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『まて』をやめました 10

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私が目覚めてからもうすぐ3ヶ月。

エドワード様との婚約解消は、本人に会うことがないことで現状のままだが、ちょっぴり強い味方を手に入れた。たぶんは早いうちに進展がみられると期待している。

そしてそして、私自身も進展、いやパワーアップ。
先日わたくし!初のお嬢様の代表的な社交、お茶会を経験しました。おほほっ!

お茶会は、我が家でお母様が主宰したもので、派閥に関わらずお招きしたそれは大規模なのもの。
お母様が主宰挨拶をしたときに、私が元気になったことを伝えたられた。後遺症で記憶があいまいになっており、いままで付き合いがあった人について覚えていないこともあると、程度ぼかして話した。其処此処で痛ましげな、声が漏れ聞こえたが一部からは疑惑的な視線もうけた。
貴族令嬢で記憶がないと、汚点とされる事柄を口にすることを疑っているらしい。
その後、私は主催者であるお母様にくっつき、たくさんの人と会話をして、猫かぶりを発揮してニコニコ微笑むだけ。

クラウディアの容姿は、儚げな夫人であるお母様にそっくりなので記憶がなく不安そうに儚げに微笑みを浮かべる。
それだけで同情の声が多かった。以前付き合いがあった令嬢たちは、どんな関係だったかサラリと教えてもらったりして招待客のテーブルを順番に回っていた。
招待客の中には、あのお茶会を開いた件の家人も招待されていた。
パイル伯爵の夫人とクラウディアと同年代の令嬢サビーナ様。
その二人とも勿論、きっちりと言葉を交わした。
挨拶をしたときに、可愛そうにと口にしながらいびつに歪んだ口元を見て思わずムカッ!とした。顔には出さないで、笑顔で耐えましたよ。

「まあ、あの後帰られてから倒れられたとか。おかわいそうにねぇ」

「伯爵夫人、ご心配ありがとうございます。
わたくしが最後にお会いしたのが夫人とそちらの、サビーナ様だったそうですね。
お茶会では、お二人に熱心に珍しいお菓子を薦められたとききましたわ。
残念です。とても、珍しいもので特別にわたくしだけにくださったというのに、全く覚えていませんの。
とても珍しく希少だと言われて、わたくしだけが食べたと同じテーブルにいた方々からききました。
それなのに、覚えていないだなんて、」

悲しそうな顔をしながら、一旦切り、口の端だけで笑顔を作る。

「本当に、残念ですね。」

夫人の目をみて、平坦な声で伝えた。私の笑顔は、夫人とサビーナ様しか見えていない。ちゃんとわかっている角度だ。
私の話しているうちに顔を赤くしたり青くしたりしていた夫人。ご令嬢のサビーナ様は、苛立ってる。
そんなんじゃ、化かし合いの貴族で生きていけないわよ。

って、お母様に鍛えられました。

お茶会前のお母様の淑女教育のスパルタは凄かった。
王城での一件にお母様から苦言はもらってなかったけど、怒ってたのかな?

まぁ、今回は初めての社交だから、だと思おう。
そうだ、きっとだから厳しかったんだ。
優しいお母様は怒ってない、よね?

そんなわけで、お母様曰くギリギリだがこれなら大丈夫と太鼓判をもらってからの参加。
でも参加して思ったけど、私の方がマナーが身に付いてない?

中には小学生か?と言うように、人の話を聞かずにお菓子とお茶を食べるだけ食べて、挨拶もない令嬢もいたよ。
お母様の方をみたら、その横にいたメイド長がノートになにか書き込んでいた。

あれかな、デ◯ノート、黒◯の手帳ってやつ?

私は見ちゃダメなやつだね。
うん、あんな風にはならないよ。
あれはダメなやつだってわかってます。悪い見本ってやつだよね。良い子のみんなは真似しちゃダメだよって、いうのだね。
わかりました。

で、そのサビーナ様がやってくれました。

「失礼ね!まるで私たちが何かしたみたいじゃない!」

サビーナ様は、顔を真っ赤にして大きな声をだした。
あらまぁ、淑女教育では、貴族令嬢とは人前で、あまり大きな声をださず、大きな口をあけることを善しとしない。といわれたけどなぁ。人前ってのが重要なのよってお母様が追加していってたなぁ。

夫人の方は、顔色は悪くともすました顔をしてそうでしたかしら?と、小さな声で言いかけたのにサビーナ様の大声でかき消された。
これでは、周りから注目されるというのに。

「わたくし、そんなつもりはなくって・・・
のでたくさんの人に聞いた話ですのに・・・」

「誰がそんなことを言ったっていうのよ!」

「サビーナ、やめなさい」

私がしおらしく、お母様から言われていた通りにレースでできた扇を開いて顔半分を隠して目を伏せる。
サビーナ様は、掴みかからんばかりで聞いてくるが、夫人の止めようとする声は届かないようだ。
ちらりとお母様を見れば、順調なようで眼だけでGO!を出された。

