつの間にか引き払っていた。何れは爵位を従兄弟に譲るとかで、そのゴタゴタに調べることが困難となり捜査は打ち切り、わかっている主犯パイル伯爵で確定となった。
まぁ、実質の犯人を逃した形にはなるが、お父様の目が黒いうちは王都に帰り咲くことはないだろう―――――と、ジェイクが言った。
「真犯人はにがしましたが、実行犯、協力者は捕らえましたし、アボット子爵もザリエル伯爵ならなんとか罪に問わないようにできるでしょう。
今後もわたくしとクラウディアが仲良ければ、狙われる率は無いに等しいでしょう」
レティシア様の言う通り!
以前の私は、必要以上にレティシア様に近寄らなかった。それもあって、ヴィクター殿下を巡って険悪な仲と思われた。
だがしかし、今は違う!
レティシア様が神殿や公務で城外へ出た際は、ザリエル家に寄って他愛のない時間を過ごして帰ることが習慣になった。ジツハ今日で3度目だ。
私がレティシア様の離宮に招かれたのは、すでに5回。もう毎度毎度レティシア様を目にする度、魂が浄化されて清らかになるような気がする。
多くの人の目につく場所でも、仲良くしている姿を見せている効果か徐々に見方を変えられていると思う。
たった数ヶ月でこうなったのも・・・
「そうですね、レティシア様は勿論、ミリアム様とも趣味があって仲良くさせていただいていますし。」
レティシア様の聖騎士ミリアム様と、話してみると趣味が似ていた。
そう、恋愛小説好き。
以前のクラウディアが書いていた日記を見せてほしいとこっそりお願いされて、貸し出したのが切っ掛け。
以前の自分で書いた日記とはいえ、記憶がないから人が書いた読み物の気のなって気軽に貸した。
その私の気安さに好意を向けてくれるようになった。ミリアム様の休日の日にレティシア様の話で盛り上がるお茶会を2人で開いたりとして年上のお姉様的な友人となった。
そうして友好関係を広げていって結果、今に至るのだ。
そう思ってニコニコと笑みを浮かべるとレティシア様もミリアム様、ジェイクだけでなく周りにいるメイドも城から護衛で来ている聖騎士様までもが微笑んでいる。
「うふふっ、クラウディアの笑顔を見ると心が温かくなるわ。」
「姉様の微笑は天使ですから・・・」
「愛らしい笑みは、聖女様とはまた違った癒しがありますね。」
みんな口々に褒めてくれるが、話半分で本気にしない。
謹み深い日本人精神デス。
「わたくしの未来の妹がこんなにかわいらしい子なんて、先が楽しみだわ。」
うふふッとレティシア様の美しい口から、朗らかに出された言葉に胸がツキンッとした。
私は、レティシア様と義姉妹にはなれない。
だって、絶対エドワード様と婚約を解消するもの。
だから胸が痛むのは、レティシア様に妹と呼んでもらえないから。
・・・・・・でも、最近見る夢が私を苦しくさせる。
あれは、本当に夢?
それとも・・・
クラウディアの記憶が戻ってる?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
小話
アボット子爵がザリエル伯爵に恩があるというのは、若い時に新たに国交を結んだ国の王族がアボット子爵の妹を嫁にと強引に連れ去ろうと誘拐されたことがあり、救出に尽力したのがザリエル伯爵。国境を越えるギリギリ前に助け出されて事なきを得た。国交交渉も今くまとめ、誘拐自体がなかったことにしてその後の妹は瑕疵を付けられることもなかった。妹は結婚が年内に決まっており、今は幸せに暮らして感謝を忘れていません。
脅迫は、国に届け出ていない禁止されている薬草毒草を研究のためと密かに領地で栽培していた、ということです。
どこかでこれらを話に入れようと思いましたが、うまく入れ込むことができなかったのでここで失礼させていただきます。
54
お気に入りに追加
3,756
あなたにおすすめの小説
婚約者に好きな人がいると言われました
みみぢあん
恋愛
子爵家令嬢のアンリエッタは、婚約者のエミールに『好きな人がいる』と告白された。 アンリエッタが婚約者エミールに抗議すると… アンリエッタの幼馴染みバラスター公爵家のイザークとの関係を疑われ、逆に責められる。 疑いをはらそうと説明しても、信じようとしない婚約者に怒りを感じ、『幼馴染みのイザークが婚約者なら良かったのに』と、口をすべらせてしまう。 そこからさらにこじれ… アンリエッタと婚約者の問題は、幼馴染みのイザークまで巻き込むさわぎとなり――――――
🌸お話につごうの良い、ゆるゆる設定です。どうかご容赦を(・´з`・)

【完結】名ばかり婚約者だった王子様、実は私の事を愛していたらしい ~全て奪われ何もかも失って死に戻ってみたら~
Rohdea
恋愛
───私は名前も居場所も全てを奪われ失い、そして、死んだはず……なのに!?
公爵令嬢のドロレスは、両親から愛され幸せな生活を送っていた。
そんなドロレスのたった一つの不満は婚約者の王子様。
王家と家の約束で生まれた時から婚約が決定していたその王子、アレクサンドルは、
人前にも現れない、ドロレスと会わない、何もしてくれない名ばかり婚約者となっていた。
そんなある日、両親が事故で帰らぬ人となり、
父の弟、叔父一家が公爵家にやって来た事でドロレスの生活は一変し、最期は殺されてしまう。
───しかし、死んだはずのドロレスが目を覚ますと、何故か殺される前の過去に戻っていた。
(残された時間は少ないけれど、今度は殺されたりなんかしない!)
過去に戻ったドロレスは、
両親が親しみを込めて呼んでくれていた愛称“ローラ”を名乗り、
未来を変えて今度は殺されたりしないよう生きていく事を決意する。
そして、そんなドロレス改め“ローラ”を助けてくれたのは、名ばかり婚約者だった王子アレクサンドル……!?

貧乏令嬢はお断りらしいので、豪商の愛人とよろしくやってください
今川幸乃
恋愛
貧乏令嬢のリッタ・アストリーにはバート・オレットという婚約者がいた。
しかしある日突然、バートは「こんな貧乏な家は我慢できない!」と一方的に婚約破棄を宣言する。
その裏には彼の領内の豪商シーモア商会と、そこの娘レベッカの姿があった。
どうやら彼はすでにレベッカと出来ていたと悟ったリッタは婚約破棄を受け入れる。
そしてバートはレベッカの言うがままに、彼女が「絶対儲かる」という先物投資に家財をつぎ込むが……
一方のリッタはひょんなことから幼いころの知り合いであったクリフトンと再会する。
当時はただの子供だと思っていたクリフトンは実は大貴族の跡取りだった。
【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。
海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】
クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。
しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。
失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが――
これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。
※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました!
※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。

【完結】記憶喪失になってから、あなたの本当の気持ちを知りました
Rohdea
恋愛
誰かが、自分を呼ぶ声で目が覚めた。
必死に“私”を呼んでいたのは見知らぬ男性だった。
──目を覚まして気付く。
私は誰なの? ここはどこ。 あなたは誰?
“私”は馬車に轢かれそうになり頭を打って気絶し、起きたら記憶喪失になっていた。
こうして私……リリアはこれまでの記憶を失くしてしまった。
だけど、なぜか目覚めた時に傍らで私を必死に呼んでいた男性──ロベルトが私の元に毎日のようにやって来る。
彼はただの幼馴染らしいのに、なんで!?
そんな彼に私はどんどん惹かれていくのだけど……

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。

【完結】地味令嬢の願いが叶う刻
白雨 音
恋愛
男爵令嬢クラリスは、地味で平凡な娘だ。
幼い頃より、両親から溺愛される、美しい姉ディオールと後継ぎである弟フィリップを羨ましく思っていた。
家族から愛されたい、認められたいと努めるも、都合良く使われるだけで、
いつしか、「家を出て愛する人と家庭を持ちたい」と願うようになっていた。
ある夜、伯爵家のパーティに出席する事が認められたが、意地悪な姉に笑い者にされてしまう。
庭でパーティが終わるのを待つクラリスに、思い掛けず、素敵な出会いがあった。
レオナール=ヴェルレーヌ伯爵子息___一目で恋に落ちるも、分不相応と諦めるしか無かった。
だが、一月後、驚く事に彼の方からクラリスに縁談の打診が来た。
喜ぶクラリスだったが、姉は「自分の方が相応しい」と言い出して…
異世界恋愛:短編(全16話) ※魔法要素無し。
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆

忘れられた薔薇が咲くとき
ゆる
恋愛
貴族として華やかな未来を約束されていた伯爵令嬢アルタリア。しかし、突然の婚約破棄と追放により、その人生は一変する。全てを失い、辺境の町で庶民として生きることを余儀なくされた彼女は、過去の屈辱と向き合いながらも、懸命に新たな生活を築いていく。
だが、平穏は長く続かない。かつて彼女を追放した第二王子や聖女が町を訪れ、過去の因縁が再び彼女を取り巻く。利用されるだけの存在から、自らの意志で運命を切り開こうとするアルタリア。彼女が選ぶ未来とは――。
これは、追放された元伯爵令嬢が自由と幸せを掴むまでの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる