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7◇あやして(愛して)してみませんかぁ?◇
しおりを挟む「アイリ!!!」
魔石を急いで箱に戻していると、焦ったようにノックがあり同時にドアが誰何を待たずに開いた。
「あああぁぁぁぁぁん、まっまぁぁぁぁあ~」
開いたドアから打ち上げられた魚ように暴れ、顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃに濡らして顔を真っ赤にして泣きわめいている我が子。・・・を一生懸命落とさないように必死に抱えているフィオナさん。
その後ろをヒューバートさんが付いてきている。
「あらあら、マナどうしたの?」
すぐに立ち上がり、フィオナさんからマナを受け取る。
部屋に入り私の顔をみた瞬間から、体いっぱいにこちらに手を伸ばしているマナ。その手を取ってマナの体を抱きしめるとどのくらい泣いていたのか背中だけでなく全身が汗ばんでいる。
私の腕の中でぐすんぐすん言って、まだ泣き止みそうにない。背中をポンポンたたいて頭を撫でたら顔を胸に押し付けてきた。
着ているブラウスにじわりと、涙だか鼻水だかわからない水分が染みついていく。
「ごめんね、夢中で遊んでたんだけど突然ママって泣き出して・・・」
マナを私に渡してほっとしているフィオナさんだけど、もう疲れたぁって思わず漏れ出た声がどんな状況だったか物語っている。かなりなだめてくださったんだろうなぁ。
ついてきたヒューバートさんも一緒でさっきまでひどく焦って狼狽えていた。今は落ち着いているというよりも憔悴しています。一体どのくらい泣いていたのか。
「魔法で出した動物と部屋で追いかけっこしていたんだけど、気が付いたら眠そうにしてて・・・思えばよく目を擦ってたんだよなぁ。ごめんな」
いつもなら早くに気が付くのにぃと、うなだれるヒューバートさん。
いや、寧ろこちらがマナの世話を押し付けてたわけで、皆さんは討伐後でお疲れだっただろうに、本当に申し訳ない。
マナにも無理をさせたみたいで・・・本当にダメな母ちゃんでごめん。
「謝らないでください。そんな」
「まぁっまぁぁぁ。やあぁぁぁっ!うえ~ん、ぎゃぁ~!!!」
私がフィオナさんたちに顔を向いて話をしていたら、マナの小さな手で私の髪を引っ張り、泣き止みそうだったのに再燃したみたいだ。邪魔だったからまとめて編んだ髪を、マナの小さな手でつかみやすかったみたいでしっかりぎゅううって握られてます。泣きながら振り回したら痛いよ母ちゃん。放置していたのは悪かったけど、痛くて母ちゃんが泣きそうだよ。
もう、ギャン泣き。
こうなるとしばらくは泣き止まないし、何よりも自分以外に意識を持っていかれるのとても嫌がる。
いくら大人の就寝時間に早いとはいえど、夜は夜で。このままこの大音響のギャン泣きを部屋に響かせるのはよくない。
他の部屋にだって響いているだろう。
「っ!痛いよマナ。もう、すいません私ちょっと表で泣き止ましてきます。」
そういって、ベッドの上に投げ出していた外套をマナにくるりと巻いて寒くない様にしてから返事も聞かずに部屋を急いで出た。
「まっまぁ~、まぁまっ!わあ~ん!!!」
「はいはい、ママはここにいますよ。私がママですよ」
マナを抱っこしているのが、貴方のママですよぉ。眠いのに泣きすぎて、誰に抱っこされているのかもわからなくなってるのかな?あんまり泣き続けるとマナの体にもよくない。
そのまま、足を緩めることなく外に飛び出していった。
「あっ、アイリ!」
部屋を出るときにフィオナさんの声も聞こえたが、その声を確かめる間もなく、というよりももうマナの泣き声がかき消してしまった。
廊下を急いだ時も誰かの声が聞こえたような気がして、そちらを見ようとしたがマナに思いっきり髪を引っ張られて、とにかく急いで建物の外にでた。
ギルドのあるのは、町の中心部ですぐ傍に大きな噴水広場になっている。
周辺に宿屋や酒場、お店もある。夜だけど明るい。
人通りもそれなりにある。
それが安全なのかどうかと言われれば、はっきり言って以前のニホンジンの感覚で夜道を歩くなんてとてもできないような治安状況の世界だ。