周りも見れば十分注目をされているようだ。
こちらは主催、それに喰って掛かっているように見えるだろう。
挨拶でお母様が記憶がなくなったと、言っているのだ。
貴族社会ですこしの弱みも命取りと教わったが、お母様は王女のころからそれを逆手に取るやり方を熟知していた。
弱みをうまく見せることで、それで強気に出れることもある。
今回のそれだ。
記憶がない病み上がりの令嬢というイメージを来場者にしっかり植え付けていた。
そこに大きな声で詰め寄る令嬢。
それを周りはどうみるか・・・

「サビーナ様、わたくしはたくさんの方にきいたというだけで、誰がと限定できないのですよ?」

「だからっ!」

「いい加減にしなさい!」

私の言葉に苛立ちを上昇させたサビーナ様は、目を限界まで釣り上げているのではないかと思うほどにらみ迫ろうとしてた。
そこに周りの目を気にした夫人がサビーナよりも大きな声で止める。
夫人の人生でこんなに大きな声を上げたことってあるのかしら?というほどの大きな声だった。

「サビーナ!クラウディア様は、覚えていなくて残念だわって言ってくださったのよ?
何処に悪意のある言葉があったというの?
ねぇ?」

顔色悪い夫人の声は、どこか震えている。
ふとお母様を見ると、笑顔を保ったままだった。その笑顔の意味するところが私にはわからないが、こちらを見つめる招待客は何かを感じているのか、何人かは夫人と同じく顔色が悪かった。
そして、それをメモっているメイドたち。
このお茶会の後、なにかおこるのかなぁ~。

・・・今、考えるのはやめておこう。

申し訳ございませんといいながら、サビーナ様を引きずるように去っていった。

その後お母様に少し休みなさいと言われて、クレアに付き添われてお茶で喉を潤して休憩をさせてもらった。実際につかれた。心身ともに・・・
人疲れももちろん、お茶会に合わせてのドレス。普段はデイドレスやワンピースなどで、一応コルセットもソフトなのをしていたけど、しっかりきつく絞られたコルセットはきつい。お城に行ったときはもう少し緩かったはずなのに、今日はクレア他数名のメイド軍団によって朝から頭の先から足の爪先まで磨きあげられ、コルセットで絞りあげられ重いドレスを着せられ頭を弄られ、いっちょ前な伯爵令嬢が見た目だけは出来上がった。鏡をみると、うっすら化粧を施した儚げな可憐でふわふわしたかわいらしい女の子がいた。
あっ、私だったと見惚れてしまうほどのできだ。
さすが我が家のメイドたち。プロフェッショナルな出来映え。
この出来に恥じぬよう、気合いを入れ慣れない社交をがんばったよ。
でも、すごく疲れた。作り笑いでたくさんの人目に晒され一瞬の油断もできない状態。そんな状態が普通の生活なんだと貴族令嬢クラウディアってなんて生き辛いだとおもった。
そして、私もその世界で生きていかなくちゃいけなんだなぁ~。

早く、婚約解消できないかなぁ・・・、只でさえ、神経を使う令嬢生活なのに、さらに窮屈な日記にあったようなエドワードに調教された生活なんてできないわ。

そうおもいながら、ぼんやりと銘々で各テーブルで楽しんでいるのを目に移す。
お母様は、夫人たちとの社交に勤しんでいる。流石だわ、お母様がいるテーブルを中心に楽しそうな雰囲気を作っている。

目をめぐらせば、離れたところにポツンと座るサビーナ様が見える。
あの騒ぎの後、夫人に連れられいなくなっていたがいつの間にか戻ってきたのだろう。視線の先で俯いていたサビーナ嬢が顔を上げて目が合うと、此方を憎々し気に睨みつけてきた。
その目がはっきりと憎悪を含んでいることに、不思議に思う。
サビーナ様とのつながりって、日記には名前すら全くなかったはずだけど、なにかあったのかな?

「あの、ディ、クラウディア、様?」

サビーナ様のことを考えていると、不意に声を掛けられた。
声をかけてきたのは、パステルグリーンの髪色の目が少しツンとしている御令嬢。

「アボット子爵家のローラ様です。
お嬢様とは、大変仲がよろしかった方です。」

その顔を見て誰?という状態に、後ろからクレアにポソっと言われた名前。
それは、日記に時々書かれていた名前。
どのくらいの仲なのかは、わからないけどローラ様の目はサビーナ様の様な嫌なものではない。

「どうされましたか?ローラ様。」

そう返した私に、眉がピクッと動き悲しそうに顔が歪む。

「やはり、本当に記憶がないのですね?」

絞り出されたような声も悲しみがにじみ出ていた。
比べてはいけないけど、やっぱりサビーナ様とは全く違う。
本当に親しかったのか、真に心配している感がある。
この人と話してみたいと思って、クレアを見れば無表情だけど小さく頷いた。ということは、家柄的にも人柄的にも問題ないようだ。
お茶会の前に、一人の時に話しかける人がいたらクレアにうかがうようにといわれていた。クレアはクラウディアの交友関係をすべて把握しているらしい。
悪い相手ならば、クレアが合図をくれると打ち合わせをしていた。

「ごめんなさい。できれば前の関係から教えていただけると嬉しいです。」

緊張しながらローラ様にそういえば、どこかほっとしたように表情を緩めて薦めた椅子にスマートに座る。
パステルグリーンというかわいらしい色合いの髪に吊り目ではないが意思の強そうな瞳は落ち着いた茶色だ。容姿的のもかわいいと言うより綺麗な顔をしている。

「改めまして、わたくしはアボット子爵家のローラと申します。
クラウディア様とは、お互いの家を行き来するような仲でしたのよ。
出会いは王城でのお茶会でしたわ。わたくしは初めてのお城で庭に出て迷子になってしまって、そこにクラウディア様が見つけてくださってそれから仲良くなりました。
わたくしはクラウディア様のことはディアと呼ばせていただき、わたくしのことはローラとお互いに敬称なしで呼び合っておりました。」

淡々と聞こえる様な声音で語られるのは、とても事務的な出会いの事柄。
でもクレアはそれを聞きながら、小さく頷いている。内容に間違いはないらしい。

「では、これからもわたくしのことはディアと呼んでください。わたくしもローラとお呼びしてもいいでしょうか?」

「もちろんです!」

私が言うが早いか、言い終わる前に被るように返事が返ってきた。
その声は先程の様な、淡々としたものでなく喜色が窺えるような気がする?

「えっ、と?」

「ごめんなさい。だって、ディアが倒れたと聞いてからお見舞いの面会をずっと断り続けられていたから・・・。
今日初めてその理由を知って、記憶がないってわかっていても、余所余所しいその態度にわたくしは、面白くなくって・・・
貴女がエドワード様と婚約してから変わってしまって、それでまた変わられるんじゃないかと、また距離を取られるんじゃないかと思っていたのよ。」

あ~、良かったっとほっとしたローラ。
もうクレアを確認しなくてもわかる。
本当に仲の良い友達だったんだ。いまは、嬉しそうに二人の共通話題だと過去の話をかいつまんで口にしている。
忘れてしまったのが惜しいなぁ。だって、私、この子のこと好きだ。前のクラウディアもきっと彼女と友達になりたいと思ってきっと後ろをついて行ったんじゃないのかな?だから、迷子になったローラを助けられた、のかな?勝手な想像だけど、記憶にないそれが映像のように想像できた。
彼女の素直そうなとことか、何よりも、顔が好き。

私って、やっぱり綺麗な子好きなのね。

それから、短い時間だったけど他愛もない思い出話をして、次回の約束をして離れた。

「・・・クレア、ローラと私ってとても仲良しだったのね。」

周りに誰もいないことを確認して、小声でクレアに訪ねる。

「はい、気の置けない、心を許された親友と仰っていました。ただ、エドワード様と婚約されてから、女性同士で集まって騒がしくされる女性は好ましくないと言うようなことを言われて会う頻度を減らされていました。お手紙のやり取りはされて交流は保たれていましたが、会えばお帰りになるローラ様をいつも寂しそうに見送っておりました。」

しっかりとわかりやすく教えてくれた以前のローラとの付き合い。
そこまで聞いたら、わかる。
恋に盲目になっていた以前の私は、親友さえも蔑ろにしていたのか・・・
それでも、仲良くしてくれるローラは、本当の意味での親友だったんだ。

「私、ローラと親友になれるかな・・・」

以前の私を寛大に許してくれたローラ。
記憶をなくして、何も覚えていないのにこの子ともっと話したいなぁと思って、勝手に次の約束をしてしまった。後でお母様に怒られるかもだけど、後悔はない。
だって、仲良くなりたいと素直に心が訴えてくるんだもん。
記憶はなくとも、きっと体が記憶して剣を振るえるように、心が素直に求めるものも大切なクラウディアの記憶の宝物だったはずだもの。

「以前のお嬢様も初めてローラ様と会った時に同じことを言っていましたよ。」

お茶会でたくさんの人が周りにはいる中で、本来なら表情を崩さないクレアが柔らかく微笑みいった言葉は、多分、昔も聞いたかもしれない。

「お嬢様が好いた方が、お嬢様を嫌うはずはありません。自信をもってください。」

それは見えない手でトンっと背中をたしかに押してもらった気がする。


心が懐かしいって言ってる。




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