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『まて』をやめました 4
しおりを挟む『〇がつ×にち
わたしは、きょうはじめてこんやくしゃのエドワードさまにあったわ。
かおをあわせたしゅんかん、わたしはここはてんごくかとさっかくしたの。
ひとをこえた、うつくしいひとがいたの。
きらきらしたかみは、ながれるきよらかなかわのようなすんだあおで、おちついたくろいろのひとみもかくどをかえるときらめいてきれい。
いままでみただれよりもうつくしい。そんざいがほうせきよりもきらめいて、ずっとながめていたい。
あいさつできいたこえは、てんじょうのおんがくみたいだったわ。
わたしのこんやくしゃなのよね。
しあわせだわぁ。
こんやくしゃになったエドワードさまのすばらしさをたくさんかいていこう。わたしのきおくにあたらしいエドワードさまがふえていく、そのすべてをあますことなくきろくしなければいけないわ。
たくさんのひとにエドワードさまのそんざいのきせきをおしえていかないといけないわ。
でもジェイクってば、きいてほしいのにあのこはいやそうなかおをするんだもの。しかたがないなぁ、わたしのことがすきすぎてしっとしているのね。
おかあさまにいったら、しすこんになったらどうしましょうっていっていたわ。しすこんってわからないけどわたしもそうならないようにいっしょにジェイクとあそびましょう。
そんなことよりエドワードさまは、とってもうつくしいにくわえて、やさしいのよ!
おはなしするときもゆっくりはなしてくれて、わたしのはなしをにこにこきいてくれるのよ。
わたしエドワードさまのおくさまになるようにきょうからいっぱいがんばるわ。』
そこから延々と『こんやくしゃエドワード様』を賛美する言葉が続いていた。
紅茶を持つ指がきれいだの、組んだ足から覗く足首の細さが芸術作品だとか、眉毛の角度がどうとか襟足が一房だけ反対方向向いていたとか、しまいにはポエムの様な日記になっていた。
僅か5歳でこの内容。クラウディアって変態?じゃないよね。
クラウディアが婚約を結んだのは、宰相を務める名家ヴィンセント侯爵の嫡男エドワード。クラウディアよりも5歳年上。現在は宰相補佐官として働いているとても優秀な人なんだって。しかもとっても綺麗な顔をしているとか?このクラウディアの日記の内容の半分だとしても相当の美形とおもう。
クラウディアは初顔合わせで、そのエドワードに衝撃的、熱烈に一目ぼれをした。
それから、侯爵夫人になるためとマナーと勉強の時間をふやして、エドワードにふさわしい淑女になると頑張っていっていたらしい。
「それでこれが10歳からなのだけどね。
このころからクラウディアが少しずつ、変わっていってしまったのよ。」
そういわれて渡されたのは、パステルグリーンの表装。
開いてみると、少し成長した文字でやはり『婚約者エドワード様』について綴られていた。
『▽月◎日
エドワード様が忙しいと会えない日が続いて寂しい。
寂しさのあまり、5時間おきに手紙を書いて出してしまった。
トマスが疲れたと言うので次は明日にしようと思う。
▽月□日
エドワード様からお手紙が来たわ。
お手紙には、トマスがかわいそうだから手紙を送るのはやめてほしいとあったわ。そして、字の練習をもっとするようにって、本が送られてきたの“貞淑な貴婦人のススメ”ですって。これを、毎日ノートに書き写すようにって書かれていたわ。
最後にこれに描かれている夫人が、名高い侯爵夫人なんですって!っきゃ、私のためにわざわざ用意してくださるなんて嬉しい。がんばるわ。
×月○日
今日は久しぶりにエドワード様とあえたわ。
サロンでお茶を一杯飲んですぐに帰られたわ。時間にして15分。
15分間もエドワード様の顔を見られるなんて幸せ。
毎日頑張っている“貞淑な貴婦人のススメ”の模写でわたくしもお淑やかになったかな?