それでも、まだこのギルドあるような大きな通りで問題を起こそというような人は少ない。
尤も、一歩路地を入ってしまえば状況はがらりと変わってしまうが・・・
安全の為、私はいつもマナを連れ歩くときは防御の魔法を1メートル範囲でしている。
悪意ある人間には、こちらを認識しにくい魔法もあわせてかけておく。
外に出たことで空気の違いを感じたのか、少し落ち着いてきた。ぐすんぐすんとまだくすぶってはいるが、このまま抱っこして噴水の周辺を歩けばもうすぐ寝てしまうだろう。
なにせぐずった一番の原因は、寝ぐずりなんだから。
魔獣退治をした日は、たまにこうなるときがあった。
それこそ最初の討伐の時はひどかった。
私も疲れているのにさらにマナも環境の変化に疲れていたのか、その頃は一晩中なんてこともあって、何度マナを抱えて朝日を見たことだろうか。
最近はそんなこともなかったから安心してしまっていた。
ポンポンと優しく背中を撫で、昔、母が歌っていた子守り歌を小さく口ずさむ。
背を撫でるリズムに合わせて、体を揺る。
この子がうまれてからいつもしている寝んねのルーティン。
こうしてみると、生まれた時から同じことをしてる。
フニャフニャのちっちゃな赤ん坊で生まれてきて、でも体に似合わず大きな声で泣く子だった。
泣いたら大きな声だけど、実はさほど泣く子じゃないのよね。
いつでも、泣く前に誰かがマナを抱っこしていたから?
私とマナの周りには本当にいい人に囲まれてる。悪意を向けてくる人だって居たには居たけど、いつも誰かが助けてくれてた。
ありがたいなぁ。
一番はアシュトンさん達だもんね。
マナもみんなに甘えて、抱っこのおねだりが強気なんだよなぁ。
随分と重くなっても、抱っこのおねだりは健在だもんな。
ジェフさんはこのくらい筋トレにもならないと、腕に乗せていた。
なんか、昔見たアニメのような絵面で、微笑ましかったなぁ。
もう、あと数日でこの子も3歳になる。
体に全体重を預け安心したように緩んだ顔をして、いつの間にかすーすーっと寝息を立てだしたマナ。
マナの重さがそのまま私をこの世界に位置付けてくれた。
この子がいたから私はこの世界で生きていこうとおもった。
この世界で生きてきた記憶がなく、なぜ瀕死の状態でいたのかもわからなかったあの頃。
自分がこの世界で存在する意義がわからずに落ち込みそうになった時にわかったマナの存在。根なし草のような浮いた状態の私が、この世界で生きていかなければいけない理由をくれたマナ。
間違いなく私の唯一、存在を肯定できる存在。家族というつながりが私の存在をここにいていい理由を作ってくれた。
この子がいなければ、私の精神状態はどうなっていたのかな?
この世界の私がどんな存在だったかもわからない。悪女だったかも犯罪者だったかもしれない、そんな不安定な状況だった。
今みたいに魔法を使ってみようって前向きに思ったかな?
タラレバの話をしてもしょうがないけど、今、マナがいてくれるからこそクレイさんのあの森から出ていこうと思えたのも間違いがない。
いなければ独り立ちしようなんて、全く思わなかったかもしれない。
だって私は普通の、ごく普通の人間だもん。
未知の異世界で「ワクワクする!!!」なんて、漫画のじゃあるまいし無理にきまってる。私の常識がどこまでこの世界に通じるのかもわからないし、ましてやこの世界には魔獣が多くいるんだもん。
でも、今はマナがいる。
マナがいるからなんでもできる。いや、できないといけないんだ。
この世界での生活基盤を私がきちんとしておかないと、大きくなった時にマナが困るもん。
───マナの為
──────マナがいるから頑張れる
言い訳だってわかってるけど、この腕の中の重さと体温が私を動かす原動力になってくれているのは間違えがない。
愛しくて愛しくて仕方ないマナ。
マナが私にすがって生きてるんじゃない。
私がマナにすがって生きてるんだって自覚がある。
眠ってしまったマナの重さと体温が愛おしくて、もう完全に眠ってしまったのにゆらゆらずっと揺れていたくなった。
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