『まて』をやめました【完結】

かみい

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『まて』をやめました 17

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「アボット子爵の罪は軽いでしょう。本人は、同罪だと言っていますが脅されていたのもありますし、彼が作った毒薬ではクラウディア様は、あのようにはならなかったはずです。かなりの減刑されるでしょう。」

それに、と、言葉を切り複雑な心情の顔をこちらに向けたミリアム様。
その瞳は、騎士としての厳しさではなくお茶会で会ったときの親しみと寄り添う優しさがあった。

「彼も被害者であると証明するためザリエル伯爵もどうにかして、真犯人を引きずり出し子爵を救いたかったみたいです。」

「真犯人?」

「真の首謀者は、バロン公爵です。」

なんとなく気が付いていたが、改めてミリアム様からその名前が出てやっぱりと思った。
あのメイドは、雇われて6年の中堅どころのメイド。可もなく不可もなく仕事はきっちりとやるタイプ。お嬢様の身の回りをお世話する何人かの中の一人であるため、シンディー様が名前を知っているメイドではあった。メイドは男爵の6人兄弟の四女で、その男爵家は過去、聖女様に領地を救われたことがあることから熱心な聖女信望者の家系。その教えを聞きながら育ったメイドは噂を信じ切ってクラウディアに憎悪を持っていた。そんな中、偶々お嬢様の付き添いで訪れたザリエル家で見かけたクラウディアの、のほほんとした顔をみて憎しみが爆発した。サビーナの目論見が失敗し油断した一瞬を見逃さなかった。
メイドが突発的に独断で護衛用に持たせていた、ナイフを用いてクラウディアに襲いかかった。ただそれだけで、バロン公爵家は関わっていないというのが調書に書かれている。
だがそうとは言い切れないともある。当のメイドは、死んでしまい真相は闇の中だ。

子爵を脅したという内容は、実際のところパイル伯爵からではない。
パイル伯爵は協力者に教えてもらったいう。その協力者も何人もの人を介しているので、人物を特定するのは困難。
怪しいとされるバロン公爵だが、実証がない限りは取り調べもできない。
そして茶会の2日後にはシンディー様は、結婚されて辺境の侯爵家に向かわれた。怪しすぎる速さだ。
公爵も愛娘の婚姻を期に領地に引き上げ、王都のタウンハウスはいつの間にか引き払っていた。何れは爵位を従兄弟に譲るとかで、そのゴタゴタに調べることが困難となり捜査は打ち切り、わかっている主犯パイル伯爵で確定となった。

まぁ、実質の犯人を逃した形にはなるが、お父様の目が黒いうちは王都に帰り咲くことはないだろう―――――と、ジェイクが言った。

「真犯人はにがしましたが、実行犯、協力者は捕らえましたし、アボット子爵もザリエル伯爵ならなんとか罪に問わないようにできるでしょう。
今後もわたくしとクラウディアが仲良ければ、狙われる率は無いに等しいでしょう」

レティシア様の言う通り!
以前の私は、必要以上にレティシア様に近寄らなかった。それもあって、ヴィクター殿下を巡って険悪な仲と思われた。

だがしかし、今は違う!

レティシア様が神殿や公務で城外へ出た際は、ザリエル家に寄って他愛のない時間を過ごして帰ることが習慣になった。ジツハ今日で3度目だ。
私がレティシア様の離宮に招かれたのは、すでに5回。もう毎度毎度レティシア様を目にする度、魂が浄化されて清らかになるような気がする。
多くの人の目につく場所でも、仲良くしている姿を見せている効果か徐々に見方を変えられていると思う。
たった数ヶ月でこうなったのも・・・

「そうですね、レティシア様は勿論、ミリアム様とも趣味があって仲良くさせていただいていますし。」

レティシア様の聖騎士ミリアム様と、話してみると趣味が似ていた。
そう、恋愛小説好き。
以前のクラウディアが書いていた日記を見せてほしいとこっそりお願いされて、貸し出したのが切っ掛け。
以前の自分で書いた日記とはいえ、記憶がないから人が書いた読み物の気のなって気軽に貸した。
その私の気安さに好意を向けてくれるようになった。ミリアム様の休日の日にレティシア様の話で盛り上がるお茶会を2人で開いたりとして年上のお姉様的な友人となった。
そうして友好関係を広げていって結果、今に至るのだ。

そう思ってニコニコと笑みを浮かべるとレティシア様もミリアム様、ジェイクだけでなく周りにいるメイドも城から護衛で来ている聖騎士様までもが微笑んでいる。

「うふふっ、クラウディアの笑顔を見ると心が温かくなるわ。」

「姉様の微笑は天使ですから・・・」

「愛らしい笑みは、聖女様とはまた違った癒しがありますね。」

みんな口々に褒めてくれるが、話半分で本気にしない。
謹み深い日本人精神デス。

「わたくしの未来の妹がこんなにかわいらしい子なんて、先が楽しみだわ。」

うふふッとレティシア様の美しい口から、朗らかに出された言葉に胸がツキンッとした。

私は、レティシア様と義姉妹にはなれない。
だって、絶対エドワード様と婚約を解消するもの。
だから胸が痛むのは、レティシア様に妹と呼んでもらえないから。

・・・・・・でも、最近見る夢が私を苦しくさせる。

あれは、本当に夢?

それとも・・・






クラウディアの記憶が戻ってる?



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

小話
アボット子爵がザリエル伯爵に恩があるというのは、若い時に新たに国交を結んだ国の王族がアボット子爵の妹を嫁にと強引に連れ去ろうと誘拐されたことがあり、救出に尽力したのがザリエル伯爵。国境を越えるギリギリ前に助け出されて事なきを得た。国交交渉も今くまとめ、誘拐自体がなかったことにしてその後の妹は瑕疵を付けられることもなかった。妹は結婚が年内に決まっており、今は幸せに暮らして感謝を忘れていません。
脅迫は、国に届け出ていない禁止されている薬草毒草を研究のためと密かに領地で栽培していた、ということです。
どこかでこれらを話に入れようと思いましたが、うまく入れ込むことができなかったのでここで失礼させていただきます。






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