わたくしうれしすぎて、たくさんおしゃべりをしたら帰り際にエドワード様が、僕は静かに見つめる様な人が好きだよって言われたわ。
キャーッ、わたくしってば迂闊でした。そういえば、美術館では鑑賞中はお静かにって言われますものね。とても恥ずかしい。
エドワード様という美術品の鑑賞中は静かにしないといけないわね。まだまだね“貞淑な貴婦人のススメ”をもっと模写して、次から気を付けるわ。
○月×日
今日でエドワード様と婚約して1826日。
記念すべき日ね。
でも残念だけど今日の予定はキャンセルされたわ。お姉様の付き添いですって、仕方がないわね。レティシア様はわたくしのお姉様になるんですもの我慢しないと。
ああ、でも会いたいわ。
双子の美しいエドワード様とレティシア様が並んだ姿が見たかったなぁ。
いいえ、ダメよ、あんな美しい人たちとわたくしが一緒にいては、時空が歪んでしまうわ。やっぱり美しいものは距離を置いてみるのがいいのよね。この前に会った時にエドワード様に言われたもの、仕事をはじめたばかりでいそがしくあまり出歩けないから、貴女は自宅で待っているようにといわれたわ。ああ、エドワード様ってば、わたくしのことをそんなに考えてくれているなんてわたくしは幸せ者です。久しぶりに会うからこそ貴女と過ごせるですって、もう、会う度に思いが募っていきますものね。
△月◎日
お友達のローラに誘われて、久しぶりにお茶会に参加したわ。
ナイシェル子爵様のご令息の婚約者の御披露目。婚約者のカレン様はかわいらしいわ。お二人の馴れ初めを聞いたら、カレン様がお散歩中に落とされたハンカチをひろってとどけたんですって。ナイシェル子爵子息は、その刺繍が綺麗でお礼なら刺繍されたハンカチが欲しいってねだられて、そこから交流されてプロポーズしたって。キャッ、なんて素敵な出会いなの!わたくしたちも婚約者に刺繍したハンカチをプレゼントしましょうと話して、帰って早速ハンカチにヴィンセント家の家紋とエドワード様の名前を刺したの。一週間で大体50枚くらいかしら?時間はいくらでもあったから、じっくり丁寧にできたの。そのなかでも更に上出来な20枚をエドワード様にお届けしたのよ。喜んでくださるかしら?
△月×日
エドワード様に送ったハンカチの反応がなにもないわ。あれから10日も経ってるのに。
忙しいのかしら?
次はいつ会えるのかしら?
ハッ、エドワード様は次に会ったときにハンカチのことを直に伝えてくださるつもりかも?きっと、そうよ!
うふふっ、もっと褒めてもらえるように刺繍の練習をしましょう。お父様もジェイクもエドワードだけ狡いって言ってたから刺してあげましょう。
エドワード様は、私の刺繍したハンカチに感動されて、手に口づけてくださるわ。王子様みたいに・・・。本物の王子様のヴィクターよりも王子様が様になるわね。
ああ、楽しみだわ』
ナニコレ?
こんな内容が延々と続き、しゃべるなって言われ、会う日を減らされて、さらにはドタキャン?
プレゼントにもお礼どころか、なんの反応もなく使われている形跡もないみたい。
それでも喜んでるって、なんで?
ええ~、そんなにエドワード様っていい男なの?
読み進めていくうちに、クラウディアは、前向きに書いてるけど本当はたくさん我慢しているみたい。
エドワード様といつかピクニックにいきたい、婚約者参加OKな茶会に一緒にエドワード様の瞳や髪色のアクセサリーやドレスをきて揃って参加したいって書いてある。デートはこんなのがいいとか、着飾ったクラウディアに甘く囁く言葉とか書いてあってだんだんと凄い恋愛小説のような内容になっていってた。たまに妄想日記の文字が滲んで最後に小さく『会いたい』って書いてある。滲んでるのは、涙だよね?涎とかじゃないよね?
会えない鬱憤をたくさん妄想恋愛日記を付けることと、ジェイクとすごすことで耐えていたみたい。
社交に出て貞淑な淑女といわれるように、日々猫かぶりで耐えていたのに会えない日々。
会ってもお茶一杯の時間しか逢瀬がないなんて、ひどい!
私はさらに他の日記も見ると内容は似たり寄ったり。我慢してるのがかなり伺える内容だった。
そして、最近とみられる日付に驚く内容が書いてあった。・・・うわぁ、最低最悪なヤツらだわ。それでも諦めきれない恋心。言われた通りに我慢する日々。芯が強いなぁ、クラウディアは・・・
だけどエドワードの美しい顔をみたら、そんなのどうでもよくなってまた次会うまで我慢しようってなる。
クラウディアってば、本当に純粋な子なのね。
なんだか可哀そう、って私のことなのよね?
うわぁ~、痛いわぁ。いろんな意味でイタイ子だわ。
このエドワード様ってやつの腹黒さに気が付かないなんて。
「僕はエドワードなんて嫌いだ。
姉様は、本当にたくさん頑張ってたのに・・・」
婚約者に構ってもらえない寂しさを、ジェイクを愛でることで紛らわしていたらしい。
愛でかわいがった弊害で、お母様の危惧した通りのシスコンになったようです。
「クラウディアはね、エドワード様に言われるがままにおとなしい子になって行って・・・淑女としては正解の行動なんだけど、我が家は各国に繋がりがある家柄なのよ。各国を回って必要なのは、大人しいだけの女性じゃない、どの国にも対応できて馴染める柔軟に強い女性なの。
なのにエドワード様から求められるのは、屋敷の中で主人をまつ大人しく口答えのしない貞淑な夫人なのよ。
我が家の教えとは全く違って、クラウディアが辛そうで・・・
でも今のクラウディアは、エドワードのことを知らないしなんとも思っていないわよね。
いままで覚えた“貞淑な貴婦人のススメ”の内容も覚えていないでしょ。」
お母様曰く、外での猫かぶりだけじゃなく家の中でもいつエドワード様の訪問がいつあってもいいようにと、大人しくしようと我慢していたらしい。
たまに、ジェイクと遊ぶときだけ、昔のように元気な様子だった。
訪問を待っていたと言えば、外交の仕事で家族で国外に行く際も留守番を自ら言い出して家に残っていた。家族はそれが一番悔しいことだったという。
この婚約は、格上の侯爵家からの申し出で断ることができなかったらしい。
宰相から直々に婚約申込証をもってこられたのだ、その場で頷かないといけないほどの圧力をかけられた。
なんとか回避できないかと、策を巡らせていたなか初顔合わせで、クラウディアがエドワードに一目惚れをしてしまったから婚約は成立してしまった。
クラウディアが幸せならばいいかと、暫くは家族や周りは見守ってきた。
「うん、全く。
この日記に書いてある通りなら、顔は美術品みたいに美しいけど性格は自分本位って感じがするわ。
今のところ、嫌悪は抱いても好意は微塵もないわね。」
自分の日記というより、なにかの読み物、いや、ポエムかな?を読んだ感想だ。
物語のヒーローならありえない。
いくら顔がよくても、こちらを見てくれない男はごめんだし、ヘタすればモラハラな夫に成りかねない危険人物はお断り。
「そうだよね!今の姉様ならそういうと思ったよ。
エドワードは、嫌なヤツだよ。顔は確かにこの国一番といっていいくらい美しいけど、性格は最低なんだ。
よかった、姉様がまたアイツに興味をもったらどうしようっておもったよ。」
「あらっ、興味はあるわよ。」
「へっ?」
お母様との会話を神妙な顔で見守っていたジェイクが私の返事をきいてほっとしたけど、いや違うぞ。
「だって、美術品みたいで国一の美形でしょ?一度は見てみたいわよ。」
性格が悪くてもそれを許してしまう程の美形。見るくらいならしたいわよ。
「ダメダメ!絶対ダメ!」
ジェイクは、私の感想を聞いたとたん、座っていた椅子を倒して立ち上がり、顔を真っ赤にして反対をした。
「姉様は面食いだからまたあの顔をみたら、誑かされるに決まってる。あの顔によわいんだから!」
興奮ぎみに息荒く、宣ってくれたものだ。
まあ、日記を読むかぎりその心配はわからなくもない。私だって、いまの気持ちが変わるかわからないわね。
なにもおぼえていない私は、大丈夫とは自信をもって言うのは難しい。
「まぁ、そうねぇ。クラウディアってば、本当にエドワード様の顔がとっても好きだったものね。」
のんびりとジェイクに同意するお母様。
そうかぁ、周りから見てもそうなのね。顔かぁ。やっぱ、一度は見てみたいなぁ。
「でも今、何を言っても意味がないわ。
わたくしとしては、クラウディアが昔のように本音で会話をしてくれるのが嬉しいわ。」
「そうよ。本音も何も今の私には淑女として学んだことってのを覚えていないし・・・。
ねえ、お母様、この婚約を解消にむけて動いてみたらどうかな?私嫌だなぁ、俯瞰してみたこの日記は、読み物としてなら面白いけど私に降りかかるのはごめんだわ。」
だって、こんな日記に書かれてるみたいに、エドワードという餌を目の前にぶら下げられて待てさせられたみたいに躾けられるのなんて、今の私なら嫌だわ。
なら、な~んにも覚えていない忘れてしまいました。今更、覚え直すのは無理で~すって、ことにしたらどうかな?
「うふふっ、そうね。クラウディアがエドワード様のことを聞いても何も思い出さないのだから、それがいいわね。」
ニコニコと同意するお母様の横でジェイクが晴れやかな笑顔て頷いていた。
「よかった、姉様が思い出さなくて良かった。」
イヤイヤ、記憶がなくなって思い出さなくてよかったなんて普通の家族は言わないよ。
だけど、そんな家族だから私が記憶なくても憂うことなくすごしてるのよね。
「お父様に相談してみましょうね。」
目覚めてから変わらぬ、穏やかな微笑みで3人頷き合った。
ほっとした私にお母様は、ついでとばかりに言ったのは、「聖女様は、エドワード様の双子の姉なのよ。」だった。
お礼は言いたいけど、最低婚約者の身内とは、複雑だわ。
◇
